創業150年の伝統が紡ぐ歴史と未来 ご城下の宿 料亭旅館やす井
城下町として、歴史のある街として今も名高く多くの観光客が訪れる彦根。
そこには伝統と文化を守り抜く、多くの『老舗』が彦根の街の良さを創りだしています。
今回訪れた『ご城下の宿 料亭旅館 やす井』も彦根の街を創る『老舗』のひとつ。
『やす井』と聞くと結婚式や法事、新年会など宴会のイメージや実際利用した人もいるかもしれません。
やす井の始まりは遡ること150年前。明治2年の創業以来、「和と伝統の空間」「趣ある日本庭園」「湖国の美食」にこだわりつづけています。また、彦根藩主『井伊家』から『やす井』と名付けたそうです。
入り口の門に大きく書かれた『やす井』ののれんをくぐると目の前に広がる和の空間。
のれんをくぐった瞬間から日常を忘れてしまいます。
そんな150年の歴史と伝統とこだわりを継承しているのは
総支配人の成田孝一さん。
まずはじめに地産地消についてお聞きしました。すると
「京料理は滋賀で作ることはできてもそれは「本物」ではないですよね。だから地元・滋賀県産のもので「湖国料理」を提供しているんですよ。滋賀県には琵琶湖があるからアユやビワマス、天然のすっぽん、琵琶湖の幸が捕れるし、近江野菜もありますし。」
と成田さんは話します。
言われてみれば確かに・・・と感心していると成田さんの口から
「朝食は必ずセタシジミのお味噌汁を出しているんですよ」とひとこと。
地産地消にこだわった「湖国料理」を作っているので基本的には滋賀県産の食材を使用しているのですが、甲良のいちじく、鳥居本のたけのこ、草津のごぼう、シーズンの時は彦根梨・・・そして料理長自ら食材を求めるために野山へ取りに行くことも・・・。
更に、作り置きをしなかったり、既成品を使わなかったり、お漬物も自家製であったり・・・
(出典元:料亭旅館やす井 公式ホームページ)
「やす井の方針として『滋賀に来たからこそ体験してほしい』、その気持ちでサービスやお料理の提供をしているんですよ。想いが伝わったときにお客様の感動につながるんです。」
「スタッフが自信を持って出せる料理は誰が食べてもおいしいんですよ。想いも味も手間暇かけてるんですよ。よいものを作るためにはこだわりが必要なんですよ。」と成田さん。
(出典元:料亭旅館やす井 公式ホームページ)
このこだわりこそが「湖国の美食」そのものであり、やす井の魅力でもあるのです。
続いて館内を案内してもらいました。
ここで「趣ある日本庭園」の正体が明らかになるのです。
全9室ある客室、大浴場は美しい日本庭園に面しているのです。
縁側の椅子に座って庭園を眺める・・・
露天風呂に浸かりながら庭園を眺める・・・
なんて贅沢なのでしょう・・・時が過ぎるのも忘れてしまいます。
許されるならこの景色を独り占めしたいくらいです。
そしてさらに特別室にも案内していただけることに。
なんといっても囲炉裏と日本庭園。
この特別室「囲炉裏の間」は三代目当主の私室を客室として改修したものだそうです。
まさに癒しの空間とはこのこと。
彦根にずっと住み続けている私ですが、
「彦根にこんな素敵な旅館があってよかった!!」
と心の底から感じました。
創業150年を迎えたやす井ですが、実は「変革の時」にあるのです。
というのも先代の女将さんの引退と同時に経営主体が変わったのです。
この変化に対してお客様や古くからのお得意様から心配や戸惑いの声もあったそうです。
「新しいやす井をどう作るか、どう見出すかは確かに大切なことですが、経営者が変わっても働いているスタッフ、料理人は変わらないし、常におもてなしをする姿勢も変わりません。これからも彦根に必要とされるやす井にしていきます。」
そう語る成田さんの言葉にはひとつひとつの重みがあり150年の歴史を刻み続け、彦根の街と共に成長し続けるやす井の魅力を感じました。
「滋賀県を宿泊しながら琵琶湖一周できるような滞在型の観光地にしていきたいです。そして滋賀県を楽しんで帰ってもらいたいですね。」
151年目の新たな歴史を刻み始めたやす井と成田さん。
今までの伝統を守り続けながらもどのように彦根の街に新たな風を吹かせるのでしょうか。
やす井のこれからが楽しみです。
※ この記事は令和2年3月上旬に取材・執筆したものです。
(写真・文 Kanae)