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「美味しい」と「好き」


ハンバーグは、ぼくの最も得意な料理の一つです。
今回、そのレシピ(食材)を無料公開いたします!なんて、素人のぼくが言っても有り難くもないのですが。(ただ、めちゃくちゃ美味しいです!笑)

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〈ハンバーグ4〜5個分のレシピ〉
A
牛豚の合挽肉 400g
卵 1個
飴色に炒めた玉ねぎ(中size)  2個
パン粉 150g

B
牛乳 小さじ1くらい
ケチャップ 大さじ2くらい
ウスターソース 大さじ1くらい
醤油 小さじ1くらい
カレー粉 ふたつまみくらい
ナツメグ 多め(5振りくらい)
塩胡椒 適量(塩は気持ち多め)
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上のように書くと、料理が苦手な人は、「くらいってどのくらい? 適量って何?」と、Bの目分量に困惑する。ちなみに、「大さじ1」などと書いたが、お菓子作りや再現性が求められる飲食店は別として、一般家庭においては、逐一そんなことを意識していないのが現状ではないかと思う。実際、ぼくも適当に書いた。

では、もし、分量を詳しく◯gと書いて、そのレシピに完璧に従って料理したら、プロの料理人のそれと全く同じ味になるだろうか。おそらく、「ならない」と答える人が多いだろう。では、それはなぜか。


まず、素材だと思う。分量が完璧でも、一つ一つの素材には微妙に違いがある。例えば、「ケチャップ」といってもたくさんあるし、「合挽肉」もその加工時間の経過によって微妙に味が変わってくる。

次に、技術だと思う。保存の仕方、切り方、こね方、整形の仕方、焼き方など、そのどれもがプロと素人では微妙に違う。こね方一つとっても、その力加減、時間、手の温度など、より微妙な違いがある。

そして、上の二つを支える知識や経験だと思う。旬や生産地・生産者の知識、野菜や魚の目利き、食品表示の見方、食材や料理に適した包丁の入れ方、盛り付け方やその器の知識に加え、どのくらい台所に立って食材や他者と対峙したか、限られた時間の中でいかに美味しく効率的に料理を提供できるかに苦心してきたか、こういったことの日々の研鑽が皿の上に乗る。


以上に関しては、プロがプロたる所以であり、こういう微妙さが重なることで絶妙な料理が出来上がる。だから、レシピの「数値」を再現しても、プロの料理とは雲泥の差が生じる。

しかし、好きかどうかは別問題ではないだろうか。
実際、「家で食べるハンバーグの方が好き!」と思ったことのある人、言われたこある人も多いと思われる。では、「好き!」につながる決定的な要素とは何か。


それは、相手の「いま、ここ」に心を置いているかどうかだと思う。
技術的な意味でいえば、その日の厨房の湿度やその日仕入れた食材の状態などに応じて微妙に加減することであるが、ここではそうではなく、料理を提供する相手のことをどれだけ推し量っているかということだ。いわば、作り手の顔が見える料理であるということ。



ぼくの奥さんは、料理が苦手、というか、嘘みたいな話だが、塩と砂糖を平気で間違えたりする人だ。

そんな奥さんがまだ彼女だった時、ぼくの誕生日にケーキを作ってくれたのだが、ホールのまま鍋に入れて持ってきてくれた。しかも、その場でデコレーションし出した。その指には絆創膏が巻いてあった。





高名なパティシエが作るケーキは、もちろん美味しい。しかし、ぼくはあの日のホールケーキより「好き」で、もう一度食べたいと思ったケーキに出会ったことはない。


「くらい」や「適量」といった目分量は、「美味しい」料理を作るには重要な要素ではあるが、「好き」と言ってもらえる要素としては、本当に些末な問題でしかないと思う。

大切なことは、繰り返すが、相手の「いま、ここ」に心を置いているかどうかだと思う。

そういう意味での「目分量」こそ、最も微妙で、しかし、最も大切なのだと思う。


料理は、「すうち」ではなく、「ここち」ではかるもの。

あなたの何かを、心許り充たせる記事をお届けするために。一杯の珈琲をいただきます。