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芙蓉園の鳳凰蛋

京都旅最終日は十一月とは思えない暑さだった。午前中は京都市京セラ美術館で展示を見て、四条河原町にある広東料理の店「芙蓉園」に着いたのは十二時前だった。店の前にはスーツの男性と中年夫婦が並んでいたが、ジリジリと強くなる日差しに耐えられず、周辺の日陰を転々としながら開店を待った。

十二時になると温和な物腰の店主が現れて店内へ迎え入れてくれた。Aセットとアイス烏龍茶を頼み、暫しカウンター前の水槽で泳ぐめだかたちを眺めて過ごした。左右に一つずつ置かれた水槽は一人の食事に退屈させないための心遣いだろうか。おひとりさまに慣れてきたのか、この店が老舗たる所以か、なんとも居心地が良かった。しばらくすると烏龍茶がボトルで出てきて好きだと思った。

「お待たせしました」と運ばれてきたメインの鳳凰蛋をひとくち食べたとき、この店への信頼は確信に変わった。鳳凰蛋とは鶏肉入りの卵焼きのこと。トロトロ卵はやさしい甘さで、白米が進む。ごはんとスープ、小鉢、シュウマイ三個がついて千円ちょっと。どれも流石のクオリティで箸が止まらない。左のカウンターでは、昼休憩と見えるスーツの男性がビールを一杯やっていた。この味が日常にあるなんてちょっと羨ましい。

ヒンヤリと薄暗い店内に、新たな楽園を見つけてしまった。京都の街には、シンプルにぶれない人々のプライドが漂っている。

#エッセイ #コラム #一人旅 #京都 #京都一人旅

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