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備忘録 | 24年4月

(できれば毎月)残していきたい備忘メモ。基本は月々の振り返りになるけれど、詳しく記すというより、あくまでメモのようなものとして。


劇場鑑賞 映画

『コット、はじまりの夏』

監督:コルム・バイレッド

機能不全の家庭で育つコットが、夏のあいだだけ叔父・叔母の家に預けられ、そこで(疑似)親の愛情を知るという物語で、これは素晴らしかった。
コットは境界線を超越する存在として描かれる。その境界線とは、実際の家庭 / 叔父・叔母の家という境界線でもあり、男 / 女の境界線(男子向けの衣服 / 女子向けの衣服どちらも着る)でもある。
コットの越境性は「走る」というアクションによって支えられている。めいいっぱいの力を振り絞って走るラストが感動的なのは、自分の生活のために越境しようと試みていることが伝わってくるからだろう。

『エル・スール』(1983)

監督:ビクトル・エリセ

学生時代ぶりにシネコヤで再見。当時は気づかなかったような細部にも目が向くようになり、より本作の傑作ぶり、エリセの凄まじさを再発見することになった。
さらに『瞳をとじて』を経て見ることで、当時から「切り返し」でおもしろいことをやっていたことを認識できた。例えば父親と映画の切り返しのあいまに、少女エストレリャのカットが挟まれる。しかし映画(に出演している女優)に夢中の父親とエストレリャのあいだで心がつながっていないことがこの切り返し一発で伝わってくる。

『オッペンハイマー』

監督:クリストファー・ノーラン

とにかく短くカットが分断され、それをつなぎあわされるモンタージュの映画だった。そして、それは作中で言及される原爆の原理ともいえる「連鎖反応」と重なるようにも受け取れる。バラバラに裁断されたカットをパッチワークさせて起きる連鎖反応にノーランはかけているのだろう。
さらに多くの人が言及するように、ロスアラモスでのトリニティ実験にいたる過程は撮影の様子のように感じられた。とりわけトリニティ実験で壁の向こうを覗くオッペンハイマーは映写技師のような姿だった。
しかしそうしたモンタージュの連鎖反応や実験の様子を、原爆づくりに重ねることはあまりに不謹慎なのではないか。私個人は観客として大いに楽しんで見てしまったけれど、モンタージュ理論を研究したクレショフや、エイゼンシュタインなどは本作について怒っていいと思う(2人とも旧ソ連の映画作家だったことは偶然だろうか)。

『アイアンクロー』

監督:ショーン・ダーキン

次々と息子たちが亡くなり「呪いの一家」と呼ばれたプロレス一家を描く作品。「呪い」は実際にあったが、その正体はオカルト的なものではなく、「父親による抑圧」だったということだろう。そして男性は誰かに弱さや涙を見せられないため、呪いは「死に至る病」に深刻化していく。
ただしショーン・ダーキンの過去作『マーサ、あるいはマーシー・メイ』『不都合な理想の夫婦』(どちらもおもしろい!)を見ると、「男性の生きづらさ」よりも男女問わない「精神的なプレッシャー」に関心があるのだと理解できる。

『Here』

監督:バス・ドゥヴォス

先月『ゴースト・トロピック』Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下で見たが、劇場を出るときに偶然、シネコヤの竹中さんに出くわした。それもあって、きっとシネコヤでやってくれるだろうと思っていたら、予想は的中。『Here』はシネコヤで鑑賞した。
『ゴースト・トロピック』も素晴らしかったが、こちらもよかった。『ゴースト・トロピック』が全編を使って「その瞬間」を描き続けた作品とすれば、『Here』は終盤まで用意周到に避けられ続けた「その瞬間」が、クライマックスで訪れる点におもしろさがあった。
これらの作品が国内で2本セットで上映されてよかった。

『Oasis』

監督:大川景子

カメラマン飯岡幸子さんと井戸沼さんが企画した<日々をつなぐ>で鑑賞。東京に住む人々がカメラ(iPhone)とマイクを駆使して、都会のオアシスを採取していく。その過程がいきいきと描かれ、元気が出た。
電車や自転車、そして人々がカメラの前を横切っていく。一方で植物の姿や水の音が採取されていく。人々の暮らしと、自然の営みが交差するのが愛おしい。
この上映から劇場を出ようとしたところで、ライター宮田さんと偶然、遭遇した。

プレイリスト

日本最高峰のスキルを持つラッパー、FARMHOUSE。今月はSUSHIBOYS「おにぎり」も彼ららしいファニーな楽曲だったけれど、距離の遠さとは時間の積み重ねであることを示したFARMHOUSEのソロ曲「distance」が素晴らしく、鬼リピした。
またメンフィスのラッパーGloRillaのアルバム『Ehhthang Ehhthang』が今年聴いたラップアルバムの中で最も南部の良さが色濃く表現されていて楽しんだ。

仕事

アンドリューヘイ監督インタビュー - NiEW

取材執筆:木津毅さん 編集:浅井剛志

『異人たち』については木津さんに書いていただいたように、「孤独」と「つながり」の映画だと感じた。そしてそれを象徴するのが本作で何度も出てくる「手をにぎる」カット。そしてカミングアウトで複雑そうな表情をした母親に対しては、「にぎられた手を放した」ところが描かれる。

石橋英子 インタビュー - NiEW

取材執筆:宮田文久さん 撮影:大畑陽子さん 編集:浅井剛志

すでに作品を見てから2カ月が経過したが、『悪は存在しない』のラストはまだ消化しきれていない。最近はとにかく消化できてしまう作品ばかり。その中にあって、本作のような作品が生まれてくれるのはとてもうれしい。
今作を最初に見た印象は、ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』に対する濱口監督なりの変奏なのだろうというものだった。「水は高いところから低いところへと流れていく」というモチーフが流用されていて、実際に花が姿を消してから水が濁流のように下へ、下へと降りていくカットが手持ちカメラで追いかけられる。もちろんモチーフを流用しながら、独自の物語世界にまで昇華されているのが本作の凄さだ。
ライターを務めてくださった宮田さんも自分も、取材の話が来る前に『GIFT』(パルコ劇場)のチケットを購入していたという偶然も。『GIFT』を見ると、水が下へ流れるだけでなく、「水蒸気」や「煙」という形で上へと流れていくものでもあることが示されていることが理解できた。

そのほか

Smino (@恵比寿ガーデンホール)

音源ではメロウなサウンドと、繊細そうなメロディックなフロウが特徴のSmino。しかしライブでは熱量のあるラップを弾丸のように吐き出しまくる姿が印象的だった。しっかりドラム&シンセサイザーを引き連れていたからというのもあり、ライブ感が強く、盛り上げるのもうまい。
前座としてBuddyも登場。3曲程度だったけれど、見られてお得に感じた。
しかし年度初めの時期だったことも手伝ってか、お客さんの入りはイマイチ。もっと観客が多くてもいいだろうと思った。

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