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2023冬至日記

年の瀬なのに東京出張。先月からスーツを着る機会が急激に増えた気がする。朝早くから新幹線に乗り、挨拶回りでくたくたになる。移動中に見かけた小学生の男の子、ランドセルにDEAN & DELUCAの水筒だか折り畳み傘だかをくっつけていてちょっと目を見張った。東京。

夕方からが本番の、会議で3時間以上みっちり打ち合わせ。夜は移動して妹と食事。牡蠣の美味しい店で労ってくれた。帰り道は凍えそうなくらい寒い。普段からこんなに寒いのか、ちょうど寒波が来ているのか、判然としない。とにかくぶったおれそうなくらい疲れていた。

翌日は自由時間に。早稲田大学国際文学館 村上春樹ライブラリーには以前から行きたかったので、安西水丸展に合わせて行ってきた。電車で座れず、立ったまま半分寝たような状態で早稲田に到着。朝から左腕が痛いのは、性能のたいしてよくない十年前のキャリーケースを連れていて筋肉痛だから。しかし受付で預かってもらったので、館内をゆっくりと鑑賞することができた。

翻訳も含めて関連作品がずらっと並んでいるとけっこう迫力がある。自分の本がこんなにたくさん刊行されるというのは、正直どんな気分なんだろう。オーディオルームなんかもある。村上さんがこの建物の企画が持ち上がったときに「いいですけど、オーディオ・ルームをつくってください。そんなに立派なのじゃなくていいから」と注文しているところを想像した。「地下のカフェではドーナツを出そうと思います」と言われて苦笑するところを想像した。

安西水丸展。

カラートーンという画材を使っていることを初めて知った。『中国行きのスロウボート』の表紙も、そう言われてみればこの静物画の感じは安西水丸だったのか。安西水丸の静物画のは結構好きだ。線画も好きだが、色をつけると鮮やかな作風の人なのだなと思う。以前は和田誠と区別がつかなかったが、今年は和田誠展にも行けたので、そのあたりの解像度がぐんと上がった気がする。

最後にカフェ橙子猫でドーナツとコーヒーを頼み、今ここで歓談している人たちはみんな村上春樹を読み村上春樹に好意的な人たちなのだろうなと思うと、得難いような…妙な気分になるなどした。
グッズを見てみると『中国行きのスロウボート』の表紙絵のマグカップが売っていて、3秒ほどかけて家にあるマグカップの数をかぞえたあと、わからなくなって購入を決めた。

帰りの新幹線が決まっていたので、すぐに高円寺に移動してしまって、そぞろ書房さんの近くで昼ごしらえをすることにした。ちょっと時間が早すぎたので、そこに見える行列に並んでちょうどいいだろうと判断。複数連れや若い人たちがおしゃべりしながら待っている列で、恩師が上梓したばかりの『水滸伝 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』を読みながら待つ。ラザニアも美味しかった。

そぞろ書房さんでは今年の秋の新刊『詩集 水の反映』を置かせてもらい、何冊か購入。今年の5月に来た時よりパワーアップしていて関心する。今年はたまたま2回も来れてそのたびに新刊を置かせてもらっているけれど、めったに来れないから、来れた時にはここぞとばかりに買い物をしようと思う。予定通り新幹線に乗って帰宅。

ザジゲット
最近買った新刊・古本 クセがある

翌日はすこしのんびり起きて、午後に恋人と『PERFECT DAYS』を観に行った。京都シネマだから四条で降りなければならないのに、烏丸御池で降りてアップリンクの前まで行って初めて自らの過ちに気づき、次の電車を待たずに四条まで必死で歩いた。映画館で落ち合った恋人も「実はアップリンクと間違えてて」と言っていて笑いあった。
よい映画だったと思う。邦画とも洋画とも言えない微妙な味わいと、これが全世界に2023年の日本人、これですと言われるのは大いに困惑するけれど、それはともかくとして・・・。

恋人からのクリスマスプレゼントのセンスが独特だったので、目に入るたびに笑ってしまう。両方、今の自分が欲しいもの、とのこと。

出張の成果の分、仕事納めの週は慌ただしかった。職場でいろいろあって心の底から疲れてしまい、プライベートのタスクがこなせずに焦りながらも、観念して毎日をやり過ごし、仕事納めの日はほとんど怒りをエネルギーに変換してなんとか仕事を終わらせたような感じだった。

冬休み一日目、どうにか起きて冷蔵庫を整理し、久しぶりに朝ご飯を食べた。整体でメンテナンスし、この日までに溜まっていた福引券をドラッグストアで使った。カウントされなかった福引補助券は次の順番の男の子に譲ったが、役立ったかどうかはわからない。帰省の高速バスの中ではほとんど眠っていた。

実家に到着し、スーパーに茄子も蕪もなかったと言った母に妹が「信じられない、東京なら確実に売ってるのに」と嘆いていたので、おつかいに行った。最寄りのスーパーがアオキになっていると言われて最初はなんのことだかわからなかったのだけれど、なんとドラッグストアになっていた。申し訳程度に生鮮食品を扱う、でかめのドラッグストアになっていたのである。昔は調理場で魚を下ろしたり総菜をつくっていたように思うのに、そのスペースも売り場に拡大されていた。茄子は見つかったけれど、これは結構ショックだった。ちなみに、ちょっと前から進出してきた大手スーパー「にしがき」のほうは舞鶴から撤退してしまったらしい。舞鶴市民は見限られてしまったということらしいのだ。ドラッグストア併設のささやかな生鮮食品だけで食卓を賄わないといけない日がくるのか……と思いながら街を自転車でぶらぶらしていると、すっからかんの公衆電話を見つけた。張り紙には「利用頻度による撤退のお知らせ」とあった。維持費だって馬鹿にならないのだろうとは思うが…。
さらにぶらぶらしていると住宅街の無人販売所でピンポイントに蕪が売っていたので、百円玉を投入して購入した。
夜は親が友だちとやってみておもしろかったというボードゲームを家族でやって盛り上がる。なんだかすごく年末らしい。

翌日は今後のことについて初めて家族会議をした。妹はもう嫁いでいるため、自分の50年後、無職で独りの場合にこの家で猫を飼って過ごす想像をしてみた。けどそれをするには気持ちの整理や覚悟にかなり時間を要する気もする。正月用の花を立てる。花を立てるのは久しぶりだった。

大晦日は雨が降り、倉庫と化している家屋からLPや本を発掘した。去年プレーヤーを買ったから、少しずつ集めようと思っていて、両親が昔買い集めたLPを聴いてみたかったのだ。

一日が過ぎるのが早く(一年、と言い換えてもよい)、日付の変わった直後、玄関を開けて海上自衛隊の汽笛吹鳴を聞く。また新たな年の繰り返し。

元日。昼食後は実家の氏神さんに初詣。おみくじは今年も大吉。去年はおみくじを三回引いて(氏神さん、京都に戻って八坂神社、それから二月に行った厳島神社でも)、三回とも大吉だった。なんとなくそれに背中を押されて本は3冊刊行できたし、それを携えて文学フリマには4回出展した。本当に遠くまで行けた年だった。今年の前半は転職したいので、すこし身辺が落ち着かないと思うのだけれど、基本的には同じくらい意欲的でいたい。去年はちょっとばかり無理をした気もしなくないので、無理なく着実に進めたいと思う。

2023年の振り返りと2024年の目標、日記を書きながら頭の中を整理する。友人から届いた手紙を読み、母親の本棚から拝借した『ぼくが電話をかけている場所』(レイモンド・カーヴァ―/村上春樹訳)の最初の話だけを読んだ。こたつでメルマガの準備をしていたらかなり長い地震があって、能登で大変なことになってしまった。ニュースを流しながら食べたご飯は味気がしなかった。避難した人たちを思うとき、なんとなく、家の下敷きになってしまったであろう今夜食べられる予定だったお正月のごちそうのことが思われた。助からなかった人もいるだろう中で食べたお節の味気なさ。

翌日は翌日で羽田空港で大変な事故が起こった。地震がなければ起こらなかった事故だと思うとやりきれなかった。家族と無言でニュースを見るのが辛くて自分のタイミングでスマホを使って情報収集をしていたが、ツイッターを見ているといろんな意見が飛び交っていて疲れてしまった。
今年はのんびり過ごそうと長めに実家に滞在することにしたのだけれど、常に周りに誰かがいる状況というのは、一日二日ならいいけれど自分のペースが保てなくなる。普段から三食しっかり食べているわけではないので胃もだいぶ疲れている。加えて新年からこの落ち着かなさ。結局なにもできなかったなあと思ったが、体はゆっくり休めた。あかぎれもましになった(実家は食洗機を導入している)。

帰洛し、冬休み最終日は自宅で過ごす。ビートルズのホワイトレコードをかけながら家事をして、久しぶりにキッチンに立ち、実家から持たせてもらった野菜を処理する。久しぶりにまともな気分になるが、創作意欲はおこらない。重い腰を上げてしんきろうの感想冊子の組版を完成させる。作業が遅れていることに対して罪悪感があり、年末からボスに謝り倒していたので、ようやく仕上がってほっとする。

金曜日、一日だけ仕事始め。夜にプロジェクターをおこして『銀河鉄道の夜』を見たが、耐えきれずに「りんご」の手前で停止した。明日に備えて素面だったが、これはどういう感情なんだろう。

今年買ってよかったもののひとつ。素面の夜にはかなり良い

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