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『目と葉なのさ』木談 第20回【小説のみ】

いつも通り登校するためにバスに乗っただけなのに、居眠りしたらいつの間にか見知らぬバスに乗っていた。降りるとそこは声も音も匂いも知らない見知らぬ土地。気づくと制服もカバンも身体も変わっていて、私は誰かになってしまった・・・。
昭和26年にタイムトラベルをした女子高生。彼女はどうしてここにいるの?
※今回は小説のみ

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 夢から醒めた私は大学生になったら必ず由良の地元に行くと心に決めた。
 そして今に至る。私はホテルに荷物を置いて市の図書館へ行った。新聞記事を閲覧するためである。昭和26年のあの日以降の新聞のマイクロフィルムから由良を探す。
「ああ・・・やっぱり」
 新聞の中に由良がいた。わかっちゃいるけど、由良はやはりあの神社の森で殺されていた。由良発見の手掛かりは私が置いた生徒手帳だった。
 由良発見には4日を要した。なぜなら由良が神社に行ったなんて誰も知らなかったし、誰も見ていなかったし、気にかけもしなかった。むしろ誤った目撃証言によって捜索が行われたのだ。由良の生徒手帳はすぐに参拝客によって拾われたのだが、神社の忘れ物入れに入れられた。その生徒手帳が由良のものだと分かるのに4日かかったのだ。由良の遺体は傷み、死亡日時が曖昧になってしまった。そして犯人は証拠を残さなかった。私の時代なら何か手がかりがつかめたかもしれない。由良の時代が昭和26年なのが悔しい!由良をこちらへ連れてきたかった!
 私は少し休憩をとって気を静めてから別のマイクロフィルムを閲覧した。
「・・・・・・・・ああ、由良の言う通りだった」
私は新聞の中から由良を殺した犯人を見つけた。
「やっぱりアイツだったんだ」
 由良は夢を通して私に犯人を教えてくれたのである。犯人は由良を殺して10年後、滑落死した。その新聞記事があったのだ。
 犯人は私が裏木戸で会ったあの男だった。
「だからあんな驚いてバカ丁寧だったんだ」
 どうしてとか、そういえば本当に大丈夫なんてアイツ言ってた!帽子を取って会釈して・・・あれで謝ったつもりなのぉ!!!!!!!!!!!!
 新聞に笑顔の写真が載る犯人が憎い。ぶん殴ってやりたい。でもマイクロフィルムだから私の手が負ける。だから私はこの日の新聞をプリントアウトして、ホテルに戻ってビリビリに破って噛んでやった。踏んづけて、燃やしてやりたいけど、ここホテルだからさ。こんなことしても由良が返ってこないのは分かるんだけど、でも私・・・アイツが罰されないのがやりきれなくて。私は由良の分も父の分も母の分も祖母の分もシゲの分も噛んでやった。ああもうあと30枚プリントアウトすればよかった!!!!!!!!!!!
 裏木戸で私と会った時点で由良が死んだことを知っているのはあの男だけである。自分が殺したはずの少女と会話したあの生々しい経験はあの男の監獄になったに違いない。死ぬまで絶望と恐怖に怯えていただろう。これはきっと御神木があの男に与えた終身刑なのだ。
 少し休憩してから私はあの神社へ行った。今日はネコもカラスもスズメも蝶もいたが、トンボだけはいなかった。そういえばハトもいなかった。水のサービスは無くなって、代わりに自販機が置いてある。私は神殿にお参りした。さて、御神木にご挨拶に行くか。
「え!驚いた!まさか!」
 森だったところは遊歩道が整備されていた。ああそうか、整備することで由良が亡くなった場所に人が近づかないようにしているんだね。私はありがとうと思いながら立派な遊歩道を歩く。御神木が見えてきた。あの日と変わらないみたい、私の身体は違うんだけれど。
「こんにちは。ねぇ、覚えてます?私、あの日来たんですよ。なんと言って良いのか・・・貴重な体験をありがとうございました。そして由良のこと、ありがとうございました」
 私は御神木に触れながらお礼を言った。一瞬、木が温かくなったように思えた。何となく由良が側にいるような気がする。
「由良、最後のカレー美味しかったね。もう1皿食べればよかったかな」
 返事をするように風がそよぐ。葉っぱが2枚落ちてきた。あと2皿かい。ごめんね~余所の家だから遠慮しちゃったんだ。
「もっとちゃんと虹を見ればよかったなって思った。ゴメン。それと、あんたの虹、描き直せばよかった?私は虹の配色、一生間違えない自信がある」
 風が笑う。だから私も笑う。だけどとっても苦い。
「・・・バカだね由良。だったら私を・・・私をお赤飯を食べるまで、デパートに行ってワンピース買うまで食堂で美味しいもの食べるまでつないでおけばいいのに!!どうせ犯人が捕まらないなら、あんたが見つからないように頑張ればよかったのに!!!!!!!私は生理が来るまでは大丈夫だったんだよ!!!!せめてお赤飯は食べられたでしょ!!!!!!!シジミの味噌汁だって、煮っころがしだって!!!!!!私も食べたかったの、みんなと一緒に食べたかった・・・!!!!!!!!!!!!!!!」
 右側からバサリと何かが落ちる音がした。そちらを振り向くと、そこに老人が立っていた。
~続~お読みいただきありがとうございました(*^-^*)
次回最終回です(*ノωノ)☆♪


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