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SDGs(生命の尊厳)のためにできる共創 | マニュモビールズ

新型コロナウィルス感染症(以下、コロナ)の影響がある中でも立ち止まらず、障害のある人とともに仕事を生みだしている取り組みがあります。そのような取り組みが今後の活動のヒントになると考え、「コロナ禍における障害のある人の仕事づくり」と題して情報交換会をオンラインで開催しました。本noteではオンラインで話された内容に加筆してお届けします。

[話者]
マニュモビールズ [Manu Mobiles] 今井 淳二郎さん/愛知県

― モビールって何でしょうか?

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[マニュモビールズ 今井 淳二郎さん]

モビールは北欧で生まれたインテリアです。赤ちゃんが寝転がっているときに、天井などに飾ってくるくる回っているのを楽しむための知育玩具として使われていたり、空間を彩るインテリアとして使われています。 

北欧の方だと棒があって両端に動物やキャラクターなどのモチーフがぶら下がっているのが一般的なものです。

マニュモビールズでは、紙と糸だけで作っていて、北欧のタイプとは違う日本らしい、日本発のモビールを作ろうと思って始めました。事業としては2013年から活動を始めて、じわじわと認知も広がってきて今に至っています。

モビールの使い方が日本ではまだ普及していないので「どこに飾ったらいいか」「天井に穴を開けたり粘着したくない」といった声も多いので、飾り方や使い方をもっと発信していく必要があると常々思っています。購入者からの感想やフィードバックのアンケートみたいなものも実施したいなと思っています。

今回の情報交換会の中で「自宅勤務でパソコンの前で作業することが増えたので、たとえば付箋が貼れたり、自宅勤務のお供になるような役割が増えてもいいのでは」という声もありました。

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現在で15種類くらいの種類がありまして、こいのぼり、クリスマス、ハロウィンなど季節商品があったり、ドラえもんやピーターラビットなどキャラクター商品もあります。このイラストの部分には、デザイナーやイラストレーターなどいろんな方々に関わってもらっています。

実はこのモビールのパーツには印刷を使っておらず、切った紙を手作業でボンドで貼り合わせて作っています。その工程を障害のある人にお願いしています。

職人的な部分を障害のある人がたずさわりプロダクトとして完成していくという感じです。これまで名古屋にある3つの事業所に依頼をしていましたが、コロナの影響で受注が減り、今は1か所にお願いしている状態です。

モビールの販路としては、百貨店や雑貨屋やインテリアショップなどに卸して、少しずつ全国的に広がってきているという感じです。購入者は海外の人が多く、東京駅の近くのお店では、購入者のほとんどが海外の人だったようで、今はコロナの影響で海外から来れなくなっているので、それにともなって売上も少なくなっています。 

― SDGsに関連したプロジェクトについて教えてください

商品を取り扱ってもらっている東京のインテリアショップで、たまたまモビールを見かけてくれた方から連絡が来たことをキッカケに、SDGsのプロジェクトについて参加させていただくことになりました。

『エシクル for SDGs』というプロジェクトで、当時プロジェクトリーダーだった株式会社J & J事業創造(以下、J & J )の武田道仁さんから、私たちのモビールとSDGsを関連づけてお声がけいただきました。

J & J 事業創造はJTB とJCB が共同出資で設立された事業会社です。旅行会社ではカタログが大量に廃棄されていることが問題となっており、カタログやコピー用紙などの廃棄される紙を再利用して紙製品ができないかという動機がプロジェクトの始まりです。

2ヶ月ぐらい何をつくろうかと検討されていたようで、そのときにモビールが目にとまり、その第一弾としてモビールをつくろうという経緯があり、SDGsをテーマにしたオリジナルモビール「Living Planet(生きている地球)」を製作しました。

このプロジェクトをキッカケに、障害者施設の現場を見ていただけたこともすごく良かったと感じています。

モビールは軽いので、風が吹いていなくても、人が動くだけで穏やかに回ります。普段は意識していませんが、気流がゆるやかに循環していることを目に見えるようにしてくれます。

モビールというのが「バランス」 だったり「循環」を想起させるもので、それが今回SDGsとつながって良い商品になったと感じています。

一般の方々からはクラウドファンディングで購入していただいて、先月(2021年1月)には商品を届けることも終わっています。現在は企業様に向けて、このプロジェクト(エシクル for SDGs)に賛同していただく代わりにモビールを届けるという実証テストをおこなっていただいております。

2月5日~6日には愛知県でSDGsに関する大規模イベント「SDGs AICHI EXPO2020」が開催されました。コロナの影響でオンライン開催になってしまいましたが、誰でも見れるようになり3月7日まで公開しています。ここに 本プロジェクトも参加しています(筆者注:現在ウェブサイトはSDGs AICHI EXPO2021に更新されています)。

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今回のプロジェクトでできあがったモビールは、私たちと同じくプロジェクトパートナーとしてJ&Jさんから声かけがあった山陽製紙株式会社(以下、山陽製紙)と製造しました。まずオフィスでの使用済コピー用紙を山陽製紙さんで再生紙にして、その再生紙を使ってモビールにするという流れです。

いつも作っているモビールはもともと色がついている紙を切って貼っていたのですが、今回の再生紙は色をつけると言うことが難しかったので、色のない状態で作りました。つくってみたら石みたいに自然に見えてよかったので、色は後からつけてもらうほうがいいなとなり、モノクロのモビールをつくることになりました。

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(再生紙がつくられる過程)

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(紙をカットしている様子)

― モビールの製造について障害のある人たちの関わりをもう少し詳しく教えてください

パソコン操作や機械のオペレーションをしたり、切れないところ(切り残し)が出たときは爪楊枝のようなもので1つずつ手作業で抜いています。

紙のカットにはプロッター(さまざまな紙をカット・加工する機械)を使用しています。最近では紙をカットするレーザーカッターや、CNCやNCと呼ばれる木材やアルミを切る機械で紙を重ねて切れることもできるようですが、当初はレーザーだと紙が焦げついたこともあり、プロッターをメインに扱っている福祉事業所があったので、そちらにお願いすることになりました。

この工程の後に、紙と紙をぴったりと張り合わせるという作業があり、その作業が非常に難しいです。例えば、鯉のぼりの場合、青色の紙の上に白いカットされた紙を貼っていますが、この2枚がぴったりと合わないと下の紙が見えてしまいます。

この貼りつけ作業がかなり難しい一方で、障害のある人の中には重なりが合わないと気が済まないという人もいます。私自身がやるとずれることが多く、やはりすごい技術だと感じています。

最初は障害のある人に依頼をしてましたが、今では注文も増えてきたので、ジグゾーパズルが好きな人など、ぴったりと速く仕上げてくれる人にもお願いをしています。

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作業ができる人とつながる難しさ

規模が大きくなってきたので探さなければと思いつつも、なかなか見つからないもので、ちょっとずつ見つけては協力してもらっています。ただ、探してたら舞い込んでくる話もあり、先週も作業できそうな方をご紹介いただきました。 

マニュモビールズの事務所の近所に最近できた、若者の就職を支援している施設があります。特にコロナの影響で就職ができない人や、社会との接点が持てなくなってしまった人が駆け込み寺のように相談ができる場所です。

その施設の方から声がかかって仕事の相談があり、モビールの製造工程を説明したら「とても適してる人がいる」と話がありました。もともと美術系のことをやっていて、映画の小道具などを作られていたので、細かいことも丁寧にできるし芸術的なことも理解がある人です。コロナの影響でイベントが激減して舞台芸術ができない状態が1年ぐらい続き、実家の名古屋に戻られてきてから相談がありました。

「こんな人がいますよ」と紹介いただいたら、そこから実際に作業してもらってからお願いするようにしています。

作業工程のつくり方

障害のある人の仕事づくり前提に工程を考えていたわけではありませんが、個人的な意見としては、障害があるからというよりは、やりがいや愛着を持ってやってもらえてることが大切だと感じています。

他のところにも頼むことはできますが、ただカットしたり貼り合わせるだけではなく、愛着を持っておこなってもらっているのが分かるので、作り手としてすごく嬉しく、それが商品の良さにもつながっていると思います。

自宅で作業できるようにもしています。施設の中で作業していた人が、モビールをとても気に入ってくれて「家でやりたい」と言われたので、私がその人の家に持っていって作業してもらうことがあります。

一人暮らしをしているので心配もあり、家に行って顔を見て帰る、ということも大事だなと思っています。コロナで受注が減ってしまったので、自宅で作業してもらってる人に出せなくなったんですよ。でも今年に入って、コロナの影響でお部屋需要が高まったせいか、逆に以前より注文が入るようになってきたので、また頼めるかなと思っています。今でもメールとかでやり取りをしていて、本人もずっとやりたいと言ってくれています。 

(今回の情報交換会の)タイトルに「尊厳」っていうのを入れてくれていて、その人の仕事が尊重・尊敬されるのは重要だと僕は思っています

職人的な部分で言うと、モビールの作業は30人ぐらいいたら1人できるかできないかくらいのことで本当にすごい技術で尊敬しています。どんな仕事でもそういった尊厳や尊敬が伝わり合えるといいのかなと思っています。 

 ― 仕事を依頼するときの単価はどのように決めてますか? 

具体的な金額は提示できませんが、段階を置いて設定しています。例えば 、
最初の段階は「カットする」、その次に「切り残しを抜く(切れてないものを爪楊枝みたいなもので外していく)」、その次に「貼り合わせ」をしますが、その中でも3段階に分けています。

[1]1パーツのみの貼り合わせ
[2]複数パーツを糸でつなぐ貼り合わせ
[3]全パーツをつなぎ、完成させる(全体のチェックも兼ねる) 

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一段階目は、パーツとなる紙と紙をぴったりと張り合わせる作業です。違う色の紙をピッタリと貼り合わせる必要があるため非常に難しいです。

二段階目は、糸の長さが決まっているので、 長さを測って切って、パーツとパーツをボンドでつなぐ必要があるので難しくなります。モビールの一番上に必ず土台になるものがあり、そこに全てのパーツをつなぐのが3段階目です。

1階目ができる方は少しはいますが、3段階目までできる人はなかなかいません。3段階目の人はパーツに汚れがないかとかチェックも兼ねているので1番料金を出しています。

― 今回のSDGsのプロジェクトを通じて、ご自身の中で意識の変化や発見はありましたか? 

プロジェクトの話をいただく前までは、SDGsという言葉は知っていましたがそこまで意識してモビールを作っていたわけではありませんでした。

たまたまモビールを見た人(J&J 武田さん)がSDGsを想起してくださったことは、意識していたわけではないのにSDGsに触れていたことに気づけてすごい嬉しかったです。

プロジェクトに関わらせていただいた影響で、そこからちょっと環境問題の本を読んでみたり、CO2の問題も2050年には大変なことになるとか、環境問題って思っていたより差し迫った問題なんだなと理解したりしました。

そういう中でマニュモビールズとしてどういうスタンスを取るかというのは考えました。問題自体が大きいので全てをやることは難しいですが、できることから1個ずつ変えていく必要はあります。

例えば、モビール自体は紙と糸だけで作られているのでエコといえばエコですが、それを入れるためにビニール袋を使っています。それは必要があるのでビニール袋を使っているのですが、環境的にはエコ素材ではないので良くないと言われたときに、それを今すぐどうやって変えればいいのか、でも刻一刻と環境は悪くなってしまう中でどこを変えていけるのか、など悩んで日々葛藤してるところではあります。

今後はモビール以外の製品もリリースしていこうかと考えいます。今までだったら別にエコとか意識せずに素材選びもしていましたが、「ビニールはなるべく使わない」「これは本当にエコになる素材なのか」などを考えながら進めています。

これまでやってきたことを変えるのはなかなか難しいですが、これから始めることは変えることはできるので、まずはそちらからスタートしようと考えております。

バイヤー向けの展示会に出展したときも、「これはエコな素材ですか?」とか「ちゃんと環境に配慮されてますか?」といった質問を受けることがかなり増えてきました。昨年まではそれほどでもなかったので、ここ1年ぐらいで急激な変化が起きてるなと感じました。 

『エシクル for SDGs』プロジェクトがなければ「SDGsはうっすらと知っているけども…」ぐらいで終わっていたかもしれません。マニュモビールズが、自然環境への意識に加えて、働く人の尊厳や尊敬というところにも紐づくように、今後の活動を展開していきたいと思います。

(記録:一般財団法人たんぽぽの家 小林)

「マニュモビールズ」もっと知りたい方へ

■オフィシャルサイト
https://www.manumobiles.com/

■エシクル for SDGs
http://www.esycl.jp/

■クラウドファンディング「使用済コピー用紙がアート作品に変身!手作りのモビールでSDGsを普及させたい」
https://camp-fire.jp/projects/view/335378

参考・引用

■SDGs AICHI EXPO 2021 ※(2020年から更新されています)
https://sdgs-aichi.com/index.html

■山陽製紙株式会社
https://www.sanyo-paper.co.jp/

■情報交換会 2月19日~2月20日
http://goodjobcenter.com/news/2419/


本事業は休眠預金を活用した事業です

「コロナ禍を契機とした障害のある人との新しい仕事づくり」は休眠預金等活用法に基づき、公益社団法人日本サードセクター経営者協会 [JACEVO]から助成を受けて実施しています。

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