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『インボイス制度』 一番お得な消費税申告方法をシミュレーション

 2022年10月から開始するインボイス制度にどの様に対応しようか迷っている方も多いと思います。
 今回の記事は、免税事業者である飲食業者(個人事業主)がインボイス制度を契機に、消費税の納税を始める場合、一番お得な方法をシミュレーションしています。納税の方法は①原則課税、②簡易課税、③負担軽減措置の3つを想定しています。
 ただし、本記事のシミュレーションは極めて簡便的に計算していますので、厳密に計算すると一番お得な消費税申告方法が異なる場合があります。インボイス制度の対応方法は税理士までご相談の上、ご決定ください。

消費税制度の仕組み ー原則課税の理解ー

 今回の記事はインボイス制度について簡潔に記載しますが、消費税制度の概要を理解する必要があるので、消費税制度の概要も設例で記載します。

・飲食店Xは課税事業者(消費税の納税義務のある事業者)
・飲食店Xは課税事業者から材料を仕入れ、顧客に料理を提供している。
・飲食店Xの当期の仕入は55万円(うち、消費税5万円)
・飲食店Xの当期の売上は110万円(うち、消費税10万円)
・飲食店Xは売上分の消費税10万円と仕入分の消費税5万円との差額5万円を国に納付する(これが原則課税)。

消費税制度の仕組み ー簡易課税の理解ー

 原則課税は、顧客から受け取った消費税10万円Ⓐと仕入先に支払った消費税5万円Ⓑとの差額である、5万円を国に納付する制度でした。
 簡易課税制度は、仕入先に支払った消費税を集計せず、顧客から受け取った消費税Ⓐにみなし仕入率を乗じた金額をⒷの金額とする方法です。
 簡易課税制度は、前年及び前々年の課税売上高が5,000万円以下の事業主が選択できます。一度、簡易課税制度を選択すると2年間は簡易課税制度を継続する必要があります。
 飲食事業者のみなし仕入率は60%である事が多いため、今回の記事では60%を使用します。飲食事業者でもみなし仕入率が70%である場合もあります。この点は税理士や税務署に相談してください。

・飲食店Xは課税事業者
・飲食店Xは課税事業者から材料を仕入れ、顧客に料理を提供している。
・飲食店Xの当期の仕入は55万円(うち、消費税5万円)
・飲食店Xの当期の売上は110万円(うち、消費税10万円)
・飲食店Xは売上分の消費税10万円と売上分の消費税10万円にみなし仕入率60%を乗じた金額6万円との差額4万円を国に納付する(これが簡易課税)。

 上記例の場合、原則課税より簡易課税の方が1万円お得になっています。  
 また、仕入先が免税事業者である場合、原則課税ではⒷの金額が減ってしまいますが、簡易課税の場合、仕入先が課税事業者であるか免税事業者であるかは関係ありません。仕入先に免税事業者が多い場合は、簡易課税の方がお得な場合があるかもしれません。この点が分からない方は、別の記事『インボイス制度ざっくり解説~免税事業者はインボイス制度に対応しなくてもよい編~』をご参照ください。

インボイス負担軽減措置

 インボイス制度開始前に免税事業者であった方が、インボイス制度を契機に課税事業者となる事を選択した場合、消費税の納税額を売上分の消費税の20%とする負担軽減策の導入が2022年12月現在検討されれている。
 正式名称は『小規模事業者に対する納税額に係る負担軽減措置』という。この負担軽減措置を使えるのは、前年及び前々年の課税売上高が1,000万円以下の事業者であり、2026年9月30日の属する課税期間まで適用できるとされている。
 この負担軽減措置における消費税納税額は、簡易課税と同様、売上分の消費税額に料率を乗じることにより計算される。しかし、簡易課税を適用する事業者で、複数事業を営んでいる方は各事業のみなし仕入率を各事業の売上に係る消費税に乗じることにより計算されが、負担軽減措置の場合は、複数事業を営んでいても用いる料率は20%のみである点が異なる。

各制度における消費税納税額シミュレーション

 各制度における消費税納税額のシミュレーションを下記設例で行います。
 また、設例は固定資産の購入がある場合と無い場合で2つあります。

設例①
①売上高11,000円(うち、消費税1,000円)
②仕入高  5,500円(うち、消費税 500円)
③固定資産の購入無し
④みなし率は簡易課税の第4事業を採用し60%とする。

 簡易課税のみなし仕入率(60%)よりも原価率(50%)が小さければ簡易課税が有利が有利といえます。なぜならみなし仕入率(60%)を採用することで、実際の仕入率(原価率50%)よりも多くの仕入があったことにできるからです。なお、ここでの原価率とは便宜的に、(仕入+販売費一般管理費)÷売上高で計算しています。
 また、軽減措置の税率(20%)が簡易課税みなし仕入税率(60%)がよりも小さければ軽減措置が有利となります。通常であれば、飲食事業者にとっては、軽減措置が最も有利となります。

設例②
①売上高11,000円(うち、消費税1,000円)
②仕入高  5,500円(うち、消費税 500円)
③固定資産の購入 4,400円(うち、消費税400円)
④みなし率は簡易課税の第4種事業を採用し60%とする。

 簡易課税のみなし仕入率(60%)よりも原価率(50%)が小さくても、固定資産の購入を多額に行った場合には、原則課税が有利な場合があります。この点が設例①と異なる点です。
 飲食事業者で、新規店舗開店・店舗リニューアル等で多額の固定資産を購入する予定がある場合、原則課税が有利な場合があります。この点は、税理士に相談の上、申告方式を決定することが望ましいと思います。
 また、簡易課税及び軽減措置においては、固定資産購入分の消費税は売上分の消費税から控除できません。

まとめ

 多くの飲食事業者にとって、軽減措置が最も有利な申告方法となることが多いと思います。しかし、新規店舗開店・店舗リニューアル等で多額の固定資産を購入する予定がある場合には原則課税が有利になる場合があります。
 消費税申告時に軽減措置を使用する場合、申告時に軽減措置を選択するだけで良く、税務署に軽減措置の届出書等の提出は求められない見込みとなっています。
 また、軽減措置の導入が見込まれるため、多くの事業者にとって簡易課税が最も有利となる場合は無いと思われます。軽減措置は2026年までしか使えませんので、2027年以降の消費税申告においては、原則課税と簡易課税どちらが有利かの判定が必要になります。
 ご不明な点は、下記HPの無料相談よりお問合せ下さい。


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