"パリーグで最も負けている投手"・池田隆英の活躍を紹介したい
「現在パリーグで最多勝争いを繰り広げているのは誰か?」
ある程度プロ野球を見ているファンであれば、楽天の早川やオリックス宮城・山本のWエースなどの名前がぱっと挙がるだろう。
逆に「現在パリーグで最も負けている投手は誰か?」
恐らく自身が応援しているチームの選手でない限り、"誰が一番負けているか"というネガティブな情報をわざわざ把握しているプロ野球ファンは少ないのではないだろうか。
6月11日土曜日、オリックスが11年ぶりの交流戦優勝を決めた裏側で、パリーグ最多の6敗を喫している日本ハム・池田隆英投手が今季3勝目、本拠地での初めての勝利を挙げた。
3月に横尾選手とのトレードで楽天からの移籍1年目、先発として9登板。
粘りのピッチングを続けながらもなかなか勝ち星に恵まれず自身4連敗で迎えた今季10度目の登板は、5.2回1失点の好投でチームを見事勝利に導いた。
防御率も2.79と安定感抜群である。
勝敗は投手の出来だけで決まるものではない。
近年のシーズン最多敗の投手を挙げると、2020年の阪神青柳・日本ハム有原、2019年のヤクルト小川、2018年のオリックス西、毎年最多の敗戦を記録するのは"信頼されてローテを守り続けることができている投手"である。
この池田の最多の敗戦も、結果として負けてはいるがチームの信頼を得て先発ローテーションの一角として投げ続けることができているからこその記録である。
ケガ・戦力外・育成契約・支配下昇格・トレードと苦難の道を経て新天地で好投を続ける”最も負けている男"日本ハム 池田隆英選手の活躍やピッチングスタイル、強みや今後の課題について紹介していきたい。
※ 以下、交流戦終了時点までのデータ
結果を残すことができなかった楽天時代
日本ハムの横尾とトレードとなった池田だが、楽天時代はほとんど実績を残すことができなかった。
2016年ドラフトで入団後、ルーキーイヤーの2017年は故障もあり1軍登板なし。
2年目の2018年は開幕から先発として起用され、4月にはプロ入り初勝利を挙げたものの、その後は結果を残せず中継ぎへ配置転換。
先発・救援合わせて15登板で防御率5.91に終わったが、楽天時代の1軍登板はこの年のみとなった。
2019年には怪我に悩まされ、オフには自由契約となり、育成選手として再契約を結んだが、翌2020年のシーズン終了後に再度支配下登録を勝ち取った。
2021年シーズン前には対外試合3試合7イニングで防御率0.00と調子の良さを見せ、ファンからの期待も高まっていた中、このタイミングで冒頭に述べたトレードにて日本ハムへ移籍となった。
今季ここまでの活躍を振り返る
移籍後のオープン戦でも無失点の好投を続け、開幕カードから先発ローテーションの一角を任された。
初登板の楽天戦・2戦目のソフトバンク戦では5回4失点、5.2回5失点と苦しいスタートとなったが、3戦目以降は安定感のあるピッチングを続けている。
ここまで10試合で58イニングを消化し、防御率2.79はパリーグで先発として50イニング以上投げた24投手中6位の好成績である。
ここまで好投を続けながらも最多の敗戦数となっている理由は援護の少なさである。
残念ながらここまで投げた10試合での日本ハムの総得点は20、1試合当たり平均2得点と先発した試合で援護に恵まれていない試合が続いている。
(特にエース級と当たり続けている、という話でもない)
僅かながら規定投球回に達していないため防御率ランキングにも掲載されず、過去の実績もほとんどないことから他球団ファンからの印象はまだまだ薄い。
しかし今後対戦したチームのファンからの注目度も上がっていくのではないか、と期待を寄せている。
"的を絞らせない"投球術
6月12日の試合では自己最速となる156km/hのストレートを記録した池田だが、ストレートの割合は約30%ほどと使用割合は低めである。(リーグ平均:約45%)
ストレート/ツーシームに加え、球速帯の違う2種類のスライダー、高速スライダーと同球速帯のフォークを軸に、時折カーブやチェンジアップなどの緩急を織り交ぜており、多くの球種と球速帯の球を操りながら、打者に的を絞らせない工夫が見える。
最速156km/hのインパクトは強いが、投球内容としては"技巧派"の分類になるだろう。
VS 右打者
右打者に対しては、ストレートと2種類のスライダーの3球種で全体の75%を占め、アウトローへのスライダー/ インハイのストレートで空振りを多く奪っており、各球種被打率.250未満と申し分ない。
特にストレートの被打率1割台、長打もほとんど打たれておらず、威力の高さが伺える。課題としてはフォークがあまり機能していない点で、チャートでは低めに多く集まっているように見えるがあまり空振りを取れておらず、ゾーン内のボールを高確率で弾き返されている。
ストライク/ボールがはっきりしている可能性も高く、使い方や精度の改善が必要な球種と考えられる。
vs 左打者
左打者に対しては外のツーシームを組み立てに多く加え、2種類のスライダー、フォークの4球種をバランスよく投じている。また時折右打者には使っていないチェンジアップを挟むことで緩急を付けるなど工夫が見える。
対右と比べると真ん中~インコースの緩いスライダーを打たれていることが多いようだが、他の球種で安定して抑えることに成功している。
現状、特に打者の左右の違いで明確な苦手意識もなく、多くの球種と緩急で的を絞らせない投球が効果的に働いており、安定したピッチングに繋がっている。
随所で見せる"粘り強い"ピッチング
球種構成等から多くの球種や同じ球速帯での変化を駆使する"技巧派"であることを紹介したが、先ほど紹介したパリーグで先発50イニング以上投げた24選手の投手指標を用いて、池田がどのような特徴があるかを考えてみたい。
他の投手と比較すると防御率以外の指標は驚くほどパッとしない順位となり、三振が取れず四球は多め、ヒットもそこそこ打たれ、ランナーを多く背負って失点のリスクを抱えやすい投手、と指標上は見える結果となった。
それではなぜ池田は失点を抑えることができているのか。
ランナーを多く出しているにも関わらず失点が少ないことから、とりあえず「得点圏で力を発揮するタイプなのでは?」という仮説を立て、得点圏/得点圏以外での指標の変化を確認してみた。
ベタな予想通り得点圏にランナーを背負った状況で各指標が良化、四球を減らし、三振を多く奪い、被打率・被長打率を抑えることができていた。
加えてここまで被本塁打5本の内、ランナーを置いての被弾は1本(2ラン)のみ。
ホームランによる複数失点を抑えることができているのも好成績に繋がっている。
では、得点圏とそれ以外でどのようなアプローチの変化が、得点圏での"粘り強さ"に繋がっているか。
対戦打者別に考えていきたい。
vs 左打者
まず対左の成績を見ると、若干の配球の傾向の違いはあれど得点圏とそれ以外で大きく成績の乖離は見られなかった。
vs 右打者
対右打者では、得点圏で被打率.182、ここまで長打0と抜群の安定感を見せている。
球種構成としては、ストレート・ツーシーム・フォークの比率を増やして、この3球種が効果的に働いている。
この3球種に絞って見てみると、
威力があり自信を持っているであろうストレートの割合を増やし、平均球速も2km/h増加、ギアを上げ打者へのプレッシャーをかけられていることが伺える。
フォーク、ツーシームは非得点圏と比較して被打率が極端に低いとはいえ、"得点圏"の"右打者"での数打席程度での打球結果のため、ここは参考程度で考えている。
ただフォークに関しては母数が少ないとはいえ、甘いゾーンへの球が減り、空振り率の上昇(6.2%→16.7%)と被打率の改善(.429→.000)が見られることから、より丁寧に低めに投げ込むことを意識している可能性は考えられる。
データ上の考察はここあたりが限界ではあったが、今後はこの随所で見せる"粘り強さ"に注目していきたい。
まとめ
・ここまで10度の先発で防御率2.79の抜群の安定感
・多くの種類と球速帯の変化球を投げ分ける的を絞らせないピッチング
・随所で見せる粘り強さでピンチを乗り切るスタイル
・特に得点圏でギアを上げて投げるストレートと低めへのフォークの制球が得点圏での勝負強さの正体か?
日本ハムの池田選手の活躍について、データの観点から分析をしてみました。
池田の謎の粘り強さの1つに「3ボールからの被打率」が最も低い先発投手(.159)というデータがある。
得点圏での勝負強さを中心に紹介したが、言い換えれば非得点圏や浅いカウントで打たれてピンチを招くケースが多いことの裏返しでもある。
先発として長いイニングを投げるためにも改善していきたい部分ではあるが、まだまだ先発としての経験も浅く、バランスを模索している段階と考えている。
課題はあるもののここまで1軍での実績がほとんどない中トレードで日本ハムに移籍し、移籍初年度から先発の柱の一角としてここまで活躍できていることを楽天ファンとして嬉しく思う。
繰り返しになるがリーグ最多敗ではあるが、冒頭述べた通りチームから信頼され開幕からローテを守り続けてるからこそ積み上がった数字である。
課題を1つ1つ消化し更にピッチングに磨きをかけ、"最も負けている投手"からチームに"多くの勝利をもたらす投手"に成長することを願っている。
おしまい。
データ参考 :
Sportsnavi : https://sports.yahoo.co.jp/
日本野球機構(NPB): https://npb.jp/
1.02 Essence of Baseball : https://1point02.jp/op/index.aspx
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