Desighship2024に行った
今や「デザイナー」という言葉はあまりに広く使われていて意味がよくわからない。というわけでご縁があってDesignship2024というイベントに行ってきた。感想や考えたことをつらつらと。ちなみに公演はほんの一部しか聞かず、ひたすらスポンサーブースを回ってました。
全般:
言いたいことは以下の通り。
デザイナーというからには、ちゃんと主張を持ったデザインを見せて欲しい。
私はデザイナーではなく、ストーリーテラーだ。なので素人考えで恐縮なのだが、印象的だったのが、「私たちはこんなすごいものを仕事でデザインしました!」という展示がほとんどないこと。その代わりにスポンサー企業はブースをデザインしました、ということか。ではそのデザインはどうなのか?プロが作った金を取れるデザインなのか?
このカンファレンスで言うところのデザイナーとは、すごい製品やサービスを作り上げる人ではなく、とにかく仕事をこなす人なのだろうか、というのが全般的な感想。とはいえ「をを、これは」というものもありましたよ。
いつも思うのだが、こういう対面のイベントで何がいいかといえば、説明してくれる人の本音が聞けるところ。本当に悩んでいるのはなんなのか。それにどう立ち向かっていくおか。
逆にがっかりするのは、テンプレ的なセールストークをされる時。相手の本音を引き出すためには、こちらの質問が相手の心に届かなければならない。となるとこれはこちら側の問題か。
会場のデザイン:
受付が二ヶ所に分かれており、当方はスポンサー枠で参加したのでそちらの受付にいくべきだったようだ。しかしそもそもどこがスポンサー枠用の受付かわからない。(小さな表示はあるのだが)
受付すると「これが今日のノベルティです」と言われ小さなチケットのようなものを渡された。しかしそれをどこで引き換えるのか最後までわからなかった。
床には視覚障害の方をサポートするテープが貼られている。
こうした「わかりやすい”良い”デザイン」と「欠けている普通にやってほしいデザイン」のアンバランスさは、デザイナーと自称する人たちに時々見られるように思う。
ちなみに細かいことですが、DesighshipのサイトをiOSのSafariで読むとDay1のスケジュール表示が崩れます。こういう細かいことはデザイナーは気にしないんでしょうか。
入ってすぐのところにスポンサーが配布しているノベルティが置いてある机がある。LINEヤフーが立派な折りたたみ傘をたくさんおいており「これもらっていいんですか?」と聞いてしまった。それくらいタダでもらっていいのか不安になるほど立派な傘なのである。ありがとうございました。
企業ブースのデザイン:
全般:
展示している企業は大きく二つに分かれ
自社でサービスをやっている企業のインハウスデザイナー
外部に向かってデザインをサービスとして提供しているデザイナー
当然のことながらそれぞれで展示の目的は異なる。前者はプレゼンスの向上、人材募集などを目的とし、後者は人材募集に案件のリード獲得が代表的な目的だろうか。
それぞれの目的からブースのデザインも変わってくる、、と言いたいところだが目的とブースデザインどちらもぼんやりしたものもあった。ここからは各企業ブースの印象を。以下に書くことはあくまでも、1個人が一回だけ会話して受けた印象ということを最初にお断りしておきます。自分がブース展示をした時も、混雑時とか手が回らずお客さんを放置してしまったことがあった。あのお客さんはいい印象をもたなかっただろうな、と思う。書いている内容がネガティブに感じたら「たまたま当たりが悪かったのね」と思ってください。
最初に共通していた事項を
来場者に何かを書いてもらい、それをひたすら貼ったり、吊り下げたりしていくブースが数ヶ所あった。それを書く過程で説明者と興味深いやりとりをすることはできた。なので無価値とは思わないが、自分の渾身の意見が「記入ありがとうございます。じゃあ貼っておきますね」で一枚の葉っぱとして埋もれるのを見るのはあまり楽しい経験ではない。だいたいこうやって「こんなにいっぱいの意見をもらえましたー」と写真を撮ってゴミ箱行きである。そうすることで何を主張したいのだろう?
というわけで自社サービスをやっている企業のブースから
・m3:医療情報関係のシステムを作っている会社。医療従事者ならば必ず知っているm3というサイトを運営。
そのほかにも100以上の事業をやっている。従業員は500名ほどで、デザイナーは20名。というわけでとても手が足りない。
新規事業は、ボトムアップ的に提案される。特に事業アイディアコンテストとかやらなくても集まってくるとのこと。
説明してくれた人が、予約から支払いまで一気通貫でできるシステムを「これいいんですよ」と心から言っていたのが印象的。
試験管とシャーレにいれた飴をノベルティとして配布。そのビジュアルの美しさは圧倒的。x上でたくさん写真が共有されていた。
・スタメン
TSUNAGという社内SNSをやっている名古屋の会社。従業員100名ほどで、プロダクトデザイナーは一人だけ。communication designer(社内社外広報的役割?)というのが数名いる。現在は業務委託を2名ほど頼んでなんとか回している。一人だけでよく回せるなと感動していたら、セッションでその話をしていたらしい。
ブースの人が全員野球のユニフォームを着ているのだが、なぜかBayStarsのそれをベースにしたもの。なぜ中日じゃないんですか?名古屋人の魂はないのですか?と問い詰めてしまいました。
・SMS
介護施設向けのDXサービスをSAAS提供している会社。プロダクト自体は十年ほど前からあるのだが、最近インハウスのデザイナーチームを立ち上げた。経営者の間に濃淡はあるが、自分たちでUXリサーチを行いデザインを行っていくことにコミットしているとのこと。 自分たちでデザインチームを立ち上げるのは素晴らしいと共に、それを他社に依頼する会社ってどうなんだろうとも思う。
・GMOグループ
GMOグループにはたくさんの会社、事業があり、それぞれの会社にデザイナーがいる。しかし横の交流が全くなかったとのこと。
今回のブースは、GMOグループ横断でチームを作り、GMOの多様な事業を理解してもらうためにはどうすればいいかから考えて、ゲーム的な仕掛けを考えたとのこと。大きなパネルの上から、指定された事業を探しキーワードを書くというゲームは面白かったし、GMOグループを知るのにも役立った。ただ景品のトランプは少し謎。
・ソニー:
ソニーのプロダクトをしめす布がつるされており、ソニーデザインのいろいろな面を知ってほしいという展示。説明してくれた若いデザイナーに
「昭和のソニーは変なものも作りましたが、それでも”これぞソニー”というらしさがありました。令和のソニーにはそれがなくなって寂しいです。この展示の中で”これぞソニー”っているのはどれですか?展示は全て正しいが、誰もソニーに正しさなんか求めていない!」
と言ったら、「実は私もそう思ってます」と言ってくれた。鬱陶しい老人を避けるためだけだとは思わないことにする。
・VIsional(ビズリーチの会社)
文章を描いて貼ってください、というもの。「つながりを」とか「みんなと共に創る」とか定型的な言葉が並んでいたので「最初は嫌われるがいつのまにかあたりまえになるものを創る!」と書いた。たまたま相手をしてくれたデザイナーの方が「社内ツールのデザインをしているが、今あるものから変えたくないユーザが多くて大変なんです」ということ悩んでいたので大変共感を得た。(と私は思っている)
・Wedding Park
お悩みすくい、という展示。展示自体はありきたりだがビジネスモデルが面白かった。結構式場から掲載料を取り、ユーザの口コミを編集なしで載せているとのこと。そのあとリクルートのSuumoのデザイナーとも話したが、なかなかクライアントに不利な声がでるものは載せ難いという制約がある。そこを乗り越えるのはすごいですね、といったら「わかっていただけてうれしいです」と言ってもらえた。
なぜ展示してるのか?と聞くと「まずはプレゼンスを高めるという目的。エンジニアのイベントにも出展している」とのこと。
・REAZON
社名を全く知らなかったが非常に幅広い事業を手がけている会社。
キーワードをいくつか選ぶとそれを表すコーヒーが提供されるという展示。造作がリアルで、説明員がコーヒーショップの店員っぽいエプロンをつけているという懲り方。年に3つは新しい事業が立ち上がるとのこと。どうやって新規事業を作るのか?というと事業開発の専門職がいる、とのこと。「新規事業を考えるので苦労している会社があります」というと、不思議そうな顔をしていた。
後でQRコードを読んで私のインプットから導出されたコーヒーを見たがよくわからなかった。
・Findy:
デザインの生産性可視化というキーワードを挙げている企業。どうやって生産性を測るんですか、ときいたらもともとエンジニア領域の生産性可視化をやっているため、いろいろ試行錯誤中という答えだった。議論のすえ「デザインの成果評価って難しいですね」という結論になった。
・リクルート:
リクルートは幅広い事業をしているが、それを横断的にまとめているデザイン組織が展示しているとのこと。話をしてくれた相手がたまたまSUUMO担当の方だったので「いや、SUUMOさんには敵いません」「いやいや、LIFULLさんすごいですよ」という感じで話が盛り上がった。
・NEC
NECのデザイナーが社内で行なっているAI活用方法のデモ。子供の頃使った筆箱や机などの思い出を入力すると(入力してくれるのはNECの人)それっぽい言葉を机が語ってくれ、それを印刷するというもの。
使っているのはchatGPTなので、入力された内容をそれっぽく文章にまとめるだけ。ある人は使って「机がこんな風にしゃべってくれたら、とジーンとなっちゃいました」と語っていた。私の感想は以下。
机の「人生」と私の「人生」は全く異なる。人間が何を語るかは、その人がどういう人生を送ってきたかに依存している。となれば私にとっての幼少期の机の物語と机にとって私という人間との触れ合いは全く違った意味をもっているのではないか。
そう考えれば、机が私が入力した内容を適当にまとめて返してくるなんてのは面白みがない、と。つまりは「もう一息がんばってください」ということ。
こうやって書くと(別にこのブースに限らないが)真面目な若いデザイナーを捕まえてわけのわからない話をしている老人そのものだな。
では次に「外部に向かってデザインをサービスとして提供しているデザイナー」のブース
回ったブースでは以下の質問をした。
・御社の売りはなんですか?
・他の会社ではなく御社に頼む理由はなんですか?
・他のデザイン会社と差別化するため、どんなことをしていますか?
印象的だったのは、この質問に対してまともな答えが返ってこなかったこと。きっと皆さん、日々の仕事をこなすので精一杯なのだろう。いや、単に私の聞き方が悪かったか、あるいはこんなの相手にしてもしょうがないと思われたか。というわけでそれ以外の点を。
・コンセント CONCENT
キーワードを描いてくださいと言われ「ゴール創生」と描いた。そこから様々な議論をした。「良いデザインとはなんですか?御社のデザインはどう他と違いますか?なぜあなたにデザインを頼もうとうしますか?人月売りで売られるだけでいいんですか?」など,これまた訳のわからないことを喚き散らす老人そのものだな。
・root
スタートアップから大企業まで様々なデザインの支援を行っているとのこと。スタートアップ向けには値段を調整してます?と聞いたら笑っていた。スタートアップ支援で得た知識を大企業に還元する、その逆もできるなどが売りとのこと。
・グッドパッチ
デザイナーのjob huntingサイト:ReDesignerに特録すると、ジンジャエールがもらえ、かつデザイン界隈の有名人が選んだ「自分をかえた一冊」があとでもらえるという企画。展示されている本をその場で読むこともできる。もっとも印象に残ったブース設計の一つ。
ショートプレゼンのデザイン
以下Open Stageで行われたShort Presentationの印象を。
五分という短い時間で何をしゃべるか。これをよく考えられたものと全く考えていないものがあった。デザイナーを名乗るなら、ちゃんとプレゼンテーションもデザインしてほしいものだ。
私はテンプレ的な会社紹介、自己紹介が大嫌いである。私が聞きたいのはあなたがしゃべる内容であり、それが面白くて初めて「この人はどういう人なんか?どういう会社なのか?」と興味が湧く。特に短いプレゼンで延々と自己紹介をやる人を見ると
「ああ、この人自己PRだけで就職活動突破してきたんだな」
と思う。(そして就職人気が高い企業にはそういう若者が実に多い)
そうした意味ではメインステージでプレゼンされていたこの方と視点が共通するところがある。
https://note.com/keiko03ad049/n/n20e648d6e416
私が見た中で、そうした観点からよくできていたのは1日目のリクルートの方のプレゼン。「結婚式にまつわるあれこれの雑用を効率化すればユーザーはHappyになるだろうと思ってましたが、そんな単純な話ではありませんでした」という主張が明確になされていた。また最後をちゃんとブース紹介に繋げているのもよかった。
プレゼンテーションのデザイン
聞いたものだけ。
エモーショナルデザインの実践
芝浦工業大学デザイン工学科教授の方。アンケートとって数量化一類を使うといい形の瓶がデザインできるんです!と言われてもねえ。エモーショナルデザインを標榜するからには、自分の目の前にいる聴衆のエモーションも気にかけてください。
地域に、光をあてる。インタウンでインハウスなデザイナーの挑戦
「デザイナーをやめよう!」というテーマでのプレゼン。プレゼンテーションをちゃんとデザインしようという意欲は伝わってきた。
問いが世界を拡げていく
多摩美術大学の準教授の方のプレゼン。内容が佐藤雅彦氏の「新しいわかり方」(https://amzn.asia/d/8rrVEWo)とそっくりだなあと思ったら慶應大学で佐藤研究室にいたとのこと。なんとあの本の元ネタはこの方であったか。
今書いている本と共通する要素が多くあって、プレゼン後に少しお話を聞いた。もう一歩踏み込んで考えたお話が聞きたかったな、というのが感想。
具体的に書こう。デザインしていく中で、自分の感情の動きに注意すべきとお話しされたので
「それは少年ジャンプの編集部と同じ考え方です。実際そうやって少年ジャンプはすごい漫画を作り出しています。しかしなぜそうやって自分の好きに注目すると良い作品を作り出せるのでしょう?」と聞いた。返答は「好きなものなら細部にまで拘りますよね」といったものだったが、本当にそれだけなのだろうか?あとは自分で考えるか。