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ウィズ・コロナ時代の経営守るべき原則・とるべき行動(4)

4、令和の経営者に求められる5つの行動習慣

 令和になって、新型コロナのバンデミックが、社会生活を大きく変えてしまいました。コロナウイルスによる感染を防ぐために、三密防止、マスク着用、手洗いの徹底、飲食店等の営業時間短縮や店内環境の規制、企業や学校の(人が集合せず自宅でできる)リモートワークやリモート授業、旅行人口の大幅な減少等々、大きな変化が進行しています。

 こうした変化が一過性のもので、コロナが収まれば元の生活に戻れるのではなく、今後も地球上の生物環境に破壊的な影響をもたらすウイルス(新型コロナに限らず)との共存が常態になるウィズ・コロナ時代が続くと考えるべきだ、と発言する識者の声がメディアに溢れており、私もそうだと考えています。

 この大きな社会変化の時代の経営者は、どうあるべきなのでしょうか?

 ほんの小さな規模であれ、新しくビジネスを起業する息子たちは、どんな経営者を目指せばいいのでしょうか?

 自分の経験を振り返って考えてみたのですが、私が昭和の経営者から学んだ経営者としての姿勢や、平成の経営体験で見出した組織変革の原則は、社会の変化に応じてすぐに変えるようなものではないと思いました。

 経営者が日々繰り返す行動はどうでしょうか?

 ウィズ・コロナ時代の経営者の行動習慣について考えてみました。

5つの行動習慣

 人と組織を動かし、日々巻き起こる問題を早期に発見して解決していくことは経営者の日常的で重要な仕事です。経営者の日常的な時間の大部分は人とのコミュニケーションに費やされるといっても過言ではありません。ウィズ・コロナ時代のコミュニケーションの形は、リモートであったり、対面であったり色々でしょうが。

 私たちは自分のことが実はよくわかりません。ましてや他人のこと、他人の心のうちはわかりません。でも、日常的に人と関わり、人を通して自分の経営意志を達成する経営者は、人の心を知り、人の心に働きかけるコミュニケーションが仕事の大きな部分を占めます。

 しっかり人と組織を動かすことができ、早期に人と組織の問題を発見して問題解決の行動がとれないかぎり、どんなに崇高な理念も宝の持ち腐れ、どんなに革新的で魅力的な戦略も生かされません。

 人の気持をとらえ組織を動かし不断に発生する問題に対処するコミュニケーション力を身につけるために、経営者がとるべき行動習慣を考えました。

 ウィズ・コロナ時代だからこそ徹底すべき5つの行動習慣(よく見る、よく問う、よく聴く、よく伝える、場を創る)です。

1)よく見る

 経営者が人の問題、組織の問題を早期に発見するためには、人と組織をよく見ること、意識して見、見えることの意味を考える行動習慣が必要です。

 私たちの五感のうち最もよく使うのは目です。

 起きている限りいつも何かを見ています。しかし、意外にも我々は日常あまりしっかり見ていません。人も物も事も。

 ある大学でこんな実験をしたことがあるそうです。学生には事前に何も知らせず、いきなり部外者が授業中の教室に乱入し、何列か机の間を走り抜けて出て行きました。その間数十秒。

 そして、一息入れて教師が学生に今乱入した人の風体、様子を質問しました。すると、その乱入者の年格好、性別、表情、服装、持っていたもの、動作と動きの特徴など、全くバラバラで誰もしっかりと乱入者を見ていた者がいない事が分かったそうです。

 私たちは日常たまたま目の前に見えるものしか見ていませんし、ただ視野の中に入ってきただけのものはすぐ忘れてしまいます。例えば通りすがりに涙の跡が頬に残る人をたまたま見かけても、涙の跡には気づかなかったり、たとえ見ていてもすぐに忘れてしまいます。

 しかし、もし最愛の人の頬に涙の跡があったなら、その意味を考えますし、そのことを忘れる事はあり得ません。最愛の人を見る時には、自分の意識を集中して見ているからです。


 見るという行為は、意識的に見るのと意識しないで見るのとで、見えることに大きな違いがでてきます。意識的に見るということは、見えることや見えるものの意味を考えるということです。

 インテルというアメリカ有数の半導体メーカーがあります。世界的大企業ですが、その二代目CEOで名経営者の誉れも高いアンドリュー・S・グローブが『Only the Paranoid Survive』(邦題『インテル戦略転換』七賢出版)という本を前世紀末に書いています。

 原題の意味は、『パラノイア(病的なまでの心配性)だけが生き残る』です。この言葉は、グローブのモットーであり、この本は世界的大企業の経営者として事業戦略を転換しなければならない環境変化を、意識的にどころかパラノイアのように神経質に観察し洞察する必要を説いています。

 グローブは事業経営全般の観察力、洞察力を説いていますが、私は特に人を見るとき心配性なぐらい真剣に意識を集中して見ることを強調したいです。


現場へ

 事業計画を実行していくプロセスでは、日々様々な問題が発生します。経営者は、日頃から現場に出入りし、問題が発生したら誰か代理の人ではなく自分自身ですぐに現場に行く行動習慣を持つべきです。これは、ウィズ・コロナ時代だからこそ、より徹底すべきです。コロナを理由にして自分の目で現場を見ていないと、つい、問題を先送りにしてしまいがちです。

 問題を特定する上で人の観察は重要です。

 人は理性だけでなく感情を持っています。また、どんな人でも追いつめられると利己的になります。

 自分の思い込みを言う人がいます。

 嘘と事実を混ぜこぜにして言う人もいます。

 大事なことに気づかない人がいます。

 不安から危機に目をつぶってしまおうとする人もいます。

 人に責任を転嫁しようとする人もいます。

 よく人を見るとは、なぜ相手はそんな行動や表情になるかを相手の立場に立って見、想像することです。そうすれば何かを感じ、相手の行動の意味を理解することができるはずです。

ですから問題を見極めるためには広い範囲の関係者と面談します。発生した問題に直接接した人だけでなく、間接的にでも関係ありそうな人はすべて面談します。(面談はリモートでもできます)

 そうした現場での人やチームの動きの観察や面談から必ず見えてきます。意識的に見ないと見えないものが。相手の立場に立たないと見えないものが。

 その上で「利害関係者会議」(広い範囲の関係者が集まって問題とその原因を特定する会議)を開きます。様々な観点を集めることで、見えたことの背後にある見えないことを見るのです。(リモート会議もありです)

2)よく問う

 経営者はとにかくよく問う人でありたい。問う、というのは、自分なりに問題を発見するということです。問題を発見するというのは、何か自分の理解を超えたことがあるので、それを分かりたいと願うということです。分かるように考え始めるということです。

 昭和を代表する批評家の小林秀雄が数百人の学生にした講演記録が出版されています。『小林秀雄 学生との対話』(新潮社)という本ですが、その中で、何かについて考えるということは、その対象(人であっても、ものであっても)とのっぴきならない関係に入ることだと小林は語っています。

 限られた時間の講演ですので、多くのことを端折って結論だけを話しているようなところがありますが、ここで小林が言いたかったのは、考えるということは深い問いを発して、その問いの対象である人やこと・ものと親密な対話をすることだ、ということだと私は思います。


 問う習慣を身につけるために、3、平成の組織変革 3つの原則で紹介した自問自答と対話をくり返すことの重要性はウィズ・コロナ時代も変わりません。部下に研修を受けさせる前に、経営者自身が自問自答と対話に習熟しなければなりません。


3)よく聴く

「話をきく」の「きく」をパソコンで文字変換すると、「聞く」、「訊く」、「聴く」などの漢字が出てきます。

 どれも同じ行動を指す言葉ですが少しニュアンスが違います。

 聞くは、あまり集中せず耳だけが働いているニュアンスで、訊くは尋問するように厳しく接しているニュアンスで、聴くは耳だけでなく心を傾け集中しているニュアンスです。

 経営者はよくきく人でありたい。そして、きくは常に聴くでありたい。

 人の話に心を傾け集中して聴くことは、問題の発見にも、問題解決の道を探すのにも役立ちます。

 カウンセラーのように聴く

 聴くことの専門家はカウンセラーと呼ばれる職業の人たちです。カウンセラーは相談者の話をよく聴き、相談者が持っている力を引き出して相談者自身が自分の問題を乗り越えられるように支援します。

 中途退学を防止するための戦略として、カウンセリング・システムを導入した経験を紹介しましたが、経営者は、組織のメンバー一人一人の持っている力を活かして事業の目標を達成していくために、組織のメンバー一人一人に対してカウンセラーのように聴く習慣が必要です。


 理解する

 よく聴くとは、理解することです。聴いた話の主題、因果関係(原因と結果)を、シンプルに論理的に自分の言葉で話せるようになるということです。

 だから、相手の話を心の中で自分が理解できるように翻訳しながら聴きます。メモしながら聴きます。うまく理解できなかったら質問して相手に説明を求めます。能動的な聴き方をするということです。


 受容する

 よく聴くとは、受容することです。受容するとは相手を評価しない、相手の立場に立って聴くということです。相手の話を、あなたがそう感じ、そう考えたことは、なるほどあなたの立場ならそう感じ、そう考えたでしょうねと受け容れるということです。

 トラブルを解決するために部下の話を聴くときも、顧客がライバル商品やサービスを選んだ理由を聴くときも、相手の立場に立って聴くことが大切です。

 相手の立場に立って聴くことで、問題や課題の原因を見つけやすくなりますし、責任論を云々して人を責めるのでなく、問題にフォーカスして解決策を考えることができます。


4)よく伝える

 経営者は経営の様々な場面で、方針や決定事項を伝えなくてはなりません。

 事業総括や問題解決について自分の考えを伝える機会も多くあります。

 経営者が伝えた結果、メンバーや上司や顧客が経営者の考えを支持し、経営者が期待する問題解決行動に積極的に参加してくれる。そうあってほしいのです。

 そのためには、「How」どう伝えるかよりも、「What」何を伝えるか、が大事です。

 経営者は何を伝えることを行動習慣にすればいいのでしょうか?


方法より方向、そして理由

 伝えるべきことは、勿論あらかじめ決まっています。方針であったり決定事項であったり事業総括であったり、です。あらかじめ文書化されているのが普通でしょう。

 しかし、経営者が本当に伝えたいことは、常に「皆さん、私が期待する行動を起こしてください」ということです。経営者が語るのは聞き手の行動を引き起こすための話です。聞いてくれた相手が経営者の期待する行動に立ち上がることを目的にしているのです。

 その目的を果たすためには、決まったことをどのように実行するかの方法(やりかた)をくどくど話すより、大きな方向をはっきり示し、その理由(わけ)を説明することが大切です。(方法はむしろ現場で考えてもらうほうが良いのです。そのほうが自分ごとになり、皆一生懸命にやります)

 自分がやっていることの意味やわけを知らないでは、誰も仕事に熱が入りません。


理屈(ロジック)より気持(ハート)

 方針や決定のわけを伝える時、理詰めで長々説明しても聞いている側のやる気はふくらみません。人を強く行動に駆り立てるのは理性ではなく感情です。

 その方針や決定を選んだ経営者の気持(ハート)を伝えることです。くやしいとか、うれしいとか、かならずとか、経営者が正直で率直な気持、「本気」を

 伝えると、聞いている側の感情に強い印象を残し、問題解決行動へ駆り立てる力となるはずです。

 さらに言うなら、単なる感情でなく、自分の感動を伝えることができれば、人の気持を動かし、その感動を自分でも感じられる行動にその人たちを強く駆り立てることができるでしょう。

 どんなに理性的で論理的思考に優れた経営者でも、名経営者といわれる人は、いざという場面で正直で真剣な感情を伝えて聞き手の心を揺さぶるスピーチをしています。

 経営者は、自分の気持を正直に振り返る習慣を身につけ、率直に感情を伝えることができるよう日頃から努めるべきなのです。


5)場を創る

 人間は社会的な存在、人と共に生きていく存在です。アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグによれば、人間の社会生活は三つの場に分かれています。

(第一の場)家庭、(第二の場)職場や学校、そして(第三の場)地域のコミュニティスペース・居酒屋・カフェ・本屋など、の三つの場です。

 第一の場、第二の場では、役割を演じ役割に従って行動しなければなりませんが、第三の場は、人が役割から解放されてくつろげる場です。

 コロナの流行で私たちの社会生活の三つの場は大きな影響を被っています。

 リモートワークやリモート授業の広がりに伴って、家庭で過ごす時間が長くなり、職場や学校で過ごす時間が短くなる人が増えています。人と集まったり、話したりすることが大きな制約を受けて、第三の場は狭められています。三つの場のバランスが悪くなっているのです。

 第二の場のディレクターである経営者はどんな行動を起こすべきでしょうか?

 『場の論理とマネジメント』(東洋経済新報社)という本で、著者の伊丹敬之は「場」を次のように定義しています。

 「場とは、人々がそこに参加し、意識・無意識のうちに相互に観察し、コミュニケーションを行ない、相互に理解し、相互に働きかけ合い、相互に心理的刺激をする、その状況の枠組みのことである」

 オルデンバーグの第三の場と、伊丹の場の考え方をドッキングさせられないでしょうか?

 人が役割から解放されてくつろげ、お互いを理解し働きかけあい心理的に刺激しあうような場が作れれば、人の創造的な活動は活性化するのではないでしょうか?

自由で平等、社会貢献が目的のプロジェクト

 第二の場である企業組織の中にそんな場を作ってみてはどうかと思うのです。

 会社組織の中に、役職を離れてすべての参加者が自由で平等な立場で参加するプロジェクトを立ち上げ、そこでの運営は参加者の自由で平等な討議で決めていくのです。

 どんな社会貢献がしたいのか、なぜそうしたいのか、とはじめにプロジェクトの目的を皆で議論して決めます。

 何かワクワクする具体的な目的を決めて、そのために創られた場では、人々の協力と競争がごく自然に成立しやすく、ある種の熱気が常にその空間を支配しています。まるでお祭りのように。

 そうした擬似お祭りの中で、仲間たちとの様々な触れあいやせめぎ合い、自問自答と対話を通じて参加者一人一人の創造力が加熱し、相互に刺激しあう中で集団的な創造力も花開いていくと思うのです。


場の運営

 目標はできるだけ1つに絞り込んだほうが皆の熱中を生じさせやすいでしょう。楽しみな、ワクワクする、挑戦的なものを皆で討議して一つ選ぶのです。

 また、場にはその場だけの特別なルールが必要です。その場に参加する人が話しあって決め、誰もが守るルールです。そのルールが一種の隠語のように場の求心力を強めてくれます。

 場に参加してもらう人々は、同質な人ばかりでなく、異質な人と同質な人が混じり合うほうが良いでしょう。そのほうが協力と競争が生じやすくなります。

 正×反→合の弁証法(異なった物事や人のぶつかり合いから新しいものが生まれる)が生じやすいからです。

 だからプロジェクトがいいのです。部署の壁を越えて日頃接触しない多様な人が交わり合うのです。


場を活性化するには

 経営者は場の活動に直接指示したり、干渉したり、制約を加えたりしません。参加者の自由な活動が生み出す場のエネルギーを楽しみ、参加者の生き生きした振る舞いをよく見、よく聴いて、問われれば肯定的な気持ちを伝えればいいのです。場の自由な運営を支えるそんな経営者のスタンスが、場を活性化させます。

 場は一種の自治区であり、目的達成のための行動は自立して場の内で決め動かすのが原則です。

 場が自立して自由に、すべての構成員が平等に意思決定できることが、場の活動の熱気を保証し、ひいては場の内での人の成長を加速させるのです。


最後にここまでお読みいただいた皆様へ

ありがとうございます。

私自身が昭和と平成の経営に関わる経験で、苦労しながらも必要に迫られて考えた組織経営の要諦を振り返り、令和の経営を考える上で守るべき原則や、取るべき行動について考えました。

5つの行動習慣は、まだ気づきメモに毛が生えた程度の文章ですが、ウィズ・コロナの経営を考えておられる皆様からの率直なご質問や感想をお聞かせいただき、令和の経営についての開かれた議論ができれば嬉しいかぎりです。




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