新たな事業展開と総合サービス開発〜2020年度グッドデザイン賞 審査ユニット10(産業/医療 機器設備)審査の視点レポート
グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに20の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット10(産業/医療 機器設備)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。
2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit10 - 産業/医療 機器設備]
担当審査委員(敬称略):
朝倉 重徳(ユニット10リーダー|インダストリアルデザイナー|株式会社GKインダストリアルデザイン 代表取締役社長)
重野 貴(プロダクトデザイナー|エイシンク株式会社 取締役)
林 千晶(プロジェクトマネージャー|株式会社ロフトワーク 代表取締役)
村上 存(設計工学研究者|東京大学大学院 教授)
コロナ禍におけるデザインの審査
朝倉 本ユニットは、産業/医療の設備機器を審査するカテゴリーで、医療関係の機器や器具を含むことから、新型コロナウイルス関連の応募も多く見られました。応募の締め切りが2020年6月でしたので、コロナ禍が始まってから本当に短い期間で、フェイスシールドからPCR検査機まで、数多くのご応募をいただいたことに心から敬意を表します。
ただ審査においては、デザインの評価ということで、冷静に客観的に行ったという点は最初にお伝えしておきたいと思います。
さて講評に移りますが、ひとくちに産業/医療といっても対象となったプロダクトは多岐に渡ります。全てを包含する特徴は難しいので、まずは印象に残った点をいくつか挙げたいと思います。
一つは新規事業への展開を高いレベルで実現している企業が目立ったことです。現代は技術の進歩や社会の変化によってニーズが刻々と変化しています。企業は既存の事業領域のみに頼っていては生き残りが難しくなってきています。このような状況で新しい領域に事業展開していくことが求められるようになってきました。そこで成功するためには、自社の強みをいかに新規事業につなげていくかという点が重要だと思っています。
今年の応募の中から、新たな事業展開をみせる企業を挙げてみると、たとえば富士フィルム。もともと持っていた写真フイルムの分野で培った技術を様々な方向に展開している非常に優良な企業といえます。2020年度の応募でもそのような事例がいくつも見られました。
次にソニー。同社は映像機器で培った優れたスペクトル解析技術を持っていて、それを細胞分析装置に活用、バイオテクノロジーの分野に進出しています。
ニコンはカメラや露光装置で培った基礎技術を活かして産業用の多関節ロボットのアクチュエーターを開発し、産業機械の分野に参入しています。最後にカシオはデジタルカメラで培った画像技術を応用して皮膚がんの早期発見システムを実現し、医療分野への進出を果たしています。
以上のように、これらの企業はそれぞれが自ら培った技術をうまく利用して事業展開をしているという点が興味深かったです。
医療用デジタルカメラ/スコープ ["D'z IMAGE" ダーモカメラ DZ-D100, ダーモスコープ DZ-S50]
二つ目の特徴は、ハードとソフトが連携された総合サービスとしての開発が目立つようになってきたという点です。カシオの皮膚がんの検査システム「医療用デジタルカメラ/スコープ」(20G100614)では、虫眼鏡のような形をしている外付けレンズから、デジタルカメラ本体、背面モニタ用アプリ、自動転送、ビューア用アプリまで、ハードとソフトがトータルサービスとして開発されています。
アクチュエータ [インテリジェントアクチュエータユニット C3 eMotion]
ニコンも先ほどと同じ例になりますが、アクチュエーター「インテリジェントアクチュエータユニット C3 eMotion」(20G100573)は産業用ロボットに汎用的に使えるデバイスですが、通常別々に供給されるモータ、減速機、ブレーキ、エンコーダと駆動回路をオールインワンとしています。ハードウエアだけでなく制御=ソフトまで組み込むことで、産業用ロボット導入の敷居を大きく下げている点が特徴で、統合サービスの良い事例かと思います。
産業用ロボット [VM1800/1500]
最後にデンソーの産業用ロボット「VM1800/1500」(20G100582)。製造ライン自動化のためのロボット導入も同様に非常にハードルが高いのですが、総合的自動化ソリューションとして産業用多関節ロボット、その架台、制御ソフトをパッケージ化しています。
以上、2つの特徴が印象的でしたが、同じメーカーの製品で重複しているものが多いことから見ると、これらの企業は社会の変化、ユーザーの本当のニーズを深く考え、それを高いレベルで製品化し、トータルデザインとして提案してきています。これが今回の審査で私が感じた傾向です。
人とテクノロジーの調和による課題解決
重野 私は、産業医療機器の審査を過去5回ほど担当してきていますが、このユニットの応募対象には毎年共通する、慢性的な人材不足、作業員の高齢化、それにともなう技能の継承という課題があると思っています。社会的課題や生産、医療の現場の問題解決のためにAIやICTなどの先進技術の活用がますます必要不可欠になってきている。ただ今はまだ過渡期で、合理化しようとしていることがその管理のために高い技能を求められてしまったり、あるいは効率化を求めているはずがその関係性がまだ未熟であるがために、むしろその煩雑なあの状況を生み出してしまっているということが少なからずある。こうした現状を見ていると、人とテクノロジーをいかにうまく調和させるかという視点がますます重要になってきていると考えていて、審査においても、特にその点を注視するように心がけました。
具体的に気になった事例を挙げていくと、産業の分野で人とテクノロジーの調和を実現している事例ととして、デンソーの産業用ロボット「VM1800/1500」(20G100582)。製品背景として、生産現場の自動化によって効率化が進むのと同時に、複雑化やロスをも生んでいるという問題が起きていたということで、ロボットを統合的に制御して、一括管理をするプラットフォームを作るというシステムデザインがなされていることが評価されたポイントです。そしてそのシステムや理念を統一されたデザイン言語として表現している点も高く評価したいと思います。さらに設計とデザインが初期から協働することによって、多くの部品を共有化している、合理的なものづくりも実現しているという点も非常にすばらしいと思いました。
喘鳴センサ [オムロン 喘鳴センサ HWZ-1000T]
次に健康の分野で人とテクノロジーの調和が実現している例として、オムロンヘルスケアの喘鳴センサ「HWZ-1000T」(20G100605)。喘息における気管支の「ひゅーひゅー」という音を喘鳴音と言いいまして、その喘鳴音を家庭で測定することで、自分の症状を正しく訴えられない子どもの喘息の管理を効果的にサポートするという世界で初めての製品です。
喘鳴を家庭で測るというのは、おそらくそのテクノロジー的に基礎技術の開発に非常に時間をかけたのではないかと思います。オムロンは血圧を家庭で測ることを習慣づけた企業といえますが、このセンシング技術をヘルスケアにいかす姿勢に通じる提案であると考えています。プロダクトデザインの佇まいも、非常にそのテクノロジーとうまく調和している印象がある。例えばセンサー周りの光のインジケーターが発光して状況を知らせてくれるのですが、その光り方も非常にやさしくふわっと光る工夫がなされていて、柔らかい造形と調和しています。また、精度感あるディテールも表現できていますし、高いデザイン性を感じる処理だと思います。ぜひ今後の展開にも期待したいとですね。
ネッククーラー [富士通ゼネラル コモドギア]
続きまして人とテクノロジーの関係性ということで、人とテクノロジーが溶け合った結果、これまでになかった新しいカテゴリが生まれたのではないかと思われる事例として、富士通ゼネラルのネッククーラー「コモドギア」(20G100542)を挙げさせていただきます。ウエアラブルタイプのネッククーラーです。ネッククーラーと銘打ってはいるのですが、この製品の本質はリアルタイムに使用者のバイタルデータをセンシングして健康状態を分析、管理するヘルスケアプロダクトと呼ぶ方が特徴を表している。単にクーラーという機能を提供しているのではなく、その先にある本質的な課題をテクノロジーによって解決しようという提案だと考えています。作業現場における熱中症は社会問題となっていますので、この後のサービスの展開を注目したいですね。
青果物鮮度保持包装技術 [TiMELESS]
村上 次に私から何点か紹介させていただきます。
まず、青果物の包装技術「TiMELESS」(20G100562)。野菜などの青果物を保存するときに、包装することになるわけですが、完全に密封してしまうと長期保存ができない。密封しつつ内容物の呼吸量に応じた適度な通気性を待たせることが必要なんです。密封しているのだけれど適度な通気性を持たせる素材というのは存在するのですが、特殊な機能ですので当然それなりに高価になってしまう。日常的に使うものですのでできるだけコストは安く抑えたいという時に、このデザインは包装材のビニールの素材自身は普通のものですが、成形する際に空気の流路、空気の流れを持たせることによって、密封しつつ野菜を保存するのに適した通気性を確保している。高価な高機能なものを使わず、普通の素材ではあるけれども加工を工夫することによって、同じような機能を持たせることができた。見た目は地味なんですけれど、日常で使うことをよく考えた、非常に優れたデザイン技術が実現した例として挙げたいと思います。
磁気テープストレージメディア [FUJIFILM LTO Ultrium8 データカートリッジ]
次に富士フイルムの磁気テープストレージメディア(20G100596)です。データを記録する記録媒体なのですが、磁気テープというのはデータ記録媒体としては古いというイメージがある。歴史的に見てもリアルタイムのデータへのアクセス性を考えると、テープメディアからディスクになり今では電子的な記録媒体がよく使われるようになりました。ただ時代が変わってAIであるとかIoTなどが重要な役割を占めることになってくると、保存データ量が飛躍的に増えてしまった。ということから今後のデータ社会を見越していくと、これまで情報の長期保存はだいたい紙で行ってきました。紙ですと50年100年持つのですが、それをどうやってデジタル記録媒体に置き換えていくかと考えると、実はディスクや電子的な記録媒体の場合、長期保存や信頼性という面でまだ実績がない。そこで一見実は古いと思われていた磁気テープは、大容量でかつ長期間安定して保存するときに非常に適したメディアであるということなんです。ただ従来の磁気テープをそのまま今の時代にもってきてもだめで、テープに用いられる磁性体であるとかカートリッジを成形する加工技術に非常に高い精度アップ、新しい技術が要求されてくる。それらを実現することによって、まさに一見古いと思われていたものが、今後の社会を支える基盤的なテクノロジーになるという非常に興味深い例だと思います。
鋼板 [FeLuce™(フェルーチェ™)]
次に鋼板「FeLuce™(フェルーチェ™)」(20G100595)で、亜鉛で表面をメッキした鋼板、鉄板ですね。鉄板で表面を美しく見せようとするとやり方はいろいろあって、皮膜を表面に塗ったり塗装で自由に見た目をつくりだすことができるのですが、それをやってしまうと結果的にもともとの鋼板の金属としての素材感が活かせない。
それに対してこの技術は鋼板に耐食性を持たせるための亜鉛メッキ層を施している。亜鉛メッキの鋼板というと一番身近なのはトタンなのですが、これはそうではなくて亜鉛メッキ層自体にヘアライン加工を施すことを可能にしています。
機能的に必要な亜鉛のメッキ自体にヘアライン加工をすることによって、もとの素材を生かしたままで美観を持たせている。つまり、塗装による化粧ではなくて機能を持たせている。しかも塗装プロセスを省けるので製造上のコストや手間も軽減できているということで、機能と美観の両立を技術が可能にしたという優れた例だと思います。
建築用屋根材 [チューコーフロー™ ふっ素樹脂製 高透光膜材料]
最後に建築用屋根材「チューコーフロー™ ふっ素樹脂製 高透光膜材料」(20G100594)。これはフッ素でコーティングした膜材で、ドーム状の施設の天井で使われる膜材です。従来のフッ素化樹脂の膜材というのは耐候性などに優れているのですが、一方で日光の透過率が低いんですね。そうすると天井によって日光が遮られて、天然の芝がうまく育たないということになってしまう。人工芝であればいいのでしょうが、例えば観客が雨風や強い日差しは避けたいのだけれど、スタジアムはやっぱり綺麗な天然芝がいいという要望に、従来の天井材では応えられなかったわけです。
ところがこれは、芝生が育つのに十分な日光の透過率を確保しつつ、また従来の透過率の高い膜材では難しかった強度を、格子状の補強材によって持たせている。強度をもたせられることでドームの屋根に張る膜材として利用できるということと、天然の芝がきれいに育成できる日光の透過率を両立させた。従来であれば難しかったことを技術によって両立できるようにしているということ、普通の人には普通の膜材とこれの違いはわからないと思いますが、人にも優しいし芝生にもやさしい優れたデザインであると思います。
ナースコールシステム [ヘルスケア情報統合型ナースコール プライマ ニックス]
林 私は今までずっと「こと」のデザインを中心に行ってきたので「もの」のデザインに詳しくなくて、漠然と「もの」のデザインは細かいことにこだわりすぎではないかと思っていたんです。今回初めて「もの」のデザインの本質を、特に医療、産業の領域で見せてもらった時に、非常に細いところまでこだわるということは、人がどういう風に使うかということをどれくらい真摯に考えているのかという問いかけであって、ユーザーに本当に使ってほしいと思っているものが、使った時に本当に機能するのか、その思いが結局、その外側だけじゃなくてその背景まで含めてトータルで語りかけるものなんだなということがわかったという意味で、すごく勉強させてもらったなあと思っています。
ということで私が注目したものを挙げていきたいと思います。まずナースコールシステム「プライマ ニックス」(20G100620)。病院のスタッフステーションに親機が、病室に子機があって、子機からの呼び出しを親機で受けるというシステムで、「かっこいい」デザインではありませんが、日々使うときに的確に機能するデザインがどういうデザインなのかということを教えてくれるものでした。形や色の工夫によって画面表示の違いがはっきり分かって機能するということや、それぞれの看護師さんの対応状況がみんなに通知されるだったりとか、現場での使われ方を積み上げていった結果のデザインの洗練といえるようなことがあって、実践のデザインと呼べるものの強さを感じます。
業務用カッター [異物混入対策スリットナイフ]
次に業務用カッター「異物混入対策スリットナイフ」(20G100551)。食品工場などで使われる業務用のカッターです。実際に使ってみると、ほんとにちょっとした力でもシュッと、すごくよく切れますし、非常に持ちやすい形状をしています。これは食品工場で発生する問題、二度切りによって発生する包材の切れ端の混入を防止するためでありますし、作業の熟練度を問わず切断開封できるということにも繋がります。グリップの形状も安全面に配慮したものですし、というようにとてもシンプルなのですがものすごく機能的です。現場で発生する問題を解決するために、この形であり色であるんだなということが非常にわかりやすく感銘をうけました。
スチールメジャー [小型・最軽量の汎用型スチールメジャー「くるくるメジャー」]
最後もう一つ、スチールメジャー「くるくるメジャー」(20G100560)。いわゆるメジャーなのですが、収納ケースがないのが特徴で、メジャーのところだけが形になっているですが、伸ばすときちんとピンとハリがあってしっかりと伸びますし、すぐ丸めることができて、もと通りになる。さらに測定対象にメジャーを添えてカメラで記録写真として撮影するときに、測定対象にかけて使えるような工夫もされている。このメジャーの開発理由が、建設現場で女性監督員や女性作業員が入ってきているというときに、重たいあるいはかさばるものが嫌だよね、ということがあったりする。そういうのだと困るということで女の人が中心となって開発されていると聞きました。
本当にシンプルにこの3つを選んだのですが、3つともどういう風に働きやすくするかっていうことを問いかけている商品だと思っています。これからの時代、男女は関係ないはずなのですが、いやいやこれ女の人の立場で考えたら重たいんだけどですとか、色は明る方がいいんですけどとかという意見が、女性が多いもしくは増えつつある働く現場で使われるものに反映されてきている。これからさらにこのように変わっていくきっかけを見たような気がしました。
体験的価値に優れた提案が求められる時代に
朝倉 それでは各自今年の審査を振り返って感じたことをお願いします。
林 ソフトウェアなどイノベーションが求められる世界では、アジャイル開発とかリーン・スタートアップ、つまり早く進めた方が良い、ということが定説になっています。それはなぜかというと、開発するのに何年もかけた結果が、生活者に本当に支持されるのかというリスクを重ねるよりは、できるだけ早く形にして、それにフィードバックしてもらいつつ、アップデートしていく方法のほうが開発としてリスクは少ないよねということです。
ただ、この医療や産業用の領域を見ると、この領域についてはアジャイル開発は合わないなと思ったのが私の感想で、日本の商品はしっかりと要件を定めてきちんと手順を踏んで開発されていて、本当にどれもしっかり考えられていました。
2019年にスーパーコンピュータの富嶽が処理速度で世界一になりましたよね。その開発に関わられた方と話しをする機会があったんです。そこで伺ったのですが、AIを動かすにはビッグデータが必要ですが、そのデータの量という点では、日本は中国に圧倒的にかなわない。けれど精度が高いデータが集まったらビッグじゃなくて構わないんだよ、きちんとしたデータを集めれば、それで十分AIが動かせる、という風におっしゃっていたのが印象的でした。むしろ日本が本当に強い要素は精度が高いデータを計測、収集できるという点なんですね。
それと同じように、もちろんアジャイル的に早くという方向性もありますが、やっぱりこのレベルまではぜったいに持って行きたい、そのある一定のレベルを守ろうとする日本のものづくりは、すごく大切なのではないかと思うようになりました。
最後になりますが、「もの」が何のためにあるかというと、人の暮らしをよりよく豊かにするためで、やはり「もの」から始まった「こと」までデザインをして欲しいと思っていて、来年もそうしたプロダクトがどんどん出てくるといいなと思いました。
村上 私が選んだものをまとめて見ると、非常に日本らしい、見た目ではなくてきわめて真面目に真摯に人々の生活や社会をよくしていこうという気概が感じられることが共通していると思います。
例えばデータカートリッジは、データのバックアップのためのものですので、裏方なのですが、大量のデータを時間を超えて、しっかりと後世に引き継ぐことを可能にしている。
屋根材は従来のものと見た目自体は違わない。普通の人は気が付かないけれどなぜかこのドームは天然芝がしっかりと育つ。
亜鉛メッキ鋼板も見た目は同じなのだけれど、鋼板にメッキ加工した亜鉛で無駄なものを使わずに、ヘアラインの美しさを実現している。
野菜の梱包材も普通のビニールシートとの違いがわかりづらいけれど、なぜかこれに包むと普通のビニールバッグよりも野菜が長持ちする。
どれもある意味、見た目ではないんですよね。だけどしっかりとその人々の生活、社会をよくしているということで、非常に真面目なデザイン、とても日本らしいデザインだなと。
来年以降もぜひ見た目じゃなくて真面目にしっかり人々の生活や社会をよくするようなものをどんどんこのグッドデザイン賞にエントリーをしていただければいいなと思います。
重野 人とテクノロジーをどう調和させていくか、という視点が重要になってきているという話を冒頭でもしました。個人的な考え方ですが、人とテクノロジーは、基本的に水と油みたいな関係性で、交わることはないものだと思ってるんです。でもその水と油には、乳化という作用もありえます。例えばマヨネーズ、アイスクリームもそうですね。マヨネーズの場合、酢と油に卵が加わることによって乳化する。
同じように人とテクノロジーの間に、デザインが介在することで乳化する、つまり均質に混じり合って新しい価値を提供することができるのではないかなと思うんです。こうした視点から新しい価値を生み出していくことは、今後のデザインの大きな目標になっていくのではないかと感じました。
朝倉 近年のグッドデザイン賞を審査していて強く感じるのが、トータルなデザイン、トータルなサービスとして開発をしていかないとユーザーに受け入れられない厳しい時代になってきたということです。
個別にハードがよくできているとか、ソフトが優れているとかということではなく、それらの連携がうまくいっている、使う人にとってストレスがない、最近の言葉でいう体験価値的に優れている提案が必要になってきたということです。それを実現するためには、大きな企業の場合には縦割り的な考え方をなくして、社内でタスクフォースを組んでやっていく。また、規模が小さいメーカーやスタートアップでは他のメーカーとコラボレーションすることで、総合的に開発していくことの重要性を強く感じました。来年にむけてこのような提案がさらに増えることを期待したいと思います。
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