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ドサクサ日記 10/24-30 2022

24日。
新幹線や飛行機での移動が増えると、尻がバキバキになる。高速移動による重力の負荷が尻の筋肉を追い込むのかもしれない。筋トレで負荷をかけている場合の追い込み感ではなく、借金で首が回らなくなっていくときの追い込まれ感。乳酸の残留ではなく、単純な緊張。自分で揉んでも伸ばしても解消されない。重力というのは恐ろしい。無重力空間では尻の肉は硬くならないのだろうか。

25日。
自分らしく創作しているつもりが、プラットフォームやメディアの制約に合わせてそのフォルムを自己規制してしまうこと。アルゴリズムのなかで跳ねるために必要な所作が、自分にとって本当に絶体絶命の表現なのか、あるいは無邪気な満遍のLOVEなのか、その点については何度でも問い直したい。切実さを笑う人はたくさんいる。同じ笑うでも、俺は仲間たちと大爆笑したあとで半泣きになりたい。

26日。
縁に恵まれて(巻き込まれて、とも言う)、予算の大きなプロジェクトを進めようとしている。自己資金を自分だけに使えば、向こう数年は全身がツルツルになるまで脱毛するような暮らしができるかもしれない。しかし、音楽を売って得た収益に、俺は負債感を感じている。これは多くの人からの借り物だろう。なので、なるべく音楽に返したい。上手くいけば、近いうちに多くの人に「また阿呆なことをはじめましたね」と言われるような報告ができるかもしれない。その場合には、多くの人に少しの支援をお願いしなければいけないと思う。ワクワクと、ドキドキと、緊張が押し寄せる。プロジェクトが実現する日のことを思うと胸が躍る。しかし、それにかかる費用のことを考えると大丈夫かしらと不安になる。あらゆる意味で負債だらけの人生だけど、死ぬまでには綺麗さっぱり返し終えたい。

27日。
横浜アリーナ公演。とても素敵な夜だった。何度も素晴らしい夜をこの会場で過ごしたことがあるが、そのどれと比べても引けを取らない時間だったと思う。2daysのチケットを売り切った頃は精神的に追い込まれていた。四方八方からの言葉に引き裂かれて、自分の実存以外に信じられるものがなかった。幸福度や充実度で言えば、今のほうがいい。でも今日の時間に執着せず、また新しい場所を目指したい。

28日。
昨晩もらったクロワッサンを食べる。調べてみると、クロワッサンはむちゃくちゃにカロリーが高い。見た目的には、僕らでよかったら小腹の隙間をお埋めしますよ的なサイズだと感じる。しかし、結果的には汁を完飲したときの饂飩くらいのカロリーを摂取したことになり、小腹の隙間を埋めたはずのクロワッサンは腹回りの贅肉へと変化していく。簡単に貸してくれる金融会社みたいな食べ物で恐ろしい。

29日。
2000年代の前半、京急久里浜あたりを散策していたところ、不意に魔女の仮装をしたペコちゃんを見かけた。まだハロウィンが日本に定着する前だった。ショックを受けた。これはクリスマスのように抗うことのできない祭りとして定着する日が来るのだろうと思った。何しろそこは三浦半島の先っちょであった。黒船は来航していたのだ。十数年後、用事で乗った始発の電車はゾンビと悪魔だらけだった。

30日。
大阪の山奥、豊能町のEMMA COFFEEにて、ザワさんが企画したコンサートに出演した。共演はLOSTAGEの五味君と8ottoのマエソン。とても楽しい夜だった。LOSTAGEの五味君の演奏や音楽は、彼の優しさや面倒臭さを丸っと含めて、人生がそのまま音楽になっているように感じる。切実で等身大なメロディと言葉選び。身体も感情も丸ごと振るわせるような発声で、日本のインディロックのひとつの宝物だなと思う。マエソンはすべてにおいて無茶苦茶で面白い。ど真ん中にはピュアだったりイノセントだったりという言葉が、何の衒いもなく置かれている。それは多くの人があっさり忘れてしまうことだ。バンドメンバーのみならず、共演者や関係者が「何がしたいねん」と苦笑いするようなタイミングでも、彼は奔放に音楽や思考や行動の真ん中から帰って来ない。トークを仕切ってくれたFM802の土井ちゃんは「なんかようわからへん気持ちやわ」みたいなことを、マエソンの演奏後に何度も口にしていた。ラジオMCをも言葉の原野に連れ去る、なんとも不思議な時間だったんだなと思った。終演後はEMMA COFFEEさんのはからいで近所の「たこ その2」という店の巻き寿司を食べた。たこ焼き屋で作られているという寿司がたまらなく美味しかった。屋外に出るとはっきりと肌寒い。空には満遍の星。