2023立秋日記
台風が行ってしまうと秋の気配を感じるようになった。
あまりにも忙しかったからか、整体の先生に「今年の夏は短かったですね」なんて言うと「そんなの言ってるのゴタンダさんだけですよ」と呆れられた。たしかに二週間予報で35度以下が続いているからといって、夏が終わった気になるのも変な話である。この暑さでも元気が有り余っている気がする、この夏は最強だった気がする。
去年から、お盆付近の入稿という鬼畜なスケジュールに翻弄されている本業(編集業)。それでも、入稿1カ月前にコロナに罹り冷蔵庫が壊れても買いに行けず、なんとか生き延びた去年よりかはマシだと思えてがんばれてしまう。夏休みに入る直前まで毎日残業。最後の日はうちゅうビールを二本も奮発して、1本はしんきろう入稿のお祝い、1本はお仕事お疲れ様会をした。
地元への帰省は慌ただしい日程になってしまったけれど、台風で交通機関が止まる可能性があった中、前半に帰っておいて正解だった。夏休み一日目、まず、早朝に起きられたのでモーニングに行けた。例のカフェでアイスカフェラテを初めて選んでみたらフワフワで感激した。久しぶりにジムと整体も行けたし、できるかぎり家の用事も済ませてから帰省。
GASSの並びにはおもちゃ屋さんがある。木でできた海外製のおもちゃを売る小さなお店で、店主が変わって移転したら、そのあとGASSが開店してごく近所になったのだ。おもちゃ屋さんは移転後は盆も正月も休業するから、帰省しても寄れたことがなかったのだけれど、この日は祝日で店主の本業が休みとのこと、開いていてラッキーだった。
20年以上前から、以前の店主Yさんのときからの憧れのお店。お正月にお年玉を握りしめて通った。その頃買ったおもちゃたちは、何年か前に思うところあって実家から引き上げてきたから今も手元にある。移転前(コロナ前のことだ)は友人に子が生まれたらここでおもちゃを買っていた。閉店セールの時、できるかぎりの品を泣く泣く大人買いしたのも記憶に新しい。
新しい店長さんともいろいろ話せて面白かった。貴重な古いおもちゃも扱っていて、どこからか嗅ぎつけてくる転売ヤーにも頭を悩ませているとのこと。疑われたわけではなかったと思うけれど、いい大人が目を輝かせておもちゃを眺めるのも怪しいかもしれないと思い、20年以上前に移転前の店に通っていたこと、帰省のタイミングでやっと訪ねてこられたことをそれとなく話す。実際に買ったおもちゃの写真をスマホで見せると、さらに話は盛り上がり、陳列せずに仕舞い込んであるおもちゃまであれもこれもと見せてくださった。奥さんが母親の知人ということもあり、とうとう名字を明かすと、「〇〇さんならこれがいいんじゃない!」と言って相当貴重な品まで出してきて見せてもらった。震える声で値段を聞くと、当時の金額のままで売っているらしい。もう製造中止になっていたり会社の方針が変わっていたりして二度と手に入らない可能性だってあるものだから、ありがたく譲り受けることにした。
「WOODY遊」はYさんが30年近く前に一念発起して開かれたお店で、こんな田舎で輸入小売りなんて思い切ったことをされたと思う。子供に木でできたおもちゃで遊んでほしい一心で続けてこられ、こうして後を継ぐ人も現れた。うちは裕福ではなかったけれど、お年玉で買い集めたドイツ製のドールやミニチュアのおもちゃで遊べたのはけっこう贅沢だった気がする。ハウスはとても買ってもらえるような金額ではなかったから、収納兼家となっていたお菓子の空き箱が想像力を培ったとも言えなくない。ドールハウスは、当時と同じものが、今もお店のショーウィンドウを飾っている。これがもう一度眺められただけでも本当に嬉しかった。夜、ペルセウス座流星群は極大前日。流れ星は見えなかったけれど、北の空までくっきりと星座が見えて田舎だなあと思う。
夏休み二日目は海へ。子どものころから親しんでいる浜へ、何年か前から帰省の度に天気予報をにらみながら時間をつくって訪れるようになった。
簡単なテントと断熱シート、本とビールを持ってきて。最寄駅から歩き、無花果の匂いのする畑のあいだを通り抜ける。来月刊行する「しんきろう」に寄稿した「里帰り」という話のモデルにもなっている地域。ちょうど一年前の帰省のときに思いついた話で、書き始めたはいいけれど仕上げられずにいたところ、その秋にしんきろうを出そうという話が持ち上がり、文学フリマ大阪合わせでお披露目できれば季節感もいい具合ということで完成させた作品。ちょうど入稿し終わったところなので、なんとなくお礼参り的な感じ。ひと泳ぎした後は浅瀬に座り込んで『やし酒飲み』を読んだが、この日は波が高くてしょっちゅう波を被る。持ってくるのは文庫本と決めている。
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