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ここはあなたの居場所「此処珈琲焙煎所」

彦根には、いろいろなコーヒー店があります。中には世界規模で展開しているコーヒーチェーン店もあります。
 
そんな中で、JR南彦根駅から徒歩12分のところに、大学生がやっている人気コーヒー店があるという噂を聞きました。
 
JR彦根駅から県道206号線をまっすぐ進み、県道528号線・くすのき通りまで自転車で20分、「小泉町」の信号の手前にあるお店からは、コーヒーの優しい香りが漂います。

二人のユウトの出会い

コーヒー店を営む二人のユウトくんは大学で出会いました。
 
二人は、大学の授業「地域再生システム(特)論」をきっかけに始まった「政所茶」作りのチーム「政所茶レン茶゛ー」(政所茶レンジャー)に所属し、地域活性化に貢献しています。
 
「政所茶」とは、奥永源寺の政所という地域で作られているお茶です。
 
「宇治は茶処、茶は政所」と茶摘み唄で歌われるように、「政所茶」は古くから知られている銘茶です。石田三成が豊臣秀吉に出した三杯のお茶「三献茶」として、歴史的にも有名で、秀吉は生涯、「政所茶」を愛したとも言われています。

政所は寒暖差が激しい場所で、朝霧が発生しやすい気象条件がお茶の栽培に適しており、江戸時代初期は幕府領でした。元和3年(1617年)に彦根藩領となり、「政所茶」は朝廷や彦根藩に献上されていました。
 
「政所茶」は希少な在来種を無農薬で栽培して作られ、銘茶の最高峰として愛されています。しかし、少子高齢化に伴い「政所茶」の生産量は減少し続け、現在では、30軒ほどの農家で生産される希少なお茶となっています。
 
二人のユウトくんは、この「政所茶レン茶゛ー」の活動を通して、原材料調達・生産・在庫管理・流通・販売というビジネスの基礎を、知らず知らずのうちに学んでいたのです。

コーヒーと共に時代の波に乗る

今の時代、カフェやコンビニなど、いつでもどこでも好きなときにコーヒーを飲むことができます。しかし、日本でのコーヒーの歴史はお茶と比べると浅く、日本にコーヒーが定着したのは、江戸時代後期の黒船来航以降と言われています。
 
「アメリカンコーヒー」と言われるように、アメリカではコーヒーが日常的に飲まれているイメージがあります。しかし、アメリカでは、植民地時代、イギリスの影響で紅茶が飲まれていたことをご存知でしょうか?
 
アメリカでのコーヒー文化は、イギリスからの独立が進むにつれて、徐々に作られていったのです。

コーヒーには時代によって流行があり、コーヒーブームは「コーヒーウエーブ」と言われています。
 
「第一の波」は「ファーストウェーブ」と呼ばれ、19世紀後半から1960年代まで、インスタントコーヒーの普及によって、急速にコーヒーが家庭に広まりました。
 
「第二の波」は「セカンドウェーブ」と呼ばれ、1960年代から始まりました。深煎りのアメリカ・シアトル系コーヒーが流行し、日本に新しいコーヒー文化が上陸しました。
 
「第三の波」は「サードウェーブ」と呼ばれ、2000年ごろから始まりました。
 
「サードウェーブ」では、コーヒー豆の産地、農園、品種などにこだわり、コーヒー豆からカップ一杯のコーヒーまでの過程が明確であること、つまりトレーサビリティを重視しています。コーヒー豆の個性を生かすため、浅炒りのコーヒーが主流となっています。

「此処珈琲焙煎所」は、「サードウェーブコーヒー」と言われているものになるでしょう。
 
「此処珈琲焙煎所」では、コーヒー豆の産地、農園、品質などにこだわり、丁寧に自家焙煎された良質のコーヒーを飲むことができます。

店主の大原悠人ゆうとさんがコーヒー店を始めようと思ったのは、たまたま大原さんがはまっていたコーヒーについて、ブログで発信したことがきっかけでした。
 
時代の波に乗って、ネットショップで自家焙煎のコーヒー豆の販売からスタートし、アルバイトで開業資金を貯めました。そして、2021年7月に、角井優斗すみいゆうとさんと二人でお店をオープンしました。

此処に集う

店主の大原さんは、小さいころから、「自分のお店を持ちたい」という夢を持っていました。
 
大原さんは、友人とコミュニケーションを取るのが大好きで、文化祭の企画や商品開発など、仲間と一緒に作り上げるプロセスに、とてもやりがいを感じるそうです。
 
一方、角井さんは職人タイプ。美味しいコーヒーの淹れ方を日々探究し、焙煎・粉砕・抽出などのプロセスをこだわり尽くしています。
 
大学で出会った二人のユウトくんは、それぞれの特性、強みを生かし、お互いを補い合い、バランスが取れたショップ経営をされています。

角井優斗さん

「此処珈琲焙煎所」のキャラクター「こころう」は、今にもコッコッコッと鳴く声が聞こえてきそうな、可愛いニワトリのキャラクター。絵が得意な友人によるデザインで、カップに一つ一つ手描きしてくれているそうです。
 
また、お店の内装は、カウンター、テーブルだけでなく、床、壁、棚に至るまでDIYの手作り。手作りのアットホームな空間で美味しいコーヒーを頂いていると、二人のユウトくんの温かい想いが伝わってきます。

「大学を卒業しても、此処を仲間が集う場所にしたい」
 
「友人が気軽に集まることができる空間を作りたかったんです」と笑顔で話す大原さんから、小さいころからの夢を一つ叶えた満足感と、次のステージに進む覚悟を感じました。

次のコーヒーの流行は?

コーヒーの次の流行、「第四の波」「フォースウェーブ」はどのようなものになるのでしょうか?
 
主力なものとして、「自家焙煎コーヒー」や、「デカフェ」(カフェインレス・コーヒー)が予想されていますが、まだまだ市場には新しいニーズがありそうです。
 
お気に入りのお店でコーヒーを飲む人もいれば、おうちでコーヒー豆を挽いてコーヒーを楽しむ人もいます。
 
私はこれまであまりコーヒーを飲むことはなかったのですが、最近、コーヒーにはまっている友人に教えてもらい、自家焙煎用の鍋と手動のコーヒーミルを購入したところです。
 
手動のコーヒーミルを探しに全国展開している大手ワンコインショップに行ったところ、「人気のため、会社在庫もありません」と言われたほど、今、おうちコーヒーが人気のようです。

お店でコーヒーを淹れてもらうとコーヒー豆がモコモコに膨らみ、香り高く、とても美味しそうです。しかし、焙煎したコーヒー豆を購入して、家で同じように淹れても、綺麗に豆が膨らみません。
 
これは、コーヒー豆には炭酸ガスを含むので、焙煎してすぐであれば、豆がモコモコに膨らむそうです。しかし、焙煎してしばらく日にちが経ったものは、炭酸ガスが抜けるため、膨らまなくなるのだそうです。
 
ただし、モコモコに膨らむことが、必ずしも、美味しいコーヒーにはつながらないようです。コーヒー豆の種類や、焙煎の仕方によっても状態は変わってくるようです。
 
こういうちょっとした違いが、コーヒーを淹れる楽しさであり、コーヒー店ごとのこだわりや、コーヒー豆のストーリーを聞くのも、専門店に通う楽しみの一つではないでしょうか?

彦根から新しい波を

「此処珈琲焙煎所」は、大学の通学路の途中にお店があります。そのため、店主の大原さんは、最初は「大学生しか来ないだろう」と思っていたそうです。
 
しかし、「此処珈琲焙煎所」は学生の交流の場であるだけではありません。
 
地域の人、SNSで繋がっている人や、ネットショップでコーヒー豆を購入してくれているお客さん、ブログ読者が遠方から足を運んでくれることもあるそうです。

「此処珈琲焙煎所」が現在ある場所では、これまでいろんな飲食店が営業していました。そして、いずれのお店もこの場所で大人気となり、彦根市の中心部に移転していきました。
 
交差点に近く、車の中からも目立つ場所なので、交差点の信号で車を停めたときに「たまたま目に留まったから」と、後日わざわざお店に来てくれる人もいるそうです。
 
これまでの飲食店の成功というジンクスもあり、大原さんは、いずれは、彦根市の中心部への展開も視野に入れています。

(写真:大原悠人さんから提供)

大学の授業「地域再生システム(特)論」をきっかけに始まった「政所茶レン茶゛ー」の活動が、「此処珈琲焙煎研究所」の経営に繋がるとは、大原さんは思ってもみなかったでしょう。
 
しかし、「人生に無駄なものはない」と言われるように、どんな経験も、必ず、次のステージに上がるための土台になるものです。
 
コーヒーが「フォースウェーブ」の時代に入ったように、大原さんは「此処珈琲研究所」の次のステージを見据えています。
 
 
 
大原さんには、多くの人を巻き込んで「此処珈琲焙煎所」でやりたいことのアイデアが、たくさんあるそうです。
 
コーヒーを通して、多くの人を巻き込んで、彦根から新しい波を起こす。そして、「此処珈琲焙煎所」は、ここに集う人それぞれが、自分らしさ(アイデンティティ)を確認する場所になるのではないでしょうか?
 
「此処珈琲焙煎所」は、彦根にあるあなたの居場所になるでしょう。彦根から起こる「此処珈琲焙煎所」の「フォースウェーブ」を期待したいと思います。

此処珈琲焙煎所
滋賀県彦根市戸賀町240
URL https://cococoffee.stores.jp
Instagram https://www.instagram.com/cococoffee_flat/
 
営業日、営業時間はInstagramのハイライトでご確認ください

(写真・文 若林三都子)