『プールの青は嘘の青〜南波志帆〜』夏休み、夜の学校の事。
月明かりの無い夜。空には無数の星々。
その日、僕らは夜の学校へと忍び込んだ。
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80年代半ば、片田舎の学校の事。
夏休みともなれば、巡回の警備員も当直の先生も居ない。
夏の虫達が奏でる様々な音の中、真夜中の学校はそこにあった。
昼間の熱がまだ残っている地面を、なるべく音を立てない様、さながら忍者の様に疾る。
ある場所を目指して・・・
🌻🌻🌻
「しかし暑いな〜!」
友人S宅に泊まりに来ていたKと僕が、ヌルい扇風機の前で悪態をついた。
(かと云って自分の家が涼しいとは言えないのだが。)
「ひと泳ぎしてくるか!」
Sの言葉に僕とKは目を見合わせた。
「ドコで?」
Sがニヤリと笑う。
「入り放題のイイ所だよ。」
「水着なんて持ってきてないぜ?!」
訝しむ僕とKの言葉など聞こえない様に、Sは言う。
「バスタオルさえあれば大丈夫。ウチのタオルを持っていこう。さぁ!出発しようゼ!」
時計を見れば既に10時を過ぎている。
釈然としないまま、僕とKはSに付いて行く事に決めた。
🌻🌻🌻
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「プールの青は嘘の青」 南波志帆
2008年
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作詞、作曲を担当した堀込高樹氏は天才だ。
よくぞここまで「青春の欠片」をテーマにした、素晴らしい楽曲を作りあげる事が出来るのだろうか?
文学的であり、小説の様であり・・・。
映画のワンシーンの様な情景が、自然と脳裏に生まれ出る。
胸を締め付けるメロディーは、メロウであり、また瑞々しくもある・・・
そんな素晴らしい楽曲を歌うのは
『南波志帆』。
高樹氏が生み出す胸締め付けるメロディーを、大仰になり過ぎず、かつ、どこか木訥とした雰囲気を残しながら、見事な歌唱で表現しきるその力量は、正に感嘆符を生み出すばかり。
いや。そんな回りくどく言わず、敢えて一言で言おう。
『可憐』である。と。
NHK FMミュージックラインのメインパーソナリティ歴も長い彼女。もっと歌の良さが認知されるべきだ。
🌻🌻🌻
町から少し外れ、外灯も近くに無く、月明かりも無いとなると、かなり暗く感じるものだ。
星明かりだけを頼りに僕達は、夜の学校のプールで泳ぐ。
「パシャッ、パシャッ」
と、泳ぐ度に小さな水音が生まれたが、虫達が奏でる『生命の音』にかき消され、夜に吸い込まれていった。
Sはたまに来ているみたいだ。
(なんて神経の持ち主なんだ!)
僕はプールの水面に仰向けに浮かびながら、満天の星空を眺めた。
ずっとこのままだったらイイのにな。
来年は卒業だ。
イイや。もう考えるのはやめた。
熱帯夜に僕らは泳ぐ。
真夜中の学校のプールで。
DT・BOYSは泳ぐ。
まるで星の海の様なプールで、
僕らは泳ぐ。
〜今は亡きKに捧ぐ〜
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