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ていねいに暮らせない
朝5時、黄色いカーテンの隙間から朝日が差し込む。
寒い。冬布団に包まっているのに、足先が冷え込んでいる。昨日放り投げてどこかに埋もれているであろう暖房のリモコンを探した。微睡みながら手にしたのは、キンキンに冷たくなったスマホ。これじゃない、これじゃないんだけど、とりあえず友人から来ているLINEに半分目を閉じつつ返信を打つ。左手でフリックしながら右手で枕の上を弄った。
あった。リモコン。先に部屋の空気を暖めておかないと、こんな冷え切った外界に、可愛い我が身をパジャマ姿のまま晒すなんて酷なこと、わたしには到底できない。
リモコンのスイッチを押して、押したのに反応が悪くてウンともスンとも言わないエアコンに若干苛つきながら雑にスイッチを連打し、起動させる。起きるの辛いよな。分かる、分かるよ。でも今日は引っ越しの準備と、あ、あと年賀状も書いて……と思いつつ、安らかに二度寝の床についた。
🌞
次に目が覚めたのは7時半くらい。外もだいぶ明るくなっている。階下のリビングに降りて、取り急ぎストーブの前で爪先を暖める。それでも足りなくて、まるで猫のようなポーズで、尻と足に温風を吹き当てた。これをやると肌が乾燥するから嫌なんだよな。でも、ぬくぬくと気持ちいい。
昨日会社の人からもらった高級そうな小箱をガサゴソと取り出して、チョコレートを一粒、口に放り込む。パリッとした表面が口の中で解けて、トロリとした濃厚な液体が舌の上を満たす。玄関に置いたままにして放置していたトリス缶を持ってきて、プルタブを起こした。
ゴッゴッゴッ…………プハー!
荷造りも年賀状も、今日はできそうにない。そんなことより、朝から飲む酒の、なんと美味いことか。残りのチョコレートも一粒、また一粒と口に投げ入れてはハイボールで流し込む。実に贅沢な朝食だ。
身体も温まってきたし、寝室に戻って本でも読もうか。買うだけ買って、まだ手をつけていない積読が枕元に散乱している。その内の一冊を手に取って、表紙をめくった。『エンドロールのその後に』。SNSで話題になっていたので気になっていたものだ。冒頭の著者の語りを目で追う内に、また微睡みの世界が手招きを始めた。冬の澄んだ空気を伝って、武蔵野線が線路を駆ける音が、遠くに聞こえる。一定に刻まれるリズムが、ほろ酔い気分に心地よい。まだ目次にしか辿り着けていないそれを、またチンタラと閉じて、瞼が落ちるのに任せた。
ああ…歯ブラシ…しないとな…。
🌝
夢の中でインターホンの電子音が高らかに響いた。時計の針は16時を回っている。冬至を過ぎて日没がだいぶ早くなった。急かすように再びインターホンが鳴る。仕方ないので起き抜けのありのままの姿で玄関を開けることにした。ちょっと若めの配達員さんで、欠伸を噛み殺しながら、このだらしのない体たらくぶりを少し後悔した。まあ、二度と会うことは無いだろうし、良しとする。
昼ごはんも食べないまま、丸一日寝てしまった。おかげでブランチも見逃した。朝5時のやる気はどこへ消えてしまったのか。全ては、テーブルに置いてあったチョコレートのせいだ。忘れてたけどネイルも変えたかったのに、それもやっていない。晩御飯はどうしようか。考えるのが面倒だからピザでも注文しようか。デリバリーが来る前までに、ほんの気持ちだけ、身なりを整えておくべきだろう。
寝過ぎて開ききらない瞼に、度の高い分厚い眼鏡。グチャグチャに乱れ切った髪。ショートカットだと寝癖が芸術的になる。まさに爆発。若干酒臭い。
嗚呼…!冬の毛布は何故こんなにも気持ち良いのだろう!今日はたぶん疲れが溜まっていたのだ。寝ようと思っても丸一日寝床に居るなんて、退屈過ぎて中々できることじゃない。目標とすべき所は何一つとして達成していないのだが、実に充足された一日だったと言える。
やるべきことは、きっと明日のわたしが上手いことやってくれるだろう。
それじゃ、おやすみ。また明日。
息を吸って、吐きます。