脂質は食べてはいけないの?潰瘍性大腸炎/クローン病(IBD)と脂質
執筆: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国栄養士会所属登録栄養士)
監修: 堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)
脂質とは?
脂質は、肉類・魚類・卵・乳製品・油脂類などに多く含まれており、体のエネルギー源、体の中の膜や組織の生成に使われます。
エネルギー源としては、炭水化物やたんぱく質と比べ、1gあたりに含まれるカロリーが多いことが特徴です(炭水化物、たんぱく質: 4kcal/1g 脂質:9kcal/1g)。
また脂質は、他の栄養素と比べ腸管への消化・吸収に対する負担が大きいと言われています。
炭水化物やたんぱく質と比べ消化吸収に時間がかかることに加え、消化されずに残った脂質は、消化管の動きで押し出す必要があるために、消化管の動きが活発になると考えられているからです。
これがIBDにおいて脂質が注目されている理由の一つです。
さらに、脂質が免疫機能や腸内細菌にも影響を与える可能性があることがわかってきています。
脂質を構成する脂肪酸は、その化学構造の違いによって、いくつかの種類に分類されます。
ほとんどの脂肪酸はヒトの体内で作り出すことができますが、必須脂肪酸と呼ばれる一部の脂肪酸は、体内で生成できないため、食事からの摂取が必要となります。
そして興味深いことに、各脂肪酸の種類によってIBDに与える影響が異なることがわかってきています。
以下の表は、脂肪酸の種類と各脂肪酸が含まれる食物をまとめたものです。
IBDに良い/悪いと言われている脂肪酸は?
では具体的に各脂肪酸の種類とIBDへの影響についてみていきます。
飽和脂肪酸
飽和脂肪酸は、融点が高く常温では固体であり、肉、バター、牛乳などの動物性食品に含まれます。
飽和脂肪酸は、心臓に関わる循環器系疾患のリスクを上げる脂肪酸(1)として知られていますが、IBDとの関わりについてもいくつか研究があります。
また、様々な疫学研究や動物実験でIBDの病態と関与している可能性があることが示唆されています。(2)(3)(4)
特に疫学研究では、飽和脂肪酸がIBDの発症リスクを高めることが示唆されています。(4)
また、飽和脂肪酸を多く含む赤身肉などの摂取は、潰瘍性大腸炎の再燃リスクを増加させる可能性のあることも明らかになっています。(5)
飽和脂肪酸の過剰な摂取は、循環器系疾患などのリスクを上げるため、IBD以外の疾患の発症予防や健康を保つためにも、飽和脂肪酸の多い牛肉をよく食べる方は少し頻度や食べる量を減らしてみましょう。
また鶏肉や豚肉で脂身の少ない部分(もも肉など)を料理のメインとして用いることがおすすめです。
オメガ9系脂肪酸
オメガ9系脂肪酸(オレイン酸など)は、オリーブオイル、菜種油、キャノーラオイルなどに含まれます。これらの脂肪酸が多く含まれる食事としては、地中海食*が有名で、循環器系疾患の抑制効果が確認されています。(6)
*地中海食:オリーブオイル、全粒穀物、野菜、果物、豆、ナッツが豊富な地中海沿岸諸国の伝統的な食事のこと
オメガ9系脂肪酸とIBDの関係は一貫した結果が得られていませんが、前向きのコホート研究において、オメガ9系脂肪酸の摂取が高かった群でIBD発症リスクが低かったことが確認されています。(7)
オメガ9系脂肪酸は、飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸より炎症を悪化させるリスクは少ないと考えられています。
料理に油を用いる場合は、オメガ9系脂肪酸を含むオリーブオイルや菜種油を選択するようにしましょう。
オメガ6系脂肪酸
オメガ6系多価不飽和脂肪酸は、必須脂肪酸であるリノール酸やアラキドン酸などがあります。
大豆油やごま油などの植物油に多く含まれ、特に加工食品やスナック菓子にもよく使われる油になります。
これらの脂肪酸は、体内で炎症を誘導する脂質メディエーター(ロイコトリエン等)の材料として利用されるため、過剰な摂取は炎症を促進することが示唆されています。(8)
疫学研究においても、オメガ6系不飽和脂肪酸の摂取量は、IBDの発症リスクを上げることが示されています。
オメガ6系の不飽和脂肪酸が含まれる加工食品やスナック菓子の過剰な摂取は避けましょう。
また、見た目から脂質がどれだけ含まれているかわかりにくいため、きちんと成分表示を見てどのような脂質が含まれているかを確認してから選択するようにしましょう。
オメガ3系多価不飽和脂肪酸
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、必須脂肪酸であるαリノレン酸や魚の油などに多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)があります。
オメガ3系脂肪酸は、オメガ6系脂肪酸が炎症を誘導する脂質メディエーターを抑えることによって、炎症を抑制することがわかっています。
またオメガ6系脂肪酸と共通の代謝経路を一部用いるため、近年ではオメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の比率を整えること(オメガ6の摂取量を減らし、オメガ3の摂取量を増やすこと)が重要と考えられています。
IBDにおいても、オメガ3の比率が低いことがIBDのリスクの増加につながることが示唆されています。(4)
オメガ3系脂肪酸のサプリメントが市販されていますが、IBDの寛解維持におけるサプリメントの有用性は確認されていないため、IBD患者さんには推奨されていません。(9)
よって、オメガ3系の脂肪酸を摂取する場合は、サプリメントからではなく、食事からオメガ3系脂肪酸を摂取するように心掛けましょう。
まとめ
以上、IBDと脂質についてお伝えしました。ひとえに脂質と言っても、実は様々な種類があり、各脂肪酸によって、IBDに与える影響が異なることがお分かりいただけたかと思います。
患者さんによっては脂質は全て制限する方が調子が良いという方もいますし、脂質の制限がストレスになっているという方もいらっしゃると思います。
この記事がご自身にとって最適な食事を見つけるための一助になれば幸いです。
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