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8月の読書感想文:よろづ春夏冬中/長野まゆみ先生

今回は、noteを読んでくれている大学時代の友人2人に向けて読書感想文を書きたいと思っている。

なぜならこの本が、良質なBL本だったためである。

    ○○○

幻想的な世界観で、夢か現実か。はたまたこの世かあの世なのかはっきりしない不思議な短編集。
長野先生が描く男の人は、知的で色っぽく、彼らの恋愛は切なくて優しい。

小学生のころ、ブックオフで小コミを立ち読みしてその大人な内容にドキドキしたのと同じくらい、登場人物の色っぽい態度にドキドキしながら読み進めた。
もうアラサーだというのに(笑)

とはいっても、過激な本ではない。
むしろ真逆で、直接的な表現はないのにここまで艷やかに書けるのかと驚く文章。
高校の現代文で、「こころ」を読んだときと同じくらいときめいた。

14の短編集なので、きっとお気に入りの話が見つかるはず。
そのなかでも私が特に好きになった5つの話を紹介したいと思う。
※ここからは、紹介のためにあらすじを記載するのでネタバレを含みます※

   ○○○

「飛ぶ男」

高校生のユキムラは、駅の改札口で五つくらいの男の子が通勤客の誰とはなしに、十円ちょうだいと話しかける姿を目撃する。そんな異常な光景に誰も足を止めないので、その子に迷子かどうか訪ねるも、十円ちょうだいと繰り返すだけだったので、そのまま与えるとその子はとたんに駆け出して消えていった。その後いつもの通学電車のなかで、三つ目の駅へ差し掛かる手前で跨線橋を飛ぶように駆けて渡っていく男を目撃する。その男をみて飛ぶ男がいるなぁと思うユキムラ。幾日もその男が駆けていく様子を眺めているうちに、ついに三つ目の駅で降り立ち、男がどんな人か確かめてしまう。その時は遠くから眺めるだけで終わったが、週明け扉の傍に佇っていたユキムラの隣に飛ぶ男が乗り込んできて…

ユキムラが健気で、飛ぶ男が無口な生真面目ボーイなところがよかった…!
この話の季節は冬だけど、冬は寡黙な男を引き立てるとても良い季節だとこの話を読んで思う。

ユキムラの健気かつ純情な可愛さが引き立つラストをぜひ見届けてほしい。

   ○○○

「花の下にて」

上司より花見の陣取りを命令された新入社員の中浜は、無事花見の席を確保する。
無人だと席取りだとカウントされず撤去されてしまうため、就業まで待機する必要がある中浜。
ぼんやり青空の下にいると、春山で行方不明になった兄のことを思い出していた。
高校二年のとき、大学生の兄に古文の家庭教師をしてくれる人が周りにいないか頼んだ。
その紹介で出会ったのが高尾だ。オシャレに興味のない兄とは真反対の人物で、兄とすれ違っても無言でまなざしを交わすだけの二人は仲が良さそうではなかった。
高尾はチャラチャラした見た目には反して古文が得意なようで教え方も上手だった。
だけどあることがきっかけで、家庭教師と生徒の関係は終わった。その後関わることもなく、独学で古文も克服し大学に合格した中浜。
大学祝にご飯を奢ってやると言ってた兄は、その約束を果たさなかった。
春山に遭難し、帰ってこなかったのだ。
兄は最後、高尾と別ルートでそれぞれ登頂し負けたほうが罰ゲームがあるという旨のハガキを中浜に残していた。難易度が低い山だったと裏付けるようにふざけた文面だった。 高尾はその日入山しなかったらしい。兄からのハガキは誰にも言わなかった。何かあれば高尾から云ってくるだろうと考えていたが、いつまでたっても連絡がこなかった。そこから高尾の家とは疎遠になった。高尾の消息も分かっていない。
そんなことを考えながら、ぼんやり座っている中浜に声をかけてきた人物がいて…

高尾…!高尾?!高尾~!!!!と高尾に悶える話だった。
めぞん一刻が好きな人にはささるストーリーかもしれない。それ以上は語るまい…!
人物像は今回紹介するなかで、一番高尾が好きだなぁと思う。
ぜひ中浜の視点で、阿部真央さんの「じゃあ、何故」を聞きながら高尾に振り回されるのを楽しんでほしい!

   ○○○

「アパートの鍵」

美大生の安村。友人達とお金を出し合って、卒業制作のために倉庫を借りようとしている。その友人達との待ち合わせまでに、まだまだ時間があるのでその前に興味を持った画廊へ足を向けた。画廊から出た安村の手には1枚の絵。購入するつもりではなかった。だけど倉庫のためのお金は消えてしまった。正気ではなかった。特別な絵ではない。平凡なモチーフだ。どこかのアパートらしき一室の白い扉が丹念に描かれていた。購入したとき画廊のスタッフが、そちらの絵には鍵がついているんですよと声をかけてきた。額縁の下側を見ていると、本物の鍵があった。友人達との待ち合わせ場所に向かった。まぬけと罵られ、安村は倉庫を借りれなかった。まぬけついでに、絵に描かれていた住所を訪ねてみると…

色っぽすぎるで賞を受賞したのではないかと思うほど、知的でなまめかしいストーリー。
年上のお兄さんにからかわれて、手のひらで転がされるのが好きな人にオススメ!

   ○○○

「雨過天晴」

大学生の芝田は、バス会社の窓口で無料のタブロイドをもらう。そこで怪しい条件の求人を見つけてしまう。最初は読み流していた芝田だが、思っていたほど面白くない大学生活に飽き飽きしていたので、電話口の人が怪しそうだったら辞めようとかけてみると、意外とまともそうな口調に安心する。面接に来てほしいと言われ翌日伺った芝田だが…

怪しい求人内容というのが、
「代筆求ム。毛筆できる方。時給二五〇〇。委細相談。橘川」というもの。
親元を離れ一人暮らしをして3ヶ月。
親や兄に、うまい話には裏がある。学生の本分を忘れるなと忠告されているにも関わらず、こんな怪しいところに電話をかけるなんて若いなぁ~と思った。
この話は、異界とのつながりが好きな人に向いていると考える。
夏目友人帳が好きな人が好みそうな世界観。
夏のジブリを思い出すような情景を描きながら読んだ。

   ○○○

「空耳」

鷹田の通う高校には更衣室をかねたロッカー室がある。学籍番号順にふたりでひとつのロッカーを使い、卒業まで移動はない。それゆえ鷹田はあまり親しみたくはない人物の高野と一年のときからロッカーを共有している。
高野とは授業ではほとんど顔を合わさない。鷹田が文系なのに対し、高野は理系だからだ。ただし書道の授業だけはいっしょになる。
ある日、鷹田が昼食をとっているときに、高野がやってきて、唐突に話しかけてきた。
鷹田、ちょっと耳を貸してくれないかな。粘土で型を取りたいんだ。

高校生たちによる王道青春ストーリーを読みたい人はこちら!
と紹介したいけど、わりと屈折した両片思いなお話。

高校生活って中学生までの地元だけの世界から、ちょっと世界が広がるような
根拠のない自信と、今までの自分と決別する瞬間の寂しさが混じってていいなと思う。

出会いが共同のロッカーっていいよね。
ましてやそれがクラスが全く違うってところが。

認めたくなさそうなにはいいたいけど、
約束もしてないのにその人のために、何かを毎日買ってあげて待つというのは
それはもう恋なんよ…。

   ○○○

紹介した話以外にも、もっともっと語りたい話がたくさんある。
そのくらいこの本に惹き込まれてしまった。

調べてみるとこの本は、「あめふらし」の前日譚が収録されていたみたいなので
次はあめふらしを読んでみようと思う。


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