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『This is my Column_240906』Vol.2 舞台の「歌唱指導」について。


舞台のお仕事に関わるようになって約10年、現在は音楽を作ったり、音楽監督をやったりがほとんどですが、「歌唱指導」も担当する事があります。だって元々は歌が専門ですのでね。
歌唱指導とはその名の通り、役者さん達に歌の指導をする役職の事です。演劇の歌唱は一般的な歌唱と違い、芝居の中で歌う、踊りながら歌うといった様々な要素が絡みます。そこで演者や演出家と相談しつつ、芝居上の歌の「質感」みたいなものを作ってアドバイスしていくわけです。
といいつつ、限られた稽古時間なので場合によっては曲を覚えるお手伝いに終わる事もあります。役者さんの歌の力量はフタをあけてみないとわからないというのが正直なところ。そこを根本から見直すには時間がなさすぎるのです。なのでできる限りご本人の現在の最大限のチカラとうまくキメるためのポイントをアドバイスしていきます。でも発声を含めて、その場のアドバイスですぐに実力がつくわけではありません。まずは目に見えている部分の改善が主に出来ることだと思っています。フレージングのスムースさとリズムはまず改善できるポイントかなと思います。

私の場合はまず2段階の「仮歌」を作成します。歌詞検証用とキャスト配布用です。
歌詞検証用とは歌詞やそのハマり方を歌ってみて検証するためのもの。新作も翻訳もどちらも必要かと思います。仮歌音源にて関係者みんなで聴いた方が確実だし早い。
各所検討が終わったら修正の録音をして、次はキャストの皆さんに配布する用の仮歌音源です。メロディはもちろん、ハーモニーの全パートを歌ったもので各パートごとに聴けるようにしています。必要ならばそれぞれのマイナスワンなど。まずはそれを聴いて曲をご自身なりに覚えてきてもらう事から始めます。
ちなみに僕は一人で全パート歌ってレコーディングしています。
仮歌はあくまで「音どり」に特化したものなので、感情のないプレーンな表現で歌ったものです。実際の質感は役者さんが考えるものなので。
「仮歌を配布するのはやめてください、君の歌い方を真似されたら困る!」なんて事を言う音楽監督がかつていましたが、そんなわけない。役者はそんな馬鹿じゃないから大丈夫。
大抵のキャストは仮歌が歌稽古におけるすさまじいブースターになっているのをわかってくれています。
コロナ禍になってからはこの仮歌を配布するやり方が密をさける、時短になるなどとても良い進め方だと思いました。 

仮歌とは話は変わりますが、個人的に「プレーンに歌う」って割と好きなんですよね。感情過多な歌や余計なフェイクやニュアンスの多い歌い方が苦手なんです。そういうのをいつも「うまそうに歌う」と表現しています。悲しさや切なさを表現するなら、溢れる感情をグッと抑えた歌や淡々と歌うことの方が情報量が多いと感じます。ただしそれは技術とセンスに裏打ちされていないとダメですが。

さて、音楽や歌の良し悪しに譜面が読めるかどうかなんて全く関係ありません。
稽古は当然譜面を使いますが、「さあ今読んで歌え」といっている訳じゃないです。譜面は内容を「読み込む」ための材料にすぎません。読み込む、考える、発見するなどの発展をさせ、稽古を経て舞台で披露する形になるわけです。譜面に音楽全ての情報が書かれていると思ってる方もいますが、そんな事はありません。割と適当な場合も多いんです。
大事なのは譜面から何を感じるかという事。やっかいなのは歌のニュアンスがわざわざ音符として書いてある場合。歌の立場としてはその音はフレージングのニュアンスとして「すっ飛ばして」歌う部分だと判断できます。「無視」じゃないです。が、それをわざわざ音として歌うと取ってつけたようなフレーズになるから、とてもカッコ悪いて事になります。 書いてある事をやるのはとても大事ですが、「読み取る」がもっと大事。

あと役者さんは譜面見ながら演じるわけじゃないので、譜面が読めるとか初見がきくとか、そんな事は全くどうでもいい事なのです。たまに歌稽古初回で、初見なんですーなんて言いながらたどたどしく歌うというどうでもいい中途半端な能力を披露する方がいますが、何の意味もありません。
資料聴いてこなかったの?まいったな今日はそこからのスタートなのかとしか思わないです。

さて、稽古が進むと各シーンにてミザンスや振り付けがついていきます。
踊りながら歌うとか何かを運びながら歌うとか、色んな芝居をしながら歌うという難関が待ち受けているわけです。そこで振りや動きに合わせて歌の細かい部分をフィックスしていきます。メロディの伸ばす、切るなどのタイミングをどの拍に収めるか、収めないかなどです。振り付けの方が歌を尊重してくれている場合もあれば、歌の事を全く考えていない方もいます。それはもうケースバイケースで相談していくしかありません。
しかし役者さんはすごいですね。芝居して踊って歌うなんて僕には到底できない事です。そこで「しっかり歌え!」なんてアドバイスするのも「オマエできんのかよ!」て返されたら、すみませんとしか言えないですね。
ミュージカルではハーモニーもとても大事な要素ですね。まずうちら職業ミュージシャンと役者の圧倒的な違いは「立ち位置が定まっていない」に尽きます。僕の場合は常に同じ位置にてイヤモニや足元のモニターにてしっかりと音を聞きながら、そしてハモる対象やハーモニーの別パートなどをしっかりと聴ける環境にあります。
役者さんの場合はステージをフルに使うわけで、モニターなんかないも同然。さらにハモる相手が上手と下手に分かれたりします。(じょうずとへたじゃなくてかみてとしもてね。)そうなるとハモってるのに相手を感じる事なく、一人で歌っているような感覚になるのでとても難しいのです。だから稽古で繰り返し練習して強弱や質感を徹底的に身体に叩き込んでおく必要があります。
ハーモニーについてなんですが、ハモるのが苦手な人も多いですね。そういう人は音をそのまま身体に染み込ませるという人が多いです。伴奏があってもなくても身体が覚えている音を出せるが、それは実際にはハモりとしての精度はよくないです。しかも曲のキーが変わったりすると対応できなかったりします。

僕自身は【移動ド】という概念で音を把握します。いわゆる相対音感。逆に【固定ド】というのは絶対音感てやつですね。でもね、絶対音感て全然絶対じゃないですよ。絶対音感があるからといって歌や音楽の良し悪しには全く関係ないです。【ハモりにはむしろ邪魔】な気がします。この辺のお話はまたの機会に。
ハモりについてはコツはないです。「慣れる」しかないし出来るまで練習するしかない。僕はコーラスのスタジオミュージシャンだからハモるのが仕事です。どうして技術を培ってきたかというとやれるまで練習した、としか言えないです。慣れると自分の音だけを歌っていたのが、他のパートと混ざり合う事ができるようになります。

ここまで書いてふと思いましたが、他の歌唱指導の方とお仕事をご一緒したり一緒に歌を歌った事が皆無なので、他の方々がどんな歌を歌いどんな指導をされるのか全く知りません。たまに僕が関わっていない案件の役者さんがこっそりうちのスタジオにきて練習する事がありますが、一体どんな方々が指導されているんだろう?て思う事はあります。

歌唱指導やってる方、今度飲みにでもいきませんか?
連絡ちょうだい。

さて、今回はこのへんで。
2024年9月6日
大嶋吾郎

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