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1歳児と行った最初で最後のハワイ島旅行

息子が1歳になった時、家族でハワイに1週間の旅行に行った。それまでハワイといえばワイキキ、ワイキキといえば日本人観光客であふれている買い物天国、という感覚しかなく、どうしても行ってみたいという場所ではなかった。しかし私たち夫婦にも子どもができ、さすがに1歳児を抱えてNYのマンハッタンを歩き回るなんてできない。それでもどうしても海外旅行に行きたかった私たちは、ハワイをはじめての子連れ海外旅行の目的地と定め、旅行の計画を立てたのだ。

当時、会社で受けていた英会話でアメリカ人の先生と仲良くなり、彼の紹介でたまたま京都在住の音楽家ザイラー夫妻の別荘を7日間お借りする機会を得た。ドイツ出身のエルンスト・ザイラー氏と京都出身のカズコ・ザイラー氏は、ピアノデュオとして当時から世界的に有名な音楽家であったが、京都府の山奥に古民家を改造した「かやぶき音楽堂」を作り、そこを起点に音楽活動をしておられた。英会話の先生がその音楽堂の田植えイベントに出入りしており、その縁で別荘をお借りできることになったのである。今もカズコさんはご健在で、お子様達と活動を続けておられるようだ。そのご夫婦の別荘がハワイ島にあったのである。そのため私たち夫婦のはじめての子連れハワイ旅行の目的地は、オワフではなくハワイ島となったのだ。

関空からオワフ島までの航空会社は、今はなきノースウエスト航空。子どもができる前に2度アメリカ本土旅行をした時に溜まったマイルを使い、ビジネスクラスを2席確保できた。当時の航空会社のマイルサービスはものすごく充実しており、たった2回のアメリカ旅行をすれば、アップグレードではなくまったくの無料でビジネスクラスを使ってハワイに行けたのである。私達の席はビジネスクラスの一番先頭の2席で、寝ている1歳の息子を抱っこしていても十分広く、妻と私でかわりばんこに食事をした。

オワフ島からハワイ島まではハワイアン航空で、わずか30分程度のフライトだったと思う。「思う」といったのは、息子をおなかの上に乗せたまま口を開けて爆睡している間に到着してしまったからだ。離陸も着陸もまったく記憶がない・・・。空からハワイの海や海岸線の景色を見たかったのに。

ハワイ島到着後、コナ国際空港で大きめのレンタカーを借りて別荘へ向かった。別荘までの道は島の西海岸に沿って走る真っ直ぐな1本道である。周辺は赤茶色の溶岩だらけの広陵とした雰囲気で、だだっ広いハワイ島の景色はまるでアメリカ本土の内陸部のように錯覚してしまうようであった。遠くで野生のロバが、わずかに生えている草を食んでいた。左手にヒルトン・ワイコロア・ビレッジの看板が見えたら右折し、坂を登り少し高台にある住宅街に入っていく。当時はまともなナビすらなかったが、どうやっても間違いようのない1本道で、事前にザイラーさんからカギと一緒に送ってもらった手書きの案内図だけで難なくたどり着けた。

その別荘はハワイ島の北東、ワイコロア・ビレッジの1角にあった。3ベッドルームにグランドピアノがある広いリビング(ザイラー夫妻はビアノデュオの演奏家)、ガラスのテーブルがあるダイニングに、庭には大きなジャグジーバスがあるとても素敵な家だった。ハワイ独特の篝火がある庭からは、遠く眼下にワイコロアのビーチが見下ろせる。高台にあるため、心地よい風が家の中に入り込み、エアコンがなくてもとても気持ちの良い家だった。

子どもがまだ1歳になったばかりということもあり、その旅行ではあまりあちこち行くことはしなかった。ハワイ島であれば、活火山のキラウエア火山や、日本人移民が多く住む東海岸の街ヒロなどが観光として有名だが、それらにはまったく行かず、ワイコロアのビーチで子どもの初海水浴をしたり、カイルア・コナのマーケットで食材を仕入れてのんびり別荘ライフを楽しんだ。ザイラーさんに教えていただいたローカル店の生マグロも最高だった。すでにバブルは崩壊していたとはいえ、まだ今よりずっと円高の時代で、私たち夫婦も含め日本人旅行客が世界中でブランド物を買い漁っていたころだ。幸か不幸か当時のハワイ島には、ブランド物を扱う免税店は皆無であった。海外に来てブランド物ではなくマグロを買ったのははじめてのことであったが、現地人になりきって短いハワイ島の暮らしを楽しむことができた。

ハワイ島には7日間滞在し、帰国便が早朝であったため、最後の1泊はオハフ島に移動してアラモアナホテルに泊まった。当時できたばかりのアラモアナショッピングセンターのすぐ近くで、物欲の塊だった私たちはハワイ島にはないきらびやかな雰囲気に、涙をのんで我慢したのだ。やっぱりなんだかんだ言って、ハワイ(オアフ島)はいいところだな〜とつくづく思ったのである。
そしてその次の年から4年間、毎年家族でオワフ島を訪れることになったのである。あんなに満足したはずのハワイ島でのプチ別荘暮らしであったが、4回もオアフ島には行ったのに、ハワイ島にはそれ以来一度も行っていない。リタイアしてアラカンになった今こそ再訪したい場所であるが、やっぱりオアフかな・・・。まだまだ若いって証拠かな?ロバより大都会、マグロよりショッピングなのである(笑)。