『運命的な誘拐事件』

 夕闇を誘う午後。
 あの日私は、公園の小さな砂場にうずくまり、腹這いに動くアリたちをマジマジと眺めていた。
「なにしてるの」
ふと頭上から声がする。ぱ、と私が顔を上げると、そこには近所に住んでいる5つ上のお姉さんがいた。黒い髪の毛が綺麗なお姉さん。
「もう暗くなっちゃうよ」
お姉さんは優しい笑顔で、私にそう言うと、スっと白くて華奢な手を差し出した。
「帰ろっか」
 試験の結果を一緒に祝ってくれたっけ ぬいぐるみが取れるまでクレーンゲームと睨めっこしたっけ 大好きなお姉さん 僕は彼女を取り返さないといけない。その為にこの年のこの瞬間まで「帰ってきた」のだから。
「兆点兆点兆点~~~~~~~!!」
突如頭上から陽気な中年男性の声が響く。周りの風景が螺旋状にジャミングされ、無機質な部屋が視界を纏った。
「お姉さん、かえしてほしいですよね?」
眼前のハゲが笑う。
ハゲは笑顔を崩さずにこう続けた。
「ギャッピー ゲッチャン オーハイ」
人には理解が出来ない文字を聞いたお姉さんは恐怖のあまり頭を抱え縮こまってしまった。
「叩け...ボンゴ!響けサンバ!!」
お姉さんの詠唱で金色の衣装を見に纏った松平健が現れた。有り余る体力の差と踊り子の質量が勝敗を分けた...かのように思われた。押し流されたハゲは発光し魔法陣を巡らせ叫ぶ。
「ゲッチャンオーハイ‼️」
マツケンは金色の衣装を口からはいた血で染めた。
「ケンさん!」
駆け寄る僕の手を払い、マツケンは僕とお姉さんを別次元の扉に押し戻す。血の滲む口端は、笑っていた。
 気付くと僕達は公園に戻っていた。お姉さんと僕は放心状態のまま帰路に着いた。無事家に戻り、夜ご飯を食べていた。ふとテレビを見ると音楽番組をやっていた。
「マツケンサンバ〜」
オレッ
僕は小さく呟いた。




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作者 少年/人外/ケイマ

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