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アートが修復する人と人の関係:NPO法人チア・アートへのQ&A(後編)

あえてこの時期にウィルス感染対策などで緊張感が高まる病院内を会場に、写真を通して人と人をつなぎなおすプロジェクト「病院のまなざし」展を行ったNPO法人チア・アート。先月行われた意見交換会では代表の岩田さんがさまざまな質問に答えてくれました。

Q.コロナの感染拡大になって最も過酷な現場の1つが病院。特に急性期の病院かと。コロナ禍でいつも以上に病院の職員は忙しいと思うんですよね。ふだん以上に忙しく緊迫した状況の中で、「アートプロジェクトをしたいんだけど……」とアイデアを話したり、その賛同を得るための時間を取ることすら難しかったことが予想されるんですが、いつも以上のハードルは感じましたか?

はい。それはありました。こちらも遠慮をしますし、病院の職員が緊張感のなかで忙しく走り回っている姿を見ると今アートとかいってもいいのかなと。

ただ、マズローの5段階欲求(*生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求という風に順番に満たしていく人の5つの欲求)ではないが、病院も状況や対応を把握できるようになると、次の欲求として、患者さん−職員間、職員間のコミュニケーションや緊張感を和らげるような療養環境が必要とされ、アートが必要とされているのを感じた。

今回病院で実施できたのは、忙しいようすを見ながらも、以前からアートコーディネーターという立場ですでに病院の中で入っていたことも大きかったと思う。広報課のデスクで私たちも働いているのですが、アイデアを伝えたら「それすごいやりたい!」というレスポンスがすぐその場できたことは大きかった。

あとは、病院長や代表理事の医師たちともふだんから話をしていたので、今回もすぐに「こういう企画やりたいんですけどどうですか」と提案にいきました。企画書を持っていたら「やろう。やろう」と言ってくれた。

アート側は遠慮してしまうけれど、こちらが思っているより、病院のなかではやりたいという思いが常にあると感じました。

Q.すでに実績や関係性ができていたというところが大きいですね。

それはありますね。アートプロジェクトに対する期待感や信頼感を、病院内で日常的に築いていくことの必要性を感じました。

Q.(*参加者の方からの質問)
地元にこういう病院があるといいなと思った。取り組みを受け入れる病院側も素敵だが病院側のメリットとしてはどのようなものが挙げられますか?

大きな病院になるほど職員は自分の部署以外で起こっていることを知るのが難しくなると思います。どういう職員がどういう働きをしているかは知らないということがすごくたくさんあって。
各部署で専門家たちが医療を支えているが、職員同士のコミュニケーションも、組織づくりとしても非常に大事なところ。今回の写真展がチーム医療をみんなで行って、みんなで患者さんを支えていくための1役になればというふうに思っています。こういう形にすることで生まれるつながりやケアというのは病院にとってもメリットのように思います。

あと病院として患者さんを大切にしているという姿勢を示せること。自分たちの病院には様々な職員がそれぞれに患者さんのことを思って懸命に働いているというのを、写真をとおして形にすることができるというのは、大きなメリットになるんだと思います。

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Q.今回撮影をされたカメラマンの方は?

今回参加してくれた二人のカメラマンの一人はつくば市在住の看護師なんです。もともと患者さんのために写真で何かできないかと思っていた方だったのでお誘いしました。

もう一人のカメラマンも、つくば市に住んでいて、自身もこの病院に通院経験があったり、両親が病院にお世話になったりしていました。なので、撮影現場に入っていくなかで、「〇〇先生、写真撮らせてください」とどんどん入って行けたり。外部の人がカメラマンとして入って、捉え直すことで緊張がふっと揺らぐ面がありました。いい介入が生まれました。

Q.写真展をした時の告知はどのようにしましたか。あれだけ並んでいると密になるんじゃないかと思いましたが、どんな工夫をされましたか?

職員向けにはずっと大々的に告知をしていたんですね。撮影は、自分の病棟には入ってほしくないという職員もいたので、そこは尊重して「入っていいよ」と言ってくれたところだけにしました。写真を飾ったあと、患者さん向けに病院広報誌には載せましたが、面会制限下なので、鑑賞目的で一般の方に来院していただくことは遠慮していただいていました。プレスリリースも新型コロナウイルス感染症の患者さんが少ない時期を見計らって行いました。

100人くらいは展示できたが、いい写真が多く展示できない写真もたくさんあったので、被写体になったひとには全員1枚プレゼントしました。患者さんからのメッセージも添えて職員に配り歩きました。

8.写真展「病院のまなざし」

7.写真展「病院のまなざし」

Q.今後の予定を教えてください

他の病院でもこういう写真展を別の形で展開できたらいいなと思っています。もう少しナラティブに。今回は写真だけだったんですけれども、今度はその人の背景も一緒につけて、メディアにして発信をして。病院内だけでも深掘りをしていくことも考えています。

院内での写真展は2021年5月いっぱいで終了しました。職員や患者さんに好評であったにも関わらず、一般の方に鑑賞していただけなかったので、2021年7〜8月に茨城県内のショッピングセンターで巡回展を開催しています。
http://www.tmch.or.jp/hosp/info/2021-0629-0941-12.html(巡回展の情報はこちらからご覧いただけます。)

聞き手:森下静香(Good Job!センター香芝)

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この記事は先月行われたオンラインでの「コロナ禍における障害のある人の仕事づくり」情報交換会での代表の岩田さんのお話をまとめています。(文章化にあたって、より読みやすいよう少し変更している箇所がありますのでご了承ください。)




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