Ｑ２：「運命の趣味」と出会うにはどうすればいいのか？

御山人：「運命」というくらいですから。塾長のおっしゃるように、生まれ落ちた家庭環境が、決定的な影響を及ぼしますな。
やつがれの趣味、ここまで金や時間を投資して、外部に発信もしていると、人は「最早趣味ではない」と言いますが、ともかく、その主たる趣味である旅と、歴史・宗教・民俗の研究は、明らかに家庭環境を出発点としております。

やつがれの実家は、名古屋市街地のマンションなので、日本の伝統社会や文化とは切り離されておりました。しかし、母方が修験道に関係しており、毎年先達さん（山伏）と一緒に、一族で近郊の山に登って、山中の先祖の墓の前で、護摩を焚き、祝詞を奏上し、読経するという、神仏習合の儀式を行っています。やつがれも幼児の頃、般若心経に合わせて金剛鈴を鳴らしたり、拍子木を叩いたりしました。母方ということで、長じては参加しておりませんが、こういう神秘に満ちた事象に囲まれて育った事は、大きな影響を及ぼしましたな。儀式にしても、祝詞や経文にしても、目にすれば「これは一体何だ」と思って、色々調べたくなる。神主を志した原点も、こういうところにあるでしょう。

一方で、父方の一部はプロテスタントで、祖父母の葬儀の際は、賛美歌を歌ったりしています。そんな家庭出身の父親自身は、本人の希望により無宗教で行いましたが、宗教に無関心だった訳ではなく、歴史や宗教に関する蔵書が沢山あり申した。また日頃からそんな薀蓄ばかりであり、車でどこかに出掛けると言っても、遊園地の類は全くなく、石垣しか残っていない城跡とか、見よあれが乗鞍だとか余呉湖だとか。しかも、親父はユニークな人間であったので、道中の車の中では「乗鞍の上に日本最古の王朝があった」とか「余呉湖には天女の羽衣と菅原道真の伝説がある」とか、小学生になるかならないかの子供には訳の分からないことばかり（苦笑）。

こういう調子でしたから、物心ついた頃にはマップルやサービスエリアで無料配布している高速道路地図を絵本や漫画のように読むようになって。小学三年くらいには、助手席に座ってナビをするのは、やつがれの役目になり申した。カーナビもない時代、ジャンクションの詳細図まで頭に入っている訳ですから、子供でも大人以上に役に立ったでしょうな。まさに小三の時に行われた科学万博の為に、常磐道の谷田部に仮出口が設けられた事など、今でも鮮明に記憶しておりますぞ。そのうちに、家で地図を見ていて、新しく出来た京滋バイパスを通って、宇治の平等院に行ってみたいとか言い出したり。

これらを見れば、やつがれが「運命の趣味」と出会ったのが、生まれ落ちた環境であったのは、言うまでもない事ですな。どこどこに行ってみたいというような事は、子供であれば大なり小なりある事でござろう。ただし、やつがれの場合、それを断絶させる事なく、むしろ蓄積し、今後もますます発展させて行くつもりだということでござる。「日本全市町村踏破」は、まさにこれまでの全生涯に渡る記録でござるからな。

こうやって書いてみると、ちょっと待て、お前はそういう一種「恵まれた環境」にあったかもしれないが、そうでない人は「運命の趣味」に出会う方法はないのか、という声が聞こえて来そうですな（苦笑）。そんな事はありませぬ。塾長のＱ２に対する回答には、「親がめちゃくちゃだった」という、マイナスの環境を出発点として、「運命の趣味」に出会ったと書かれております。

つまり、「運命の趣味」と言えるような、情熱を持って取り組める趣味は、己の生まれ育った環境と深く関係しているということでござる。人の基本性向は、幼児期に決定される。その性向を持つ自分が心から喜べる趣味を見つけるには、己がどういう性向かよく把握することが肝要でしょう。だから、今から「運命の趣味」に出会いたいという人は、まず己と向き合い、よく分析するべきでござる。物心ついてから、今に至るまでの自分を。

やつがれが生まれた「恵まれた環境」を、「恵まれた環境」にし得たのも、先に述べたように、断絶させる事なく継承、蓄積、発展させて来たからでござる。その過程で、例えば歴史・宗教・民俗と言ったって、広すぎると散漫になってしまうし、本当に自分が好きなものは何なのか、見つめ直した事もござる。そうして「邪神大神宮」が出来た訳ですな。そうでなければ、「運命の趣味」にはならぬのです。待っていてもギフトは落ちてこない。自分で、自分の中へ、探しに行くのです。

時々、人から「どうやって趣味を持てばいいか」「どんな趣味を持てばいいか」と聞かれる事がごさる。それが社交術や世間体の為であるなら、己が属する、あるいは属したい世界の「プロトコール」を調べて合わせよ、というのみでござる。しかれども「運命の趣味」と出会いたい、ということであれば、その答えは己の内にあり、ということになりますな。己の内を旅すれば、たとえ孤児院で育ったとしても、「運命の趣味」は見つかり申そう。