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潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)増悪期/活動期の食事のポイントと注意点

執筆: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国栄養士会所属登録栄養士)

こんにちは、米国登録栄養士の宮﨑です。今回は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)活動期・増悪期の食事について解説します。消化管の炎症が非常に強く入院するような場合は、絶食にして中心静脈栄養(点滴により栄養剤を投与)あるいは経腸栄養(栄養剤を経口あるいは経鼻チューブなどを用いて投与)により栄養補給を行いますが、今回は入院には至らない活動期における日常生活での食事の注意点についてご紹介します。

IBD活動期はどんな栄養バランスがいいの?

IBD活動期の食事の目標は、1)消化管の炎症の増悪防止・寛解導入を目的とした消化管の負担の少ない食事、2)消化管の炎症により変化する、栄養素の消化吸収や代謝に合わせた栄養素を摂取することです。

管理栄養士が実際に栄養指導をする上でまず考えるのは、

1)エネルギー
2)たんぱく質
3)脂質
4)炭水化物
5)微量栄養素(ビタミン、ミネラル)
6)食物繊維
7)水分の必要量                を設定することです。

IBD活動期において、それぞれの栄養素で注意すべき点をまとめてみました。

エネルギー

以前はIBD活動期にはエネルギー消費量が増加するため(1)高エネルギー食が推奨されていました。

しかし、IBD活動期ではエネルギー消費量が増加しても、身体活動量が低下するため、現在は、IBD活動期であっても健康な人と同じ程度で十分と言われています。(2)

もちろん体重が減少している場合は摂取エネルギーを増やす必要があります。

一日のエネルギー摂取量を毎日計算するのは困難なので、エネルギー必要量を満たしているかは体重を指標とするのが分かりやすいと思います。

週に1度は体重を測定して、自分の栄養状態を評価するのはとても重要です。

きちんと食事を摂取しているにもかかわらず体重減少が顕著な場合は、必要エネルギー量が満たせていない可能性があるので、担当の医師や管理栄養士に相談してみましょう。

たんぱく質

たんぱく質は、肉類・魚類・卵・大豆製品・乳製品に多く含まれており、筋肉や酵素など身体の構成成分となる重要な栄養素です。

IBDの活動期では、消化管の炎症によって、消化管からの吸収が低下するのに加え、たんぱく質やたんぱく質の原料となるアミノ酸の消費が増加するため、より多くのたんぱく質を摂取する必要があります(高たんぱく質食)。

脂質

脂質は、肉類・魚類・卵・乳製品・油脂類に多く含まれており、エネルギーの源になる栄養素です。

IBD活動期において脂質の摂取が病態に関与するという明確な科学的根拠(エビデンス)はありませんが、一般的に脂質は消化に時間がかかることにより、消化管に大きい負担がかかります。

活動期では、消化管の負担をできる限り抑えるため、活動期は低脂肪食が望ましいと言われています。

また、脂質の総量だけでなく、脂質に含まれる脂肪酸(飽和脂肪酸、単価不飽和脂肪酸、オメガ3系脂肪酸、オメガ9系脂肪酸)のバランスも重要となります。

肉類・卵・乳製品・サラダ油などは炎症を悪化させる可能性のある飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸を多く含んでおり、魚類・菜種油・オリーブ油などは炎症を抑制するオメガ3系脂肪酸やオメガ9系脂肪酸を多く含んでいます。

食の欧米化や加工食品の普及により、どうしても飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸を摂取が増えてしまいがちになりやすいので、意識してオメガ3系やオメガ9系脂肪酸を摂取するように心掛けましょう。

炭水化物(糖質)

炭水化物は、ごはん・パン・うどんなどの主食となるような食品に多く含まれます。

このような主食に含まれる炭水化物は比較的安全と考えられています。

体重が減少してしまう場合はお米などの炭水化物で食べる量を増やすことが多いです。

ビタミン・ミネラル

IBDの活動期では、十分に食事が摂取できないことや、炎症により体内への栄養素の吸収が阻害されることにより、ビタミン・ミネラルが不足する場合が多いので注意が必要です。(4)

ビタミンやミネラル不足の場合は、食事やサプリメントから補うことにより栄養素の不足を改善することができます。

食物繊維

食物繊維は、ヒトの消化酵素では分解できない栄養素であり、野菜類・果物類・海藻類に多く含まれています。

食物繊維は脂質と同様に腸管の活動を活発にするため、IBD活動期では食物繊維の多い食品(ごぼう、セロリなど)の摂取は控えることが推奨されています(低食物繊維食)。

しかし、野菜や果物は、食物繊維以外にも、抗炎症作用がある様々なポリフェノールなどの生理活性物質(フィトケミカル)を含んでいるため、身体の健康のためには必要不可欠と考えられています。

IBD活動期で野菜を摂る場合は、水溶性の食物繊維が多く含まれる野菜を選択しましょう。

水分補給

IBDの活動期では、下痢などにより電解物やミネラルが排泄されるため、それを補うために水分補給が必要になります。

特に下痢の症状を有する患者さんの場合、下痢の悪化を恐れて水分の摂取を制限してしまうことにより、脱水の危険性が高まります。

しかし、IBD活動期の下痢は、水分の過剰摂取ではなく腸管の炎症により引き起こされていることが多く、水分摂取が下痢を悪化させることは少なくないため、むしろ積極的な水分補給が必要と言われています。(5)

まとめ

IBD活動期の食事の注意点について、特にIBD活動期で必要な栄養素・制限した方がいい栄養素について紹介させていただきました。

上記のポイントを簡単にまとめると、IBD活動期では高たんぱく質・低脂質・低食物繊維食が基本となります。

一方で、これらの食事のポイントは患者さんの病状により大きく異なることもあります。

担当の医師や管理栄養士に相談しながら、その患者さんに最適な食事管理を行うことが大切です。

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執筆者プロフィール
宮﨑拓郎 (米国登録栄養士、公衆衛士学修士)
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)終了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で低FODMAP食の研究に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎とクローン病の栄養管理 IBDにおける栄養学の科学的根拠と実践法」「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」を共著にて出版。
ツイッター: https://twitter.com/TakuroMIY 
インスタグラム:https://www.instagram.com/takuromiy/

参考文献

  1. Sasaki M, Johtatsu T, Kurihara M, et al. Energy Expenditure in Japanese Patients with Severe or Moderate Ulcerative Colitis. J Clin Biochem Nutr. 47(1):32-36, 2010.

  2. Forbes A, Escher J, Hébuterne X, et al. ESPEN guideline: Clinical nutrition in inflammatory bowel disease. Clin Nutr. 36(2):321-347, 2017.

  3. Sakamoto N, Kono S. Wakai K et al. Dietary risk factors for inflammatory bowel disease: A multicenter case-control study in Japan. Inflamm. Bowel Dis. 11,154–163, 2005.

  4. Weisshof R, Chermesh I. Micronutrient deficiencies in inflammatory bowel disease.Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 18(6):576-581, 2015.

  5. Crohn’s and Colitis U.K. Information Sheet. Dehydration.