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2019年度グッドデザイン賞審査報告会レポート[Unit12(戸建て〜小規模集合住宅)/Unit13(中〜大規模集合住宅)]

グッドデザイン賞では、毎年10月ころに、その年の審査について、各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「2019年度グッドデザイン賞 審査報告会」を開催しています。本記事では、住宅建築の審査ユニットであるユニット12(戸建て〜小規模集合住宅)とユニット13(中〜大規模集合住宅)の合同審査報告会をレポートします。
グッドデザイン賞ではカテゴリーごとに、今年は全部で18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査報告会では、ユニットごとに担当の審査委員が出席し、その審査ユニットにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」についてお話しいただきます。

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2019年度グッドデザイン賞審査報告会[Unit12(戸建て〜小規模集合住宅)/Unit13(中〜大規模集合住宅)]
日 時: 2019年11月18日(月) 19:00〜20:00
ゲスト: 仲 俊治 委員(ユニット12リーダー)、篠原 聡子 委員(ユニット13リーダー)

ライフスタイルに関する提案を備えた戸建て・小規模集合住宅の応募が増加

仲 戸建住宅と小規模な集合/共同住宅では、今年度はライフスタイルに関する提案を備えた住宅の応募が増えました。「このような暮らし方はどうだろうか」「外部の人や自然に対してどれくらいの距離を持ちながら暮らすか」といったことに対して、積極的に挑戦したり、手探りであっても、前例がないなら作ってみよう、作りながら・運用しながら築いていこう、といった姿勢がうかがえる、意義のある実践が増えていたように思います。

ナリワイ型賃貸集合住宅 [欅の音terrace](グッドデザイン・ベスト100)

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それら実践のひとつとして、まずプライベートな生活の場に他の要素を混ぜていくようなケースです。こちらの「欅の音terrace」では、郊外の古いアパートの改修により住居と仕事場をミックスさせた集合住宅です。ギャラリーや店舗のような展開も想定した生業のためのスペースが併設されることで、外部から人を招いて集いやすい設えになっています。

集合住宅+店舗+コワーキングオフィス [西葛西APARTMENTS-2](グッドデザイン・ベスト100)

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こちらは1階の店舗と上階の事務所・住戸などの機能が混在された集合住宅です。隣接する旧アパートの建物との間に路地的なスペースを設け、店やオフィスの活動が外へあふれてくるような空間的・機能的な構成が取られています。

これらの事例は「住むこと」と「働くこと」の2つの機能を混ぜていますが、それが建築の外観にも現れ、外からの人を積極的に招き入れられるような場となっていることに着目しました。その意味で、街の風景を変え始めて、新しい風景を創っている点で、単体の作品という意味を超えた力を持っているように思います。さらに、単に建物を管理する視点での運営ではなく、経営をしていく・地域を運営していくという姿勢で、誰を呼ぶか・誰に一緒に運営を担ってもらうかの決定を含めた実践がされている点でも注目に値するものでした。

シェアハウス [はとやまハウス](グッドデザイン・ベスト100)

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次に、一軒家の改修事例です。こちらは、戸建空き家の改修による学生向けのシェアハウスです。庭の部分を外に向けて開き、学生たちが大勢住み着くことで、既存の成熟した住宅地に活気がもたらされるとともに、周囲の状況との間で親和的な関係が生まれています。

戸建て住宅の改修 [観察と試み〜深大寺の一軒家改修〜](グッドデザイン・ベスト100)

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こちらは、高齢の単身者の住まいとして、もともとあった塀を取り払い、開口部を増やすなど、地域の人と関われる仕掛けを随所に施し、プライベートな領域と外部とをつなぐ部分を充実させています。一人で暮らすならば、閉じるよりもむしろ外部へ開く方が安全であるという思想に基づいた戸建住宅です。

戸建てリノベーション住宅 [HOWS Renovation 「八雲の家」](グッドデザイン・ベスト100)

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こちらは、大手住宅メーカーが施工した住戸の改修により、流通を含めた提案を行っています。特にインテリアにおける表現の豊かさが印象的でした。

それぞれ既存住宅のリノベーションにあたる事例ですが、共通して新築においても反映できるテーマがみられます。いずれも境界を緩くするという考え方で、住宅と周囲の状況との関わりをどのように定めるかを追求していくうえで、とても示唆的な事例といえます。

さらに、建築・住宅業界全体で長年の課題であるブロック塀の解体・撤去に示されるような、外部との遮断と連続性の確保というテーマに関しても、具体的な提案がありました。

庭・外構(住宅) [奈良の家の佇まい]

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こちらは、玄関まわりの改修を含めた外構の提案です。ブロック塀がなくなることで、住宅と街との接点・関わりをどのように構築していくかを考え直す姿勢がよく現れているように思えます。

戸建分譲住宅 [庭間のある家]

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こちらは、新築住戸で、はじめから家と道路との間を第三の居場所になるようにプランニングしています。その場所は視線の制御も考慮されているため、家事や仕事・育児・介護などに利用したり、外側の地域との関わりも持てる場にもなりそうで、中間領域を整備するという考え方が顕著です。

そして、今年度はプライベート空間のあり方にも目を向けました。最近の住宅建築では外へ開くということが重要視されていますが、家の中で暮らす人に対して「内に開く」ことや、住宅の中で個的な空間をどのように位置づけるか、という点も非常に重要であると考えています。

住宅兼旅館 [長谷の客間、隣の住まい「岸家」]

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こちらは、おもにインバウンドに対して宿泊用に部屋を貸すことを目的としており、他者と住人が住宅内で向き合うという提案です。

住宅 [Branch]

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こちらは、シェアハウスとは異なる形態で複数世帯がともに暮らすユニークな住宅です。リビングやダイニングが複数形成され、それぞれの機能や位置づけのバリエーション・デザインのされ方といった点で関心が持てます。

独身寮 [アサヒファシリティズ蛍池寮 楓]

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こちらは、寮の入居者どうしの気配を感じさせても過度に存在を近づけないような配慮として、半屋外空間を嵌入するなど、直接意識し合わずにいられるゆとりのある空間設計がされています。この寮の設計でも見られる屋根付きの外部空間は、新築であれ、リノベーションであれ、今後さらに展開の可能性があるように思います。

集まって住むことの意味を再構築する中〜大規模集合住宅の可能性

篠原 面的な広がりを伴った中〜大規模の集合住宅や街区の開発では、異なる世代や目的性、権利状況の人々がともに暮らすことで、集まって住むことの意味を再構築するような可能性を感じさせる事例が多くみられました。

集合住宅 [プライムメゾン江古田の杜・グランドメゾン江古田の杜](グッドフォーカス賞[地域・社会デザイン])

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こちらは、分譲住宅と賃貸住宅、高齢者向けサービス付き住宅(以下、サ高住)と高齢者向け施設などが複合した大規模開発プロジェクトです。単に合築として異なる種類の住戸を建てるだけでなく、地域社会に開放された施設の運営も活発に行われ、オペレーションに多大な労力が払われていること、隣地の公園との自然環境の融合面が配慮されていることも注目に値します。
住人の年齢や境遇などのセクターで切り分けていくよりも、異なるセクターが集まり住むと可能となることを導いていくという考え方に基づいて、同じ敷地内で世代の変化に応じた移動を行うなど、かつての同潤会住宅が持っていたような、多世代の複合が可能な状況を生んでいるのは、今日の集合住宅における提案として有意義です。

多世代複合型集合住宅 [ウエリス仙川調布の森 ・ ウエリスオリーブ成城学園前]

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やはり分譲住宅とサ高住をベースとする合築プロジェクトで、内部と外部の接点となる部分、用途が異なる部分の間がていねいに設計されています。限られたエレメントの中でも、要素と要素のつながり・境界のデザインがしっかりと成されています。

共同住宅 [大学連携型CCRC 桜美林ガーデンヒルズ]

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マルチジェネレーション型の集合住居というテーマが注目されていますが、それを大学との連携による運用で、建築の中だけで完結させずコミュニティとして運営させる工夫がみられます。さらに、木質をベースとしたサ高住部分の空間設計も巧みで、サ高住が施設でなく住宅であるために必要なデザイン、というテーマについて考えさせてくれる点でも示唆的です。

複合施設 [HYPERMIX門前仲町](グッドデザイン・ベスト100)

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職住近接・融合というテーマに対する顕著な事例です。接地階にあたる1、2階をパブリックスペースとなる大空間として、中間免震をかませて上階はシェアオフィスと住居とした明快な構造と、日中はシェアオフィスとして使われるフロアが夜にはシェア住居となるなど、空間のタイムシェアという発想がユニークです。既存のシェアハウス・オフィス・商業施設といったビルディングタイプが溶融した場として実践されています。

共同住宅 [プライムメゾン両国](グッドデザイン・ベスト100)

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鉄骨造の中層集合住宅で、ハウスメーカーが開発母体であるメリットを生かして、フレームの構造の見直しとパーツのプレファブ化を進めています。構法にメスを入れることで、工期の短縮に加え質の高い空間や表現をもたらした好例です。今後の分譲集合住宅の開発などにも応用が可能と思われます。

集合住宅 [ブランズ六番町]

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都市のインテリア・景観に相応しい存在としての集合住宅という観点でみた場合に、足元にあたるファサードや境界・接地階の設計が重要となりますが、その好例といえる事例です。

コミュニティ施設併設の販売センター [Brillia品川南大井 コミュニケーションサロン oooi](グッドデザイン・ベスト100)

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集合住宅を作るための期間は長く、その時間の中で何ができるかという視点で、販売ショールームを近隣地域に開放することで、住む前から入居者と地域社会との関係づくりに挑んだケースです。販売目的だけでない、エリアマネジメントの端緒を作る取り組みであり、地域のデザインとともに時間のデザインであるといえます。

分譲住宅 [kiki terrace(八千代緑が丘 分譲地計画)]

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大きなオープンスペースがあるわけではないものの、住戸と住戸との間の決して広くない空間が繊細に設計されていることが特徴の街区開発です。街区内の路地を行き止まりにしないことで犯罪抑止を図るなど、路地的な空間でネットワークを形成することによる、お互いの見守り合いの状況が生まれています。

まとめ:地域の資源を増幅する集合住宅の未来

 規模を伴った集合住宅のデザインを、ハード面で捉える際に重要と考えられる、接地階・境界・ファサードという要素のうち、特に接地階に着目した事例が多い背景に関心があります。

篠原 街に対してコミットをしたいという意識の表れと考えられます。1階部から住居でがっちりと占められるとセキュリティ対策も関係し、閉塞性が生まれ、街の活気が弱まります。集合住宅が街を良くする、活力を生むということは、住宅にとって立地環境の質を高めることにもつながります

 特に集合住宅は、供給されるにあたり「駅に近い」「公園がある」といったふうに、地域で育まれてきた資源を使わせてもらっている側面があります。それに対して集合住宅の側からも、街に向けて何かを提供していこうとするモチベーションがあるのでしょうか。

篠原 地域の資源を増幅する可能性があると思います。その住宅や、住宅を構成する要素、たとえばシンボルとなっている樹木が一本あるだけで周辺の環境が変わるなど、地域の資源がより活性化される面があります。

 いまはそうした動きを、大手デベロッパーなどでなく、個人レベルによる、等身大のプロジェクトとして仕掛けていける時代であるように思います。その証左として、集合住宅に限らず、戸建住戸であっても、空間の開発という観点で、中間領域の開発が小規模であっても手がけられるようになっています。それらがやがて手法化されれば、より大規模な開発にも生かされるはずです。規模の大小を問わず、空間の開発が地域の風景や暮らしを形づくることに関わっていけるのは素晴らしいことです。

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