【選択的夫婦別姓】内閣府の世論調査の設問変更の目的
はじめに
前回の記事では、内閣府が2021年に実施した「家族の法制に関する世論調査」の問12がダブルバーレル質問になっており、不適切であると述べました。この記事では、設問作成を行った法務省の国会答弁から、不適切な設問になってしまった理由を考えます。
なぜ不適切な設問になってしまったのか
そもそも、問12の目的は何でしょうか。選択的夫婦別姓制度の導入についての賛否を聞くだけなら、旧姓の通称使用についての法制度を選択肢に入れる必要はありません。
岡本あき子氏が国会で内閣府の世論調査について質問し、設問作成を行った法務省が答弁を行い、その目的が明らかになりました。
岡本氏の質問は、以下のビデオライブラリの2:34:00あたりから始まります。
内閣委員会 2022年4月20日 (水)、衆議院インターネット審議中継ビデオライブラリ
質問変更の経緯について、法務省の堂園大臣官房審議官は、次のように回答しました(番号は筆者が付与)。
追記:国会会議録が公開されており、すべての発言の文字起こしが閲覧可能になりました。(2022年5月28日)
それぞれの段落ごとに詳しく見ていきます。
そもそも、変更前の平成29年実施「家族の法制に関する世論調査」の選択的夫婦別姓に関する問10の設問は、次のように平成8年から変更されずに継続してきました。
この設問の内容で、5回の世論調査を実施してきたのにもかかわらず、分かりにくいという指摘があって、設問を変更するというのは少し不自然です。なぜなら、この設問にしてから約20年の間、設問が分かりにくいという指摘は全くされていなかったのか、という疑問があるからです。
また、世論調査において設問変更をしつつ継続的な把握を可能にするという、いいとこ取りは不可能です。設問を変更するならば、継続性は失われるものだと考えて、設問をより良いものにするという点を重視するべきだったと思います。今回の設問は、継続性を維持しつつ設問を分かりやすいものに変更するという両者を達成しようとしたため、不適切な設問になってしまったのではないでしょうか。
次に、段落(2)を見ていきます。段落(2)では、設問内容を表形式の資料を用いて説明して、選択肢は端的にわかりやすい表現にしたと説明しています。
設問を文章だけではなく、表形式の資料で説明したということは、法務省が「設問の選択肢のみだと、回答者が設問の内容を理解するのは容易ではない」と考えていることになり、「端的にわかりやすい表現とした」という説明と矛盾します。おそらく、選択肢自体の読みやすさ(簡潔さ)と、制度の内容自体の理解しやすさ(表形式の資料で説明)を、まとめて「分かりやすい」と表現しているのではないかと推測できます。こうすると、選択肢自体をシンプルにしたことは「分かりやすくなった」と言え、表形式の資料でそれぞれの制度を説明することで各制度の内容が「分かりやすくなった」と言えます。
しかし、「旧姓の通称使用についての法制度」と「選択的夫婦別姓制度」について同時に聞いて、さらに表形式の【資料1】を使ったせいでダブルバーレル質問になってしまい、変更後の方が不適切な設問になってしまいました。さらに、以前の世論調査との継続的な比較もできなくなり、分かりやすくするという目的も達成されたとは思えません。
この答弁で疑問なのは、なぜ「旧姓の通称使用についての法制度」が現行制度との差異が比較可能なのかということです。その後の法務省の答弁でも明らかになりますが、法務省は「旧姓の通称使用についての法制度」は様々考えられ、民法・戸籍法の改正も排除されないと回答しています。それゆえ、「旧姓の通称使用についての法制度」は具体的にどの法律を変更するかが不明確なため、現行制度からどの程度差異があるかということは分かりません。「選択的夫婦別姓制度」については1996年の答申案という具体的で比較可能な法案があります。
この回答でも、設問変更の目的が中途半端な印象を受けます。世論調査で設問変更をしつつ、継続性も維持するのは不可能であるのにもかかわらず、両者を同時に達成しようとしたため不適切な設問になってしまい、継続性も維持できなくなってしまいました。
おわりに
今回は、国会での法務省の答弁を元に、内閣府の世論調査の設問が変更されて不適切な設問になった理由を考えてみました。答弁を読んでみても、法務省が考えていた設問変更の目的が達成されたとは思えません。設問に「旧姓の通称使用ついての法制度」という具体的な内容が不明確な選択肢を入れることが、不適切な設問の原因だと思います。
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