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牝猫とレトルトカレー

全身黒の服に赤リップ。
メンバメイコボルスミ11の片割れみたいな女からマンチカン♀を預かった。
「あたし、いつからあんたの世話係になったんだっけ?」
学生時代整形ボコボコ女に嫌味ったらしく言われた台詞を、初対面のマンチカンに浴びせてやった。
言葉も経験もこの世はロンダリングの賜物だから。

ニューダルニー・レトルトビーフカレーの封を切る。
そういえば、高級キャットフードは人間も食べられないこともないらしい。食べないけど。
ターコイズブルーの瞳は、完全に自分が可愛くて愛される存在であることを自覚していた。
「短足だけはお揃いだよね」
何を言ってもウルルン滞在記な瞳を向けてくるマンチカンは正直肩透かしだ。
怒りには怒りを、毒には毒を、返してくれないと困る。
“チンッ”
温め完了の合図。
耐熱容器でそのまま食べる横着スタイルが鉄則である。
匂いにつられて一瞬傍に寄ってきたマンチカンだったが、またすぐにフラフラと部屋中を探索し始めた。
名前を忘れてしまったので、その暴走を止めることすらできない。
「好きに生きなよ、もう……」

ロイヤルカナンのキャットフードを底の浅いボウルに出し誘き出し作戦。
それほど広くない空間で、一体どこに行方をくらましたのか。
「おーい、おー……あ、いた」
この部屋で一番価値が高いエルメスのバーキン(>命)横に居座っていた。
「あたしより似合うじゃん」
お澄まし顔のマンチカンは、当然何も答えない。
「腹が減っては戦ができぬ、でしょ。あたしはカレーに戻るからあんたも食べな」
あたしはいつだって、憂さ晴らしの殴打なんかじゃなく本気の会話がしたかったんだ。

ハマショーの『MONEY』がすきです。