『風と乾燥コカコーラ』


 春風が通り抜ける桜並木。俺は暖かな日向を歩いていた。忘れもしない。鼻をくすぐる甘ったるい桜に紛れて、「アイツ」の黒髪が風に靡く。
 そいつの手には、カッピカピのコーラ。
「お、お前は……!」
「クロコダイル……ッ!!」
おかしいぞ……彼の砂嵐を喰らって、俺は意識を失ったはずだ……!!まあいい、彼が気付く前に橋から突き落としてしまえば能力者のお前は無力化してしまえるのだから!!!
 俺は力を振り絞りクロコダイルに突進した。クロコダイルに見事当たったが勢いが強すぎた。俺とクロコダイルは橋から落ちてしまった。
 気がつくと俺は、落ちた橋の下ではなく広い砂漠に横たわっていた。無論、一緒に落ちたクロコダイルと共に。クロコダイルはまだ目を覚さない。途方に暮れた俺の頬を、乾き切った風が嘲笑うかのようにスルスルと、撫ぜていく。
「おい!大丈夫かよ!起きろよ鰐野郎!」
クロコダイルをゆさゆさと揺すると、小さな呻き声が口から零れた。良かった。生きている。
「やれやれ……とんだおっちょこちょい共だな」
「…ッ」
彼は傷を庇いつつ起き上がる。攻撃の跡をさすり、眉ををしかめる「…!?クロコダイル!!お前」
風がコートを捲り上げ、その姿が露わになる。
「腕が……!!ッ」
「クハハ…」
「安いもんだ、腕が…」
売買されていた…。クロコダイルの腕は名家のコカコーラ社によって買われてしまったようだ。俺はちょっと気になったからなんで?って聞いた。
お金が無かったらしい。
 世は無常である。
 どれほど近くに居ようとも、巨万の富を持ったコカコーラ社には抗えないのである。
 熱風の絶えない乾燥したこの土地で、黒く刺激的な炭酸飲料はより一層美味しくなるだけだった。




作者 ばちんこ/少年/人外/ケイマ

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