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『目と葉なのさ』木談 第19回 【マンガ】【小説】【連載】

いつも通り登校するためにバスに乗っただけなのに、居眠りしたらいつの間にか見知らぬバスに乗っていた。降りるとそこは声も音も匂いも知らない見知らぬ土地。気づくと制服もカバンも身体も変わっていて、私は誰かになってしまった・・・。
昭和26年にタイムトラベルをした女子高生。彼女はどうしてここにいるの?

今回とうとうマンガ部分出ます。まさか19回目になるとは思わなかった(^^;
表紙は今の私の絵、マンガ部分は2年前。こんな単純な絵でも2年経てば変わるもんなんですね(*^▽^*)

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 由良の口が笑っている。そして由良が必死に何かを見ているのに気が付いた。由良の口が何か呟いている。私の口でもあるのに私には由良が何を言っているのか分からない。定番のお母さんなのかなって思ったけれど違う。
 由良は私たちの腰あたりから生えている木の樹冠を見ている。由良が必死に葉を一枚一枚見ているのが分かった。いや、見ているというより顕微鏡をのぞき込むようだ。身体は動かないのに、由良の気持ちは起き上がって樹冠に背伸びをしている。
 ねぇ由良、何をそんなに見ているの?ただの葉っぱでしょ!こんな葉っぱ、珍しくもなんともないじゃない!ねぇ由良、あんたもう最期なんだからもっと美しくて幸せだって思える光景を見なさいよ!あんたが最期に見る光景がただの葉っぱだなんて私は嫌だよ!一日あんたを担当した私の意見だって少しは聞いてくれてもイイでしょ!だけど私には由良の目を動かす権利が無い。そうだよね、私は由良の人生の6340分の1しか生きてないもんねぇ・・・。
 由良の目が揺らぐ。私の目が酔ってしまう。ああ由良やめて。私は酔いやすいの。そんなに目に力を入れないで。目玉が飛び出してしまいそう。だけどそれだけ由良が必死に必死に一枚一枚じっくりじっくり見ているのが分かる。必死って…必ず死ぬって…由良、あんたもう…!!!!!!!!!由良のこと手伝ってあげたいけど、目は一対しかないし、ああもう片目ずつ由良と私で担当出来たらいいのに!!!!!!!!!
 私達に残された時間は一体あとどのくらいなんだろう。私は見てることしか出来ないの!!!!!!!!自分にメチャクチャ腹が立つ!!!!!ああ私、夕飯でなんて残酷なことを言ったんだろ!枕飯をカレーにしてほしいだなんて!私ったら世界一の愚か者!!!!!???え?????ええええ?私達、まだカレー食べてないよ。私はまだ枕飯なんて言ってない‥‥あれ?今、由良が死んだら私はなんで由良に?
「…これに決めた!!」
 由良の声に驚いて私の心に地震が起きた。あ、由良の目が止まった。私の目も止まる。由良ちょっと待って。私の目がまだ落ち着かない。行ったに何を決めたあ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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 葉の一枚一枚に中に色々で様々な景色が見えた。十葉十色。一枚一枚が誰かの視線だった。数多の視線から由良は最期に相応しい景色を探した。由良が選んだのは虹。その虹を見ていたのが私だったのだ。

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「キレイ…」
 それが由良の最期の一言だった。由良は涙を流したかったらしい。でも涙は間に合わなかった。その代わり口角が目に届きそうなくらい上がっているのが分かった。私はそれがたまらなく嬉しくて、私の身体が目も流してしまいそうなくらい涙を流した。
 由良は一瞬私の身体の中にいた。そして私は全てを納得した。
 御神木は由良を助けることができなかった。その代わり由良に贈り物をしたのだろう。贈り物は十葉十色の光景と私のタイムトラベル。私は一日由良になった。私は由良の願いを叶えるために由良になったのだ。
 由良はどうしても73点のテストを家族に見せたかったのである。由良は家族に喜んでほしかった。褒めてほしかった。可愛がってほしかった。ギャフンと言わせたかった。特に父には娘を高校に行かせて良かったと思って欲しかった。由良は子どもとして当然の願いを叶えたかったのだ。分かるよ由良。分かる。すっごく分かる。私はあんたの気持ちがよく分かる。
 私が由良になって感じた甘さのあとの苦みは、これが最後だと知っていた由良の無念の味。歯が解けてしまいそうなくらい苦くって、私の口角は反射でいつも上がってしまったのだ。
 由良は私の振る舞いにどう感じただろうか。もっと普段通りの由良でいてあげたかった。余計なことをしなければよかった。遠慮しなければよかった。あのリンゴ・・・なんで私、速く寝ちゃったんだろう・・・もっとお喋りすればよかった・・・もっと丁寧にお休みなさいって言えばよかった。由良…ごめん、ごめんね。ホントにゴメン。嫉妬するなんて私はホントにバカだった・・・天罰が下っても仕方ないよ!!!!!!バカバカバカ!
私のバカ!!!!!!!!!私の方が死ねばよかったのに!!!!!!バカ!!!!!!!
「そんなことないよ」
 え?????私は声がした方を見ると、そこに少女がいた。あ、由良だ!初めて見る顔だけど、私には分かる。この子は由良だ。
「由良」
「はい」
 由良は点呼の返事みたいな真面目な返事をする。
「由良」
「はい」
 私は由良の側に行きたいんだけど、行けない。目に見えない何かが私たちの間に流れている。私はそちらへ行ってはいけないんだ。ああ初めて、私と由良は別の身体になった。
「ありがとう」
 由良が笑顔で私にそう言った。由良ったら私に甘いんだから。

~続~お読みいただきありがとうございました(*^-^*)
次回おそらく小説のみです。

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