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2019年度グッドデザイン賞審査報告会レポート[Unit15 - メディア・コンテンツ・パッケージ]

グッドデザイン賞では、毎年10月ころに、その年の審査について、各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「2019年度グッドデザイン賞 審査報告会」を開催しています。本記事では、ユニット15 - メディア・コンテンツ・パッケージの審査報告会をレポートします。
グッドデザイン賞ではカテゴリーごとに、今年は全部で18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査報告会では、ユニットごとに担当の審査委員が出席し、その審査ユニットにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」についてお話しいただきます。

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2019年度グッドデザイン賞審査報告会[Unit15 - メディア・コンテンツ・パッケージ]
日 時: 2019年11月2日(土) 19:00〜20:00
ゲスト: 水口克夫 委員(ユニット15リーダー)、河瀬大作 委員、佐々木康晴 委員

はじめに:それが世の中にどうプラスアルファの価値を作ったか

水口 私は審査を担当して3年目になり、今年初めてユニットリーダーを務めました。ようやくグッドデザイン賞の全体が見えた気がしています。このユニット15からは、44件がグッドデザイン賞を受賞しました。今日はその中から印象に残ったものについてお話していければと思います。
まず、佐々木さんは今年から審査に参加されましたが、最初の年からフォーカス・イシュー・ディレクターにも就任されて、全体をみた感想はありますか?

佐々木 今年初めて審査を担当しました。私はコピーライター出身で、今は広告代理店のクリエイティブ・ディレクターとして、いろんなものを作る仕事はしていますが、デザイナーではなく、いわゆるプロダクトデザインとかグラフィックは専門ではありません。さらに審査では、フォーカス・イシュー・ディレクターというお役目もいただき、グッドデザイン賞の多岐にわたる対象からイシューに沿った共通点を探すということは、非常に難しかったです。
俯瞰してみると、見えてきたのは、デザインは形とか見た目のかっこよさだけではなく、なにか課題を解決する力や、今までなかった価値を作る力があって、そこがデザインのおもしろいところだなと思いました。

水口 グッドデザイン賞全体もすごく領域が広いのですが、とくにこのユニットは、パッケージデザインからフォントデザイン、ブランディング、コンテンツ、ウェブサイト、アプリなど、とにかく審査対象の幅が広いので、ユニットの全てに統一した基準があるかというとそうではありません。
とくにパッケージのデザインは評価が難しい。評価のポイントは、美しさだけではなく、それにプラスなにがあるかということかもしれません。
コンテンツなども、美しさも大事だけど、それが世の中にどうプラスアルファの価値を作ったかというところが大事です。
「美しさ」ということでいうと、それぞれの審査委員がそれぞれの立場で、これが美しいという基準がありますが、「こういう考え方が世の中に波及していくだろうな」というような「共振する力」があるかないか、が今年は審査委員の皆さんの立場が違う中で議論をしたところでした。

佐々木 僕の場合は、課題に対する解き方の鮮やかさや新しさを見ていました。たとえば課題がゴミを減らすということだったら、それをどういう方法で解いたか、ということが美しさかなと思いました。
「共振する力」に関していうと、共振させる相手はいろいろあります。社会に共振させるとか、環境問題だったら地球と共振させるとか、使う人に共振させる。誰かがそれを使って大好きな友達に教えるとか、一緒になってやってしまうとか、人が動くものが選べたらいいなという視点で審査していました。

デジタルコンテンツ [NHK回想法ライブラリー](グッドデザイン・ベスト100)

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佐々木 こちらは、なつかしい物を見て思い出を語り合う「回想法」で認知症の進行を緩やかにするために、NHKの昔の映像アーカイブを利用したプロジェクトです。NHKが主体となって、NHKが豊富に持っている昔のアーカイブ映像を利用して、高齢化社会という社会課題にチャレンジしています。
NHKは当然、長年の間あらゆるコンテンツを作って持っている。でもそれらはただアーカイブされるだけでなかなか再活用できないのですが、そのアーカイブ再活用の方法としてこのシステムを作りました。コンテンツ化して、全国の老人ホームに配っています。NHKならではの方法とコンテンツで鮮やかに課題を解決したのがおもしろいなと思います。
その企業らしさ、その企業の資産や強みを使うということは、すごく強いことで、「らしさ」がこの対象はすごくいいと思いました。

駅空間デザイン [小田急線 登戸駅 ドラえもんサイン](グッドデザイン・ベスト100)

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水口 ベスト100選考会のときに、別の審査委員からキャラクターを活用している駅や電車は他にもいっぱいあるんじゃないの?、と言われました。
たしかにキャラクターを駅のサインに使っているというのは、同じ文脈なんですけど、これはどこまで抑制できるかというところが高く評価されました。
ただ単にドラえもんを使えばいいだけではなくて、ドラえもんというアイコンをどこまで制御して、駅という空間にフィットさせられるかというところを非常に考えて作られています。
カラーコントロールやいろんなことが計算し尽くされているので、他のキャラクター使っている駅や、これからキャラクター使おうと思っている駅もこれを参考に、もっと駅にフィットしたものにするという努力ができるかもしれない、良いお手本になっています。

河瀬 今回たくさんのものを見せていただいて、いくつか共通のことがあったなと思ったのですが、既存のものをあたらしいデザインでアップデートするというのが、いろんなかたちであったように見受けられました。
これがその際たる例で、駅は基本的には実用の「用」を追求する場所なので、ここに「楽しい」とか「ワクワクする」とかそういうものを実装するというのはこれまでにあまり考えてなかった場所です。ここでは、それがすごく考えられていて、でも、あまりドラえもんが過剰になるとテーマパークになるので、ちゃんと実用の「用」の中に入れていくというところが見事だなと思いました。

フォント [ノイエ・ フルティガー・ ワールド](グッドデザイン・ベスト100)

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水口 成田空港の第3ターミナルや北陸新幹線の駅のサインに使われている非常に有名なフォントです。今までは基本アルファベットしかバリエーションはなかったのですが、今回「ワールド」ということで、世界150カ国の言語に同じフォント・シリーズとして対応できました。日本人フォント・デザイナーの小林章さんも入って、世界中のフォントデザイナーが一緒になって作りました。
これだけグローバルな環境になって、いろんな人がいろんな国にいる時代に、統一されたフォントが今までなかったのですが、それがようやくできたということで、言語を超えてデザイナーが協力しあってこれを作り上げたというのは本当にすばらしいことだと思いました。
単一のフォントを作っただけではない価値に、共振力があるなと思って、そこを高く評価しました。

佐々木 イノベーションというのは、必ずしも新しくて今まで見たこともないものを作り出すことだけではなくて、今まであったものに違う価値を見つけ出すこと、それもデザインの力だと感じました。

食品 [元祖ラヂウム玉子]

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水口 こちらは、福島県の温泉のおみやげなんですが、もともとあるもののパッケージデザインをリデザインしたんですね。ただ、ほぼ変えてないんですよ。ほぼ変えてないけど、今のお客さんがかわいいと思えるものに、ちょっとだけアップデートしている。これでいいんだと思いました。
なにか変えなきゃいけないということではなくて、もともとあるものがよければ、それを今の時代に少しフィットさせてあげるだけで良い、という事例です。元々持っている良さを、デザイナーがしっかり整理して、再編集してデザインしているというところがすばらしいです。

書籍 [生き物としての力を取り戻す50の自然体験](グッドデザイン・ベスト100)

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佐々木 これは本のデザインというわけではなく、いろんな視点での自然との触れ合い方を紹介していて、エクスペリエンス・デザインが良かった、という案件です。
都会に住んでいる人は自然に触れ合うことが少なく、自然の話はお勉強的な文脈で教科書のように紹介されることが多いのですが、このプロジェクトでは、アートとかエンターテイメントとかサイエンスとか、いろんな違う視点の専門家がそれぞれの視点で自然の中での具体的な体験を50個紹介しています。
こういうコンテンツは今どきスマホでもいいと思われるかもしれませんが、山など自然の中に入っていくと、スマホの電波が入らなかったりするので、実は本という形が最適だった、というところも一周回っている感じが新鮮でした。わざわざ本という古いフォーマットを使って、あえて体験を最大化する。ぱらぱらとランダムに体験をブラウズできるように本を選んでいる点がおもしろいなと思います。

水口 もともとはカシオのウェブサイトで提供されているコンテンツだったのですが、カシオと言えばGショック、Gショックをつけてもっと外に出て野外に出ようよ、というメッセージが全体にあったそうです。
企業として、商品の体験をどう作っていくかというところが、しっかりここに蓄積されて一冊の本になっているところがすばらしいですね。
この例では、生き物としての力を取り戻すという1つのやり方の成功例ですが、集合知を使って、なにか誰かのためになるものを作っていく、今の社会課題を解決していくというやり方は誰でも真似できるわけで、そういう意味で共振する力があるということだと思いました。

複合商業施設 [フライト・オブ・ドリームズ]

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河瀬 空港というのは、実用そのものの施設ですが、そこをいろんなテクノロジーの力を使って楽しい場所に変えるという、この発想が良いなと思いました。プロジェクションマッピングも使って、今しかできないテクノロジーを生かして、空港にくるワクワク感を最大化しています。
うんこミュージアムもそうですが、今までのものと同じだけど、それをもっと進化させるとその手があったか!という感じのものは、今っぽいと思います。コンテンツやエンターテイメントを審査するときには、「なぜ、それを今?」というのが、すごく前に出てるものにはわかりやすく惹かれるものがあります。

SNS/スマートフォンアプリ [ホットペッパービューティーコスメ]

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佐々木 これは化粧品の口コミアプリです。アプリの応募はたくさんあって、「新機能あります」とか「見た目使いやすいです」とか、いろいろなアピールポイントがあるのですが、こちらはユーザー視点で細かいところが設計されていた点が高く評価されました。
化粧品選びは、ただ人気商品なら良いわけではなく、自分の肌に合うかどうか、最近の流行にあっているかどうか、が大事なわけですが、その点をきちんと考えて機能やユーザー・ジャーニーが設計されているところは素晴らしいと思います。

河瀬 しかも広告は廃して、バイアスが入らないようにストイックにやっているんですよね。本当ににユーザーが使えるように、という哲学が徹底しています

まとめ:今の時代にフィットする新しいデザインになっているか

水口 グッドデザイン・ベスト100を受賞するものに共通しているのは、あるものをどうアップデートするとか、違う編集の仕方をするとか、そこの視点が今の時代に合っているもの、だと思いました。どれだけ今の社会にフィットできてるかというのを、すごく読み解いて選ばれています。
建築家やプロダクトデザイナー、ビジネス・デザイナーなどいろんな立場の審査委員がいる中で、何に価値を求めるかというと、ただ美しいねというだけではなくて、今の時代にフィットする新しいデザインになっているかというところが非常に大事だと感じました。

佐々木 今は様々なテクノロジーがあって、誰もがスマホを持っていて、やろうと思えばどんな機能でも提供できる、という時代です。そんな時代だからこそ、なんでも詰め込むのではなく、シンプルでわくわくする体験を考え、わかりやすいストーリーに落としていくクリエイティビティとデザインが大切です。ユーザーの体験を始めから終わりまでちゃんと思い描いた上で、それが最もシンプル化されているものが、今の時代にフィットするデザイン、なのではないでしょうか。

河瀬 僕が興味があることは、佐々木さんがおっしゃったことを別の角度から言う形になるのですが、この難しい課題だらけの時代に、デザインの力で課題を鮮やかに解決する、デザインが果たすべき役割がより大きくなってきていると感じました。もうにっちもさっちもいかないことがたくさんある中で、選ばれるものを見ていると、そういうものがすごく多くなっています。
そういうデザインにこそ、共振する力があり、美しいものになるという気がしています。

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