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SDGsマーケティング施策事例研究 Vol. 5 シック・ジャパン株式会社 時代を捉えた「#BodyHairPositive」キャンペーン:サステナビリティを通してブランド好意度を向上

このnoteのポイント
1. 2021年国際女性デーから始まったSchickの「#BodyHairPositive」キャンペーンは、海外を発端とする「ボディポジティブ」の志向を捉えたもの
2. 海外市場では、すでに女性向けカミソリブランドがこぞって「剃らない自由」や「美の多様性」を発信
3. 日本市場におけるインパクトはメッセージの「先進性」と、タレントを起用した「体温のある発信」

こんにちは、Good Tideチームの太田です。

今回ご紹介するのはカミソリブランド「Schick」が2021年3月8日の国際女性デーから開始した「#BodyHairPositive」キャンペーンです。
このキャンペーンはタレントの青山テルマさん、西内まりやさん、そして井上咲良さんが出演する「毛について、話そう。」というコンセプトのプロジェクトムービーを中心に、

どのようなボディヘアであっても、「自分らしく自由であって欲しい」「自分にとって心地いいスタイルを、誰もが見つけられるように」
(引用: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000055903.html

という想いを込めて始められたキャンペーンです。

Schickは女性用替刃式カミソリ市場で75.5%のシェアを持つ、生活者からも信頼を得ているブランド。
これまでスキンケアの一環としてどちらかといえば体毛を剃ることを推奨してきたブランドがなぜこのような取り組みを始めたのでしょうか。

キャンペーンの背景にある社会情勢も踏まえながら、内容を紐解いてみます。

1. 今回の施策の概要

キャンペーンの背景を紐解く前に、まずは今回のキャンペーン概要を振り返りたいと思います。

「#BodyHairPositive」キャンペーンは国際女性デーである2021年3月8日から開始され、下記の施策を通して「ムダ毛は剃るべきもの」という固定概念から脱却し、ボディヘアやそのケアに対する方針の多様性を提唱しました。

1. プロジェクトムービーの公開:

https://youtu.be/QGJ3eT7Ckh8

2. 特設サイトの公開:

特設サイトでは、体毛の処理やボディポジティブ(ありのままの自分の姿を愛する)について、「おうち性教育はじめます」がベストセラーとなった村瀬先生や、アーティストの「Chim↑Pom(チンポム)」メンバーのエリイさん、ホテルプロデューサー・龍崎翔子さんがそれぞれの「ボディヘア」との距離感について話しています。

こうしたメッセージの発信の発端となったのは、Schickが行ったターゲット世代である15~29歳の女性664人を対象としたアンケート。
回答者全体の9割近くが「体毛のある・なしは個人の自由」とした一方で、8割以上が「ムダ毛はケアすべきもの、という固定概念が一般的に存在する」と回答しました。

この事実と、近年広がる「ボディポジティブ」の流れを受けてSchickの今回の取り組みである「#BodyHairPositive」が始まったと考えられます。

2. ブランドのサステナビリティに対する姿勢

エッジウェルパーソナルケア・グローバル・ネットワークの一員として「Schick」ブランドを扱うシック・ジャパン株式会社は、エッジウェルパーソナルケアが提唱する「Do the right thing.〜正しいことをする〜」に従い、「私たちの人々(People)は、私たちの地球(Planet)を守り続けるために、生活をより快適に、より健康に、そしてより清潔にする製品(Products)を作る」の3つのPから取り組むとしています。

具体的には、「廃棄物の削減」を目指し従来廃棄物とされていたものを積極的にリサイクルする、エネルギー削減のため各地の工場でのエネルギー使用の見直しを進める、そして大気汚染につながる物質の削減を通して地球と従業員にとって安全で健康的な環境づくりをする、などが挙げられます。
上記のブランドとしてのサステナビリティに関する取り組みは環境改善に貢献するものがほとんどであり、今回の「#BodyHairPositive」のような社会の意識改善はブランドの主たるサステナビリティテーマではありません。

そのような中で、なぜSchickはこのキャンペーンを始めたのでしょうか。
そこにはSchickがターゲットとする年代の女性たちが抱える自分の理想と社会的なプレッシャー(スティグマ)の間で揺れ動く社会背景があったからです。

前述のアンケートでも紹介したように回答者全体の88.7%が「ボディヘアの有無は個人の自由であるべき」と回答する一方で、83.8%は「ムダ毛はケアすべきもの」という固定概念も存在すると回答している実態が明らかとなりました。

そこでSchickは、画一的な体毛の在り方・美しさを押し付けるのではなく、どんな在り方であっても自分が気に入っているのであればそれでいい、という「自分らしさ」「美の多様性」を提唱することになります。
これはブランド理念である「It’s in your hands(あなたが決める)」に沿ったものであり、他人から美しさを決められるのではなく、自分らしくあることを貫いてほしいというブランドの想いから成るものです。

3. 「美の多様性」を推し進める背景

こうした「自分らしさ」「美の多様性」という働きかけは、近年欧米市場を中心にコスメブランドやアパレルブランドなど若い女性をターゲットとしたブランドによく見られるメッセージです。
たとえば女性下着メーカーとして有名な「Victoria’s Secret」は、スタイルのいい「エンジェル」と呼ばれるモデルのみの起用を止めさまざまな体型の女性をモデルとして選んだり、歌手のリアーナがプロデュースするコスメライン「FENTY BEAUTY BY RIHANNA」では白人主義(白肌がいい)の美容業界に対して、あらゆる肌の色に合うファンデーションやチークカラーを展開したりして支持を集めています。

そしてカミソリブランドにおいても、海外では2020年頃から「美の多様性」へ働きかける動きが見られはじめました。

これまでの女性用カミソリは、「女性の体毛は恥ずべきもので、処理をするのが当たり前」という前提のもとでマーケティングが行われており、ジェンダー論や多様性が広く求められるようになった海外市場では徐々に批判的に見られるようになりました。
ブランドイメージの低下を回避するため、大手各社が取り組んだのが「剃るも剃らぬもあなたの自由」というメッセージへの変更です。

たとえば、ミレニアル・Z世代から支持を集める女性用カミソリのサブスクリプションブランドで、P&G傘下にある「Billie」は、「Project Body Hair」というキャンペーンを展開。
自分の価値観がまだ定まりきっていないZ世代生活者に向けて、「“What you do with yours is up to you - grow it, get rid of it, or comb it. It's your hair, after all.”(何をするのかはあなたが決めていい:(毛を)伸ばすのも、剃るのも、梳かすのも、あなたの自由。だってその毛はあなたのものだから」というメッセージを発信し、当時「剃ってすべすべの肌が素敵」と提唱していた競合他社から一線を画し、支持を集めました。

Billie: Project Body Hair

Schickの競合ブランドであるGilletteも2020年に「#MySkinMyWay」キャンペーンを展開。体毛ではなく、肌に焦点を当てて、出産時の手術の跡が残る女性や肌に斑点のある女性などが登場するプロジェクトムービーを作成し、「“It’s my skin, and I’m proud of it”(これが私の肌。私はこの肌を誇りに思う。」というメッセージを発信しました。
選択の自由を掲げたBillieに対して、Gilletteは「ありのままの自分を愛する。その気持ちに寄り添うGillette」というSelf Loveをブランドのマーケティングの柱としたのです。

Gillette: #MySkinMyWay

こうした流れを受けて日本でも「使い捨てカミソリ市場」でシェア1位を誇る貝印が2020年8月に「#剃るに自由を」というハッシュタグを用いて、「ムダかどうかは、自分で決める。というメッセージを発信しました。

貝印:ムダかどうかは、自分で決める

まだまだ日本では体毛がない状態が支持される状況ではありますが、サステナビリティを推進するZ世代のインフルエンサーからは「#BodyHairPositive」に呼応するような動きも見られます。

環境アクティビストであるモデルの小野りりあんさん

Schickの「#BodyHairPositive」キャンペーンも、日本で始まったボディポジティブの萌芽をさらに大きくしていく動きであり、そのメッセージを通じてブランドへの支持を得ていく動きと言えます。

4. 施策のポイント

こうした背景、そして「#BodyHairPositive」の目的とターゲットを踏まえて、今回の施策におけるコミュニケーションのポイントを考察してみます。

\ここがポイント/
・海外で広がりつつある、「ボディヘアの自由」の概念をいち早く日本市場に向けて発信
国内の女性用替刃式カミソリ市場で圧倒的1位のシェアを持つSchickが、「剃らなくてもいい」という自社が強みをもつ市場の将来を、“あえて”脅かすメッセージを出したことで、メッセージのインパクトがさらに大きく、そしてブランドへの好意の醸成へつながったと言えます。
剃毛を義務化するのではなく、選択肢の1つとする。
そして剃ることを選択したときには、メッセージの新しさを後押ししてくれるSchickを選ぶ。
明言はしていませんが、そうしたブランド支持につながる気持ちの醸成を狙ったアクションと考えられます。

また現状、Schickでは女性用商品においてカミソリやその周辺商品以外の新たなスキンケア商品を展開していませんが、美容脱毛サロンの低価格化や家でできる光脱毛器具の登場により、女性用替刃式カミソリ市場の縮小化が余儀なくされている中で、もしかしたら商品多角化の布石となっているかもしれません。

このように自社でサステナビリティメッセージを考えるにあたっては、自社と同業種である海外ブランドが海外市場において、どのようなサステナビリティメッセージをミレニアル・Z世代に対して行っているのか調査することは、発信の切り口を見つけていく一歩になりそうです。

・「ボディヘアポジティブ」を体現するタレントの人選
今回Schickが行ったキャンペーンは貝印が行った「#剃るに自由を」と根本的なメッセージは同じであっても、バーチャルヒューマンMEMEを起用した貝印に対して、Schickは体温のあるタレントを起用したことで違いを出したと考えられます。
たとえば、ジェンダーやファッションにおいて先駆的なメッセージを発信する青山テルマさん、産毛が濃いことが悩みであった西内まりやさん、特徴的な濃い眉毛がチャームポイントであった井上咲良さん。
ボディヘアに対しての悩みと意見を話す姿に共感した人も多いのではないでしょうか。

前回のSDGsマーケティング施策事例研究で取り上げた「KitKat」が長谷川ミラさんを起用したように、こうした先駆的な取り組みやメッセージを誰に伝えてもらうのか、という人選も大事なポイントとなります。

今回取り上げた「#BodyHairPositive」は、残念ながらその後継続したメッセージ発信を行っていませんが、個別の商品に紐づけた販促キャンペーンではなく、ミレニアル・Z世代の意識の変化を捉えその変革を後押ししたキャンペーンとして参考になるのではないかと思います。

そうしたミレニアル・Z世代の意識変化の兆候を探るには、海外SNSユーザーの間で広がるハッシュタグ=メッセージに注視することも有効です。
気になる人は、ぜひこちらも合わせて読んでみてください。


参考

PR TIMES 「全国の女性88.7%が「ボディヘアの有無は個人の自由であるべき」と回答。 シック・ジャパン、ボディヘアを通して“多様性”を推進する「#BodyHairPositive」開始」(2021年3月8日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000055903.html(閲覧日:2021/08/01)

Schick CSR
https://schick.jp/pages/company-csr(閲覧日:2021/08/01)

PR TIMES「『#剃るに自由を』をテーマにコミュニケーションを開始 バーチャルヒューマンMEMEが価値観の多様化を代弁」(2020年8月11日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000242.000025105.html(閲覧日:2021/08/01)

PR TIMES「『ムダかどうかは、自分で決める。』8月17日(月) グラフィック公開」(2000年8月17日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000243.000025105.html(閲覧日:2021/08/01)

BeautyTech.jp 「P&Gが買収したBillie、両社に共通する女性への一貫した「エンパワメント」戦略」(2020年3月3日)
https://beautytech.jp/n/n18d1aeff61af(閲覧日:2021/08/01)

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