将生と豆腐の狭間で

女性との交合日記を書いた永井荷風やジェームス三木はやがて生活を破綻させている。男が女を評価する時、それは傲慢かつ醜汚なものに映る。しかし逆はどうであろう。ストレスフルな毎日に飽き飽きした私は、女性の権利を振りかざさんとばかりに勝手気儘な恋愛遍歴を綴っていこうと考える。

CASE1 
深見Kさん。age33。システムエンジニア
max:岡田将生 normal:豆腐 low:高野豆腐(肌の調子が悪くて何かしみてきそう)

彼とは4対4の合コンで知り合った。当時私22歳、彼31歳。年齢を知った時は驚いた。同い年か、なんなら年下のように見えたのだ。
元々人の年齢を当てるのがひどく苦手ではある。(たまにオバハンで風変わりな格好をし過ぎて20代にも60代にも見える化けモンがいるのだが、あれは何なのだろう。非常にまぎらわしい)
眼鏡をかけていて、可もなく不可もない顔立ちだった。焼き鳥の煙が充満する店内(自分で焼くタイプの店。あきらかなチョイスミス)で、やたらに私は彼と目があった。
「眼鏡めっちゃ曇ってる」
「フフ……ね」
「あ、そんなとこ置いたら危ないですって」
外した眼鏡を網の近くに置いた彼。私は素早くそれをハンカチに包んでマイバックに入れた。
今思えば謎めいた行動だ。
「預かっときます!」
「うん」
恥ずかしそうな彼の顔は可愛く見えた。

その後1回の席替えをはさんだが会の盛り上がりが落ち着く気配はなく、いつの間にか1時間半が経過していた。酔いがいい感じに回った私、「ちょっくらお便所へ……」誰もこちらに見向きもしなかった。もう帰ったろかな。やっぱり合コンとか向いてないんやわ。灘の血が(そんなもんあんのか?)騒ぎ出す私であった。
お便所からお手をふきふき出た私の目の前に、天使現る。
深見景、通称・深見Kである。
「もしかして、待ってたの?」
うんともすんとも言わない深見Kは、手をズボンのポッケに入れたまま壁に背を預けていた。コイツ、黄昏れとる!

「眼鏡返してほしい?」
バックから眼鏡をチラ見せ。彼はそれをサッと取ってかけた。そしてあろうことか私の手を握ったのだ。
「行こ」
「ヘッ」
何とも間抜けな声。この後起こるであろう一切合切に想像を巡らす。私ももうコドモじゃあないアルヨ。
「席に4千円おいてきたから」
「……(用意周到やな)」
二人はいざ、蒸し暑い夏の夜へと飛び出した。

「K、今日手ぶらだったっけ」
「荷物は持たない主義なの」
「そう、なんだ」
映画にしちゃ顔面が足りない二人だった。けれどこの展開に胸躍らぬ乙女などいるはずもなかった。
「入ろう」
Kはとても男らしく、ずかずかとそこへ入っていった。

10分後。
ガンガン響くエアコンと自らの喘ぎ声に耳鳴りがしそうになった。
彼は見かけによらずセックスがうまかった。まるで機械のように突き続けられ、私は果てた。全身の力を使って抱き締められた時、彼はもはや岡田将生にしか見えなかった。いや、私にとっては優に将生超えをしていた。

(続く)

ハマショーの『MONEY』がすきです。