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4月読書感想文:夜が暗いとはかぎらない 寺地はるな先生

来店客の減少により1年後に閉店することが決まった暁マーケット。
その市場のゆるキャラである、あかつきんが突然失踪したと思いきや、神出鬼没に現れどうやら人助けをしているらしい。
そんなあかつきんにまつわる13の物語が書き下ろされている、寺地はるな先生の「夜が暗いとはかぎらない」

新生活がスタートする4月。みんなそれぞれ新しい出会いがありそわそわしたり、やる気が出たり、がんばったり。楽しいことやワクワクすることが増える反面、気負いすぎたり緊張したりする季節だと思う。
4月ももうすぐ終わりで、気疲れがたまってるんじゃないでしょうか?そんなときこの本を読んでほしいと思ったので今日は「夜が暗いとはかぎらない」を紹介しようと思う。


①紹介したいと思った理由
②この本の見どころ
③特に好きなシーン


①紹介したいと思った理由

上記のようなあらすじをみて、最初はあかつきんが困ってる人のところにふら~ってやってきて魔法のように解決してくれる物語だと思っていた。

この本は3部構成でつくられている。
1)朝が明るいとはかぎらない
2)昼の月
3)夜が暗いとはかぎらない
それぞれに数話ずつ物語が集まっている(3はエピローグのみ)

朝が明るいとはかぎらないというタイトルをみて、ちょっと不穏な感じだなぁと思った。明けない夜はないという言葉の英訳を初めて学んだとき、なんてきれいな言葉だろうと思った。朝が明るいとはかぎらないは、その真逆の不穏さ。朝って太陽がのぼってきてキラキラしてるイメージなのに、その朝を明るいとはかぎらないって言われるなんて…だけど特に気にせず読み進めてみた。
あかつきんが華麗に解決するんだろうと思いながら。

数話読んで気がついた。

これ、暗い話が暗いまま終わる。

しかも何ともいえないしこりを残して。
読むのがつらいなぁと思う話が多かった。
問題をさっと解決してくれるヒーローは来ない。
あかつきん、どこ?というか、あかつきん自身も苦しい出来事を背負って生きてる。

せちがらいなぁ。

けど、これがリアルなんだなぁって思った。

新学期、最初の自己紹介でかんじゃったり。
お弁当一緒に食べる子が見つからず焦ったり。
面接を受けても受けてもお祈りされたり。
新入社員、かかってくる電話が怖くてなかなかとれなかったり。

そんなつらいとき、一発逆転があればなぁと思うけど、ヒーローはこない。
自分で何とかしないといけない現実の厳しさがある、だからこそこの本は面白かった!
都合よく最後にハッピーエンドにする強引な幸せを見せられると、現実に戻ったとき余計にむなしくなるときがある。
この本は押し付けがましくなく、そっと悲しみに寄り添ってくれると感じたから、感想を書きたいと思った。

②この本の見どころ

だけどつらい話が続くわけじゃない。
そりゃパワハラしてくる会社が翌日爆発するような爽快な解決方法はないけど(笑)

この本はAのエピソードで出ていた人物が、Bのエピソードでは主人公になる物語形式で、一歩一歩地道に取り組んでいけば、良い方向に進んでいってるんだなぁと思うエピソードに話が繋がっていく。

あるエピソードの話。
(※記憶を頼りに書くので、ざっくりですがネタバレします)


蝶が好きで、休みの日は蝶の博物館にいく主人公。誰もこのことは知らないはずなのに、ある日いつものように訪れると会社の後輩の女性がいて明らかに好意を隠さない態度で近づいてくる。妻子がいる主人公は無難に接して離れようとするけど、なかなか別れられず一緒に回る羽目に。

「悲しみをあなたと分け合いたいんです。」

そう言われた主人公、
「そうやって部長からお金を巻き上げたの?」と。

そう、この女性は過去にも同じ会社で同じことをしてたまたま主人公はそれを知っていた。よくよく話を聞くと、最初は本当に付きまとわれていたときに彼氏が出てきたところお金を払うので許してくださいとなり、それに味を占めた彼氏からずっと強要されていると。
自分を変えたいと悩む女性。
このエピソードの主人公ではないので、この話のなかではどうなったかが分からないけど、別のエピソードでちゃんと自分で自分を変えるために行動している様子が伺える。

絶対正しい道なんてなくて、というかそんなこと一生知る術はないと思うけど
そんななかでも自分が最良だと思う道に進んでいくしかないんだなぁとこの本のなかの人たちを見てると思う。
どんな道を進もうとしても十年後、二十年後経ったときに自分を恥じる生き方はしたくないと思った。

③特に好きなシーン

昼の月のなかのエピソードのひとつ。
音楽が好きで、楽器の販売というかたちで音楽に関わりたくて選んだ男性。
春、小さな町の営業所に飛ばされてしまう。
昔からの地元だけで勝負してる楽器店で、主人公が頑張って店をよくしようと行動しても上司からは煩わしそうにされて、空回りに終わっている。最近うまく眠れてないようで…。そんな夫を見守る妻の話。
読んでもらいたいので詳しくは書きませんが、このなかで夜中に野菜スープをつくるシーンがすきです。

どうやって夫を支えたらいいのか。
家族になればなるほど言葉のかけ方って難しい。励ましの言葉をかけようとしても、逆にプレッシャーになってしまう可能性もある。
そのなかで静かに野菜スープをつくるシーンは、せつなくて切なくて優しい。

直接的な手の差し伸べ方だけが解決方法ではないんだなぁって思った。

  ○○○

いいことも悪いこともある人生だけど、着実にがんばろうという気持ちになれた一冊でした!

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