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俺が代表する者/俺を代表する者

録画したNHKのBS世界のドキュメンタリー「キューバ・リブレ ラップで闘う」を観る。

原題:VIVA CUBA LIBRE RAP is War 製作:La passion/First Look Media(キューバ・アメリカ 2012年)

キューバで圧倒的な人気を誇りながら、当局に発禁処分を受ける「ロス・アルデアーノス」。自由を歌い、政府批判もいとわないラッパー2人組の姿を、無数の人々が匿名で撮影協力。アルドとビアンの2人は、CDを手作りして街頭で配り、秘密のゲリラ公演を地方の町で開くなどして音楽活動を続けている。カリブのこの国の住民なら誰もが知る存在だが、「固定観念を打ち破れ」と呼びかける彼らのラップを聴いていた一家が長期の拘束を受けるなど、当局の激しい圧力に直面している。ビアンと妻の間にも初めての子が… “理由ある反抗”は続けられるのか? キューバの断面を鋭く切り取った歌と生き様のドキュメント。

Los Aldeanosというラッパー二人組の活動を通じて、観光客には見えないキューバの苛烈な現実を描く。アメリカと国交を回復したのが2015年、それより数年前のキューバを映したドキュメンタリー映画である。二人の「Viva Cuba libre 」という曲のリリックがシンプルで、皮肉が利いている。

自由なキューバ万歳

国内にいる者 脱出した者
すべてのキューバ人に捧げる

サメの餌になった者
刑務所にいる無実の者

そうした英雄に
この歌を捧げる

間違った選択をした者
俺が代表する者
俺を代表する者
夕食がパンと水だけの者
勝利を信じる者
自由と祖国への愛のために
ビバ・キューバ・リブレ
革命はこれからはじまる

Viva Cuba libre / Los Aldeanos

続いて、「グレートネイチャーSP 赤道直下4万キロ(4)ガラパゴス 進化の島の人間たち」を観る。

番組冒頭の学者の台詞から。

もともとガラパゴスは海賊のアジトだった
1600年ごろまで人は住んでおらず
海賊が船の修理に立ち寄るだけだった

その後ガラパゴスは進化の実験室と呼ばれるようになった
1835年にダーウィンが島を訪れさまざまな発見をしたからだ

今人間と動物の関係は友好的だ
世界遺産になって動物たちは保護され
人間たちを恐れなくなった
危害を与えたら人間は刑務所いきになる
カラパゴスは人間より動物の方が大切なんだ

ガラパゴス諸島のサンタクルス島。港町の魚市場では、漁師の妻たちが固有種の魚を捌く。彼女たちのまわりには、魚目当てのペリカンやアシカがたくさんうろついている。人間に対して全く物怖じしていない。人がこの島に住み着いて、まだ200年程度だという。彼らは、人間が自分たちに危害を加えてこないことを知っている。

ガラパゴス諸島って、こんなに観光地化されているのか、という驚き。とはいえ、人間が居住する場所は島の3%にすぎず、それ以外は国立公園に指定されており、住民でも立入禁止だ。外来種の侵入を防ぐため、観光客は船から島に降りる前に、靴の裏の泥を水で洗わなくてはならない。住民は車も自由には買えず、動植物に危害を与えたら刑務所ゆきもあり得る。観光で賑わう街だが、あえて厳しい規制を人間に課した街でもある。

5、6人の男性の保護管たちが国立公園の森に入る。途中、腕の長さほどのナイフを研ぎ、その刃で草木を次々と伐採し始める。刈っているのは、外来種のキイチゴだ。昔、この島でジュースの販売を始めようとしたビジネスマンがこの島にキイチゴを持ち込んだせいで、島の固有種の植物を脅かすほど繁殖してしまったという。ちなみにそのジュースビジネスは失敗し、すぐに撤退した。夥しいキイチゴの草木だけが島に残された。保護管の一人は愚痴をこぼす。人間が持ち込んだ外来種を人間が駆除する、この仕事にときどき虚しさを感じる。でも、外来種がなかったら俺たちの仕事はなくなっちまうからなあ。

私はソファから起き上がり、テレビの視聴を辞める。駅前のジムに行き、トレーニングしながら『ミメーシス』を読む。第十七章でゲーテやシラーが取り上げられるが、私は前の章のサン=シモンの文章が相変わらず気になっていた。改めてweb検索するが、彼の『回想録』の日本語訳が見当たらない。『ミメーシス』に載せてある彼の文章を再び引用する。年老いたイエズス会のトリエ神父の人物描写である。(『回想録』第十七巻60ページ)

彼の頭と健康は鉄で出来ており、彼の行いも同様であった。性質は残忍、凶暴……外見と本心が似もつかず、不正直で、本心を幾重にも覆い隠しており、また、それが姿を現してひとに恐れられるような時は、ひとにはすべてのことをきびしく要求し、与えることは何一つせず、この上なくはっきりと与えた約束さえ、もはや守る必要がない場合には一向意に介せず、自分が受けとった約束は容赦なく履行を迫った。彼は怖ろしい人間であった。……何事によってもつかのまも妨げられることのなかったこの憤激において驚くべきことは、彼が自分自身のために何かをもくろむことは決してなかったこと、彼は親類も友人も持たなかったこと、生まれながらに悪意にみちて、ひとに恩恵を施す喜びに心を動かされることが決してなかったこと、彼が社会の最下層の出で、自分でもそのことを隠さなかったことである。その激しさは最も賢明なイエズス会修道士たちを畏怖させるほとであった。……彼の外貌も同様のことを約束していた。そして正確にその約束を守ったのである。彼は森の片隅にいても恐怖を呼びおこしたであろう。彼の顔つきは、陰気で、不実で、恐ろしかった。眼は燃え、悪意がこもり、ひどい斜視であった。彼を目にしただけでひとは衝撃を感じた。

E・アウエルバッハ(著)篠田一士・川村二郎(訳)『ミメーシス 下 ヨーロッパ文学における現実描写』筑摩書房,p.281-282

近い将来、もし誰かのことを悪し様に罵らざるを得ない状況に陥ったら、せめて彼のようにその誰かを描いてみせたいと思う。

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