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五億円がもたらした運命の転機 1話

第1話「平凡な日常の中で」

38歳、工場員のYは、同じ毎日を淡々と過ごしていた。目が覚めると、カーテン越しに差し込むわずかな陽光を見つめるのが、彼にとって朝の始まりの合図だった。18年間同じ工場で働き続けてきた彼にとって、生活はすっかり単調で、まるで機械のように日々が過ぎていた。


Yは特に大きな夢もなく、恋愛に積極的でもなかった。友人も少なく、休日も家で過ごすことがほとんど。生活に不満があるわけではなかったが、時折、胸に湧き上がる漠然とした不安に駆られることがあった。このままの生活を続けて、いったい何が残るのだろうか?そんな問いが頭をよぎるも、特に行動を起こすこともなく、また同じ日常へと戻っていくのだった。


そんなある日、仕事帰りにふと立ち寄った宝くじ売り場で、Yは目に留まった宝くじを手に取った。特に期待があったわけでもなく、ただなんとなくの気まぐれだった。「まあ、当たるわけないか」と心の中で呟きながら、購入した宝くじをポケットにしまい、そのまま家路についた。


数日後の夜、いつものように携帯を見ながら無気力にリビングで過ごしていると、ふと買ったまま放置していた宝くじのことを思い出した。Yは宝くじの結果を確認するために、テーブルの上に放置してあったそれを手に取り、当選番号と照らし合わせる。


「…え?」

画面に映し出された数字が、自分の宝くじとぴったり一致しているのを見て、Yは思わず目を見開いた。心臓が早鐘を打ち、頭の中が真っ白になった。


「五億円…本当に、俺が?」

現実感のない状況に、Yはしばらく言葉を失った。手の中の宝くじを何度も見直しては、当選番号を確認し、その度に驚愕が増していく。いつもと変わらぬ静かな部屋の中、Yの心だけが激しく揺れ動いていた。


その夜、Yはほとんど眠れなかった。突如手にした巨額の大金に、彼の心は混乱し、喜びと不安が入り交じっていた。これまで平凡だった日常が、この瞬間から一変するのではないかという期待と、見えない不安が彼の頭を巡っていた。


翌日、Yは会社を休むことに決めた。五億円という大金を手にした今、毎日の労働に意義を見いだせるわけもない。夢のような額を手にしたことで、心が自由を求めていたのだ。Yは心の中で、これから何をしようかと思案し始めた。


「今までの生活にはもう戻れない…」

そう心の中で呟きながら、Yは新しい人生を歩む決意を固めた。しかし、彼はまだ気づいていなかった。この五億円という大金が、彼の人生を幸福にするどころか、深い闇へと誘う第一歩であることに。



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