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変化のタイミングとバランス〜2020年度グッドデザイン賞 審査ユニット09(情報機器)審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに20の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット9(情報機器)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。
2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit 9 - 情報機器]
担当審査委員(敬称略):
緒方 壽人(ユニット9リーダー | デザインエンジニア|Takram ディレクター)
片岡 哲(プロダクトデザイナー|KATAOKA DESIGN STUDIO 代表)
小林 茂(イノベーションマネジメント研究者|情報科学芸術大学院大学[IAMAS]産業文化研究センター 教授)
林 信行(ジャーナリスト / コンサルタント)

新しいチャレンジを評価する難しさ

緒方 今年はコロナ禍の状況で、リモートワークが普及したり、いろいろなイベントがオンライン開催になったり、正に情報機器がインターフェースとして非常に重要な役割を担う状況になったと思います。
グッドデザイン賞には新しい製品が多く応募されてきますが、とはいえその開発期間からいうと、最初からコロナを意識した製品が出てきたわけではないのですが、例えばリモートワークなどの新しい働き方に対してのアプローチはいずれ考えなければならなかったところですし、いつかくるべき変化が前倒しで来たようなところがあると思っています。そういうものに対応しているプロダクトというのはひとつ注目のポイントでした。
グッドデザイン賞は審査委員が審査の際に参照する「審査委員チュートリアルブック」というものがあって、ウェブサイトでも公開されているので、ぜひ応募される方も一読された方がいいと思います。その中に「改善型」と「新規型」の2つの審査の視点が書かれているページがあります。「改善型」は、ユーザーの声や使い勝手を丁寧に観察して改善をして、既存の製品をより良いものにしていくという正常進化をきちんと評価しましょうというポイントです。「新規型」の方に関しては今までなかったようなジャンルや市場などを切り開いていく新しい製品ということで、まだ荒削りな部分があったり、もっと改善できるポイントがあるが、そういう挑戦は挑戦として、新しいチャレンジを評価しましょう、という視点です。そのような2つの視点があって、どういうバランスで見るかということは、毎年議論になるポイントだと思っています。地道な改善を積み重ねて既存の製品をキープしていく、という部分と、全く新しいところから違うジャンルの企業が参入したり、既存企業の新しいチャレンジをどういうタイミングで評価したらいいのか、というところは確とした答えはなく、毎年議論のポイントになります。
最後に、正しさと魅力のバランスも、なかなか答えが見つけづらい2つのバランスだと思います。SDGsという社会課題が年々重要になってきています。それに対して、正しいこと・良いことをやっているということは、説得力がありますし評価されやすくはなります。一方で、グッドデザイン賞は長い歴史のある賞として、高品質で美しいプロダクトやサービスも正しく評価しなければならない、ということも改めて意識しました。そこのバランスも議論のポイントになって、毎年変わってくるところでもあります。常に審査委員の方々と議論し、一定の基準を作って、評価していくわけです。毎年、審査委員も変わりますし、時代もどんどん変わってくるので、来年も同じ基準で評価ができるということはありません。応募される方も自分たちなりのこれからの製品、こうあるべきだと基準やあるべき姿を考えながら、モノづくりをしていただけると良いのかなと思います。

片岡 私はこのユニットでの審査を3〜4年続けて担当しています。今年は映像機器と情報機器の審査ユニットが分かれたことで、情報機器だけになって、ある意味硬い感じのラインナップになった印象を受けました。コピー機やプリンター、ノートパソコンなどは成熟製品がかなり多くなってきています。これまではある程度のレベルに達していれば、受賞できていたものが多かったと思いますが、今年は全体のレベルもかなり上がってきているし、あるところで線を引いて、それ以上の何か光るものに対して、評価をしようと審査委員の間で話をしました。そういう意味では結果は少し厳しめになったのではないかという印象があります。特にノートパソコンは去年までとはちょっと違っている気がして、そんな傾向があると思いました。
ベスト100や金賞などの上位賞になると、このユニットだけではなくて、いろいろなユニットの審査委員が見るので、色や形などの完成度みたいなところをなかなか主張しにくいのですが、このユニットの中では、かなりそういうところも大切にして、評価したつもりです。

 昨年は審査をお休みしていまして、久しぶりに審査委員に復帰しました。今年感じたのは、中国メーカーの存在感が非常に強くて、しかもバリエーションに富んだ応募が多くあったことです。プロジェクターにしても試行錯誤している状況で、いろいろなバリエーションの製品があります。これから2020年以後の時代に出していく製品はどういう風にあるべきなのかということを問われているような気がしました。

小林 私が審査委員を担当させていただくのは今回で2回目ですが、前回は全く違うユニットの担当でしたので、それから比べると、今回の情報機器はかなり成熟しているものが多いなという印象でした。一見すると、ほとんど同じレベルにあるようなものの中でも、やはり細く見ていくと違いがありました。一通り審査を終えてみると、その差、ラインがあることがわかってきました。徐々に進化したというよりも、まったく新しいカテゴリーに挑戦しているものがあって、挑戦している部分は多少の荒っぽさと新鮮味があって、その中で抑えるべきものをちゃんと抑えているところがあって、そしてそれを総合的に評価して、ここにたどり着いた、というプロセスがありました。今、改めて振り返ると、非常に面白い審査だったと思います。

家族型ロボット [LOVOT[らぼっと]

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緒方 家族型ロボットと書いてありますが、人間がわかる言葉をしゃべるわけでなく、何かの仕事を協力してくれるわけでもなく、家の中でうろうろして、鳴き声を出したり、人間を見つめてきたりするロボットです。LOVOTが複数いれば、LOVOT同士でコミュニケーションを取ったりします。そこに居て癒しを感じさせてくれる、家族の一員というコンセプトで出てきたロボットです。
そのコンセプトを聞くだけよりも、やはり実物を見ると、その振る舞いや仕草はロボット的な硬さをうまく消していることがわかります。目の表情が非常にこだわって作られていて、答えごとに目の色も変わる工夫もされていたり、実際見るとグッとくる可愛いさが魅力かなと思いました。

片岡 審査会場で実物を初めて見ましたが、パッと見では、単にかわいいロボットという感じでした。動きや仕草、目の表情などの情報が入ってくると、体験価値が桁違いに上がって、すごく納得しました。この仕草と可愛さを求めて、そこから逆算して、モーターの角度、動きの可動範囲などをいろいろとプログラミングしていくことは大変な作業だったろうと感動しました。

 私はこれについては審査する前から、かなり取材していました。先ほど緒方さんがおっしゃったような、改善型と提案型など、いろいろな視点でのグッドデザインの審査があると思います。それでいうと、この製品は今までにまったくなかった価値を新しく作っていると感じました。おそらく「役に立つ」製品しかない本ユニットの審査対象の中で一番、役には立たない製品で、実際作ったメーカーさんもそうふうに言っています。逆に、役に立たなくて、手間がかかるからこそ、愛着が湧いて心が安らぐ、というところも含めたコンセプトのデザインがすばらしい。仕草のデザインや、パッケージを開けた時の体験のデザイン、それからパーソナライゼーションで、全く同じ目を持っているLOVOTはいないというようなところのデザインも含めて、膨大な量のディスカッションがこの製品の開発中に行われていたと想像します。製品を見ると、一切そういうことを感じさせずに愛着が湧くロボットにまとまっていることは、やはり他の製品と違って、突き抜けていると思いました。

小林 コミュニケーションロボットを作るときに、例えば犬や猫や熊のような既存動物に似せて作っていくことではなくて、まったく別の存在として最終的にたどり着いたところは、本当に新しいし、存在感がすごいと思います。開封するときに、電源が入っていない状態は絶対見せないようにするなど、いろいろなところが徹底されていて、高い評価を受けるべきプロダクトだと思いました。

ライブ配信ツール [GO:LIVECAST]

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緒方 これはコロナ前に開発された製品ですが、ライブ配信が必要になったこのタイミングに非常にマッチした製品だと思います。急にリアルなコミュニケーションが取れなくなってしまった状況下で、専門家がいなくても、個人の力でスマホだけでクオリティの高いライブ配信が実現できるというところが、個人をエンパワーするツールになっていると思います。スマホをカメラとして、いろいろな動画、テロップ、画像などを使って、ライブ編集ができます。もう一つユニークなところは、もう一台のスマホを繋げて、2台を切り替えて使うこともできます。アプリとセットで使うアプリ・ファースト体験になっています。アプリで操作しづらいところはプロダクトの方に持ってくる、というような組み合わせで一つの製品になるところがすばらしく、個人的に応援したいプロダクトだと思いました。

 日本のメーカーはハードウェアは強いけれども、ソフトウェアが苦手という傾向がありますが、これはシームレスなハードとソフトの一体化がすばらしいと思いました。まさに時代のニーズにもマッチしています。たとえばオンライン・ビデオ会議などで、高価なプロ用カメラに接続し、カメラを切り替えて使えるようなプロ用の機器が爆発的に売れたこともありましたが、よく考えてみると、世の中の環境が変わっていて、今のスマートフォンは一眼レフに負けないようなカメラ性能を持っています。そういった状況を考えて、非常にお手軽にプロに負けないような配信ができる仕組みをうまくまとめいて、よく工夫されている製品だと思いました。

片岡 スマホの中でやろうと思えば完結できることを、あえて切り出してハードウェアにして使いやすくしよう、という考え方が面白いと思いました。スマホが持っている多様な機能を、どこからどこまで切り出して使うのかという発想で、いろいろな製品がこれから生まれるのではないかという新しい可能性を感じました。

Folding Screen Laptop [ThinkPad X1 Fold]

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緒方 これはご覧のように画面が二つ折りになって、畳むことができるという製品です。今年は大量のノートパソコンが 審査会場に並んでいました。基本的なノートブック型のPCが並んでいる中で、これは異彩を放っていました。このアイディア自体はコンセプトとして昔からあったと思います。開いた状態で、継ぎ目がわからないぐらい綺麗に実装されていますし、その折れるということを上手く使ったいろいろなUXを考えられています。非常に高い完成度でまとめられています。

 実際に開いたり閉じたりする時の緩衝感が良く、キーボードの処理方法も工夫がされています。きれいなノートパソコンはたくさんあるのですが、これは綺麗を超えた興奮を感じさせ、新しい時代が来たぞと久々に感じました。今後ノートパソコン史を振り返るときにも、一つのマイルストーンとして、振り返ることができるものではないかと思います。

小林 最初見たときは、別に巻かなくてもいいのでは?と思っていましたが、一晩経って考えてみると、このチャレンジはとても重要だと思うようになりました。これから後継機も出てくるでしょうし、これに勇気づけられた他のものが出てくるという意味で、インパクトが大きいと思います。

片岡 20年前にパソコンのデザインをやっていた時に、こういうアイディアはありましたが、最近やっと実物のものが見られて、すごくうれしいなと思います。液晶を畳むだけだと、それほどインパクトはないですが、すごく細かいところまでよくできています。ユーザーが次はどうするの?と思った瞬間に、次の「こうしてください」というメッセージがすぐ帰ってくる、みたいレスポンスは小気味良さがあって、触って楽しい製品でした。

スーパーコンピュータ [FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX1000]

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緒方 これはニュースでご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、数年ぶりに性能ランキング世界一を奪還した「富岳」というスーパーコンピュータの一部の一つユニットを製品にしたものです。スーパーコンピュータがグッドデザイン賞とどう関わるのかというところが一つのポイントかなと思います。性能が世界一ということでだけであれば、それはコンピューターとして評価すれば良く、グッドデザイン賞として評価するポイントは何なのか、というところが問題になると思います。そういう意味で言うと、これは見た目として伝わってくるところではなく、仕組みの部分を評価したということになります。今までのように、スパコンのGPUを使って計算能力を増強するというやり方ではなく、スマホに使われているようなCPUをベースにした設計になっています。そのことで非常に使い勝手が良くなって、既存のプログラムをあまり改変しなくても、このままスパコンで計算させることができます。例えば、コロナウイルスの飛沫飛散のシミュレーション計算などに実際に使われていますけれども、今すぐ計算して答えを知りたいというものを迅速に計算させることができる、というところが今までと違うところなのです。加えて、ある1部分が特出した性能を出しただけではなく、汎用性や省電力性というところをみても総合的に非常に優れたもので、使いやすいスパコンになっています。そういう総合的な製品としての完成度が、デザインに関わってくる部分として評価できるということになりました。

小林 富岳を構成している一部ユニットで、自由に組み上げられるスケーラブルなものだ思います。細い配慮が隅々まで行き渡っている製品で、メーカーの顔としての存在感がちゃんと出ているとと感じました。背負っているもの重さを感じさせるプロダクトだというところが非常に印象的だったと思っています。

desktop computer [HP ENVY All-in-One]

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片岡 モノの完成度や使い勝手を高めていくような地道な進化に対して、グッドデザイン賞は最近評価してくれないよね、みたいな声をたまに聞きます。そうじゃないですよ、ちゃんとそういうところもみていますよ、という例としてこちらを挙げたいと思います。この製品は既存のデスクトップPCのように至極シンプルというわけでもなく、いろいろな魅力を出そうという野心を感じます。音の良さをアピールしているところもあるし、スマホをここに置いたら使いやすいよとか、古典的な意味での工業デザインの魅力を凝縮した製品だなと思いました。私は普段MacとWindowsを両方使っていますが、仕事の時はWindowsはメインなので、仕事を家に持ち帰ってやる時などに、こういう製品がいいな、個人的に欲しいなとも思いました。

Bluetoothヘッドセット [BONX mini]

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緒方 これはさきほどの「GO:LIVECAST」と違って、アプリ・ファーストのプロダクトです。いわゆるトランシーバーで、複数で常時接続するとき、消費電力を抑えるために、使用時だけ通信を発生するような工夫しています。長時間つなぎっぱなしでもユーザーがスムーズにコミュニケーションをとれるようなものをスマホ・ベースで作っています。リモートワークの普及が加速して、職場でのコミュニケーションはすごく変化していますが、そこにフィットするサービスとプロダクトが一体化した製品だと思います。
創業者の方はスノボや自転車などスポーツをする際に、手が塞がっていたり距離が少し離れていても、コミュニケーションが取れるものを、ということで開発されたそうです。最初の製品は手袋をしていても操作しやすいように作られていて、それはあくまで趣味のスポーツという目的のためでしたが、今はコロナ禍の状況下で、ソーシャル・ディスタンスを取らなければならない状況があったり、医療機関など全身防護服を着て、手で操作しづらい状態があったり、もともとの意図ではない場面にフィットしているところは面白いなと思います。

 これもスマートフォンがこれだけ普及したからこそできた製品です。イベントでよくインカムをつけているスタッフがいますが、高価だったものもスマホ普及のお陰で手軽の出来ているし、しかも手軽になったことで利用シーンも広がっています。本当に新しい提案になっているのを感じました。

AI音声認識機器 [ポケトークmimi]

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緒方 ポケトーク自体は翻訳デバイスとして比較的認知度の高い製品です。翻訳するためには、まず音声認識して、それを文字情報に変える必要があります。その「音声認識から文字情報に変換するところ」だけが役に立つケースがあるんじゃないか、ということで、その機能だけを切り出して作られたのがこの製品です。この音声認識の精度が非常に高いのが特徴です。耳が聞こえにくい方がいらっしゃるような介護施設など、筆談でコミュニケーションをとるには非常に時間がかかるという場面などで、このデバイスを使うと、簡単にコミュニケーションができるようになっています。既存のプロダクトの一部機能を切り出して、別のものとして、展開していくというところは面白いと思いました。UIもとてもシンプルで、押してしゃべるだけなので、誰でも使えるようになっています。

 最近スマホの翻訳アプリでも全く同じことができるのですが、「機能の切り出し」というのは一つのキーワードだと思います。今、あまりにも多くのことがスマホの中に集約されていて、スマホがあるとなんでもできるのですが、何でもスマホでやるのがいいかのかというと、よく使う機能が切り出されて、別の機器があった方が便利な場面もあると思います。もしかしたらこれは、スマホが登場して以来の新しい潮流になるかもしれないと感じました。

インクジェットプリンター [EW-M973A3T/ EW-M873T]

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緒方 これは本当に改善型のプロダクトであると思いますが、カートリッジの交換式のプリンターで、そのカートリッジビジネスがこのインクの補充の方に変わりつつあるときみたいなところがあって、今まではそのランニングコストが安いというところで、低価格なラインが補充方式になっていて、印刷のクオリティも高くて、そういうところにもこういう方式が入ってきたというところです。そこにインクの補充に関しても、すごく丁寧に良く考えないと、間違ったところに間違ったインクを入れられないようになっていたり、勝手に満タンだったら止まったり、蓋もちゃんとなくならないように行ったりとか、そういうあたりは良く考えられているなと思いました。

片岡 メーカー側が会社として「ここにある特徴をデザインでも主張してください」というようなことを言いがちで、デザイナーは言われがちだと思いますが、この製品は使用者目線で綺麗に収めて、そういうものの方がほしいように収めてくれていることはすごいです。

smart portable projector [Tmall Genie TG_V1_W smart portable projector]

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 今回は海外からの応募作品も一緒に審査することになり、あまりの量とバリエーションに圧倒されてしまいました。形にしても、ポータブルでバッテリータイプのものから、ドーンと置いて据え置き型の短焦点のもの、富裕層のリビングに置くことを意識した趣味的なもの、しっかりマテリアルで処理し美しいものまで、非常にバリエーションがあって、まさにプロジェクターのカンブリア爆発が起きたと感じました。今後数年間でいくつかのタイプに収斂されてくると思いますが、そういう意味で、今、グッドデザイン賞として出すメッセージは重要な役割を果たすと思います。その中で、この製品は見た目はまるで60年代ぐらいの家電製品っぽい。こういう小型のプロジェクターでは必ずリモコンが付属していて、リモコンがないと操作できないことがありますが、やはり失くしてしまいがちです。このリモコンは最近よくある方法で、ピタッと本体にレンズカバーとして吸着させて、収納することができて、ポータブル性を生かしながら、シンプルでよく課題解決していました。いろいろなバリエーションが出ている中で、まだまだこういった課題解決の余地があるのだと気付かされました。

ネットワークカメラ [パナソニック WV-U1134J/ U1114J/ U1133J/ U1113J]

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小林 この製品のポイントとしては二つありまして、コンビニや一般家庭などに設置されるネットワークカメラは割と低価格ラインだと思いますが、こういう監視カメラはなかなか難しいところがあって、設置する側としてはあまり目立ってほしくなくて、自分の家とか店とか、すごく目立ちすぎても困るし、かといってやはり何か悪いことしようという人を抑止するためにはある事が分からなきゃいけないという中で、そのバランスが難しいところだと思います。そこでうまく佇まいを作っているなと思いまして、あることはたしかにわかるが、気にしないと気にならないというバランスになっているところが一つ良い点だなと思いました。インクリメンタルな配慮を重ねていて、高い完成度にあるプロダクトだと思います。
もう一つですが、こうしたものは最初に同じような設定をまとめてしなければならないというプロセスが必ずあって、そうすると、箱を開けて、だして、設定して、また箱へ戻して、それから各店舗へ送ってという手間が発生します。その時に必要になる作業を大幅に短時間でできるようにするということで、パッケージ部を通して、アクセスできるようになっています。こういうプロダクトのエンドユーザーは店舗、家庭の人ですが、その前でいろいろな作業をする人たちのこともちゃんと視野に入れて、デザインされていることにより、色々な意味でロスが非常に少ない形で作られています。プロダクトとして、地味で、目立たないカテゴリーのものだし、一見すると気づきにくいところですが、こういうところで工夫がされているというのは、見過ごされがちですが素晴らしい点だと思います。これが社会に対して、どういうインパクトを与えていくのかというところまで本当に気を使っているということが非常に伝わってきました。グッドデザイン賞の中では地味かもしれないですが、やはりちゃんと評価すべきポイントだと思って、挙げさせていただきました。

まとめ

小林 私は今年初めてこの情報機器の審査を担当させていただいたので、割と新鮮だという立場から、一言をご提案できればと思います。実際に製品として作り上げていく過程においては、エンジニアリング的な課題やマーケットの事情もあったりしますが、それに対して、デザイナーの方々はそこをどう乗り越えてきたか、さらに乗り越えるだけじゃなくて、その先まで進んだとかというところがポイントになってくるのかなと思いました。そうしたところがよく伝わる形で出してきていただけるといいのかなと思います。最後にプロダクトとして目に見える姿や形は当然重要ですが、その背後に隠れている、いろいろなプロセスもやはり重要です。今の社会の状態は何か目新しいものがあれば、みんな喜んで物を買って、それが売れればいいよねというだけではなくて、社会全体のことをどう考えていくのかというところにあると思うので、是非そうしたところで取り組んだプロダクトがこの後出てくるといいなと思います。そういう何か新しいチャレンジがあったのであれば、それをきっちりと応募の際に伝えていただけるといいかなと思います。そうしたものが出てくることを期待しています。

 我々のユニットだけでもスパコンからLOVOTまで非常に幅広くて、製品のジャンルとして幅が広ければ、そこに込められているデザインの工夫の種類も非常に幅が広いものが応募されてきます。製品の裏側で実際の開発者の方たち、エンジニアやデザイナーの方たちが、どれだけのディスカッションをして、それが製品として現れているのか、そのディスカッションの量によってグッドデザイン賞が決まるのではないかなと僕は感じます。我々審査委員も膨大な量のディスカッションしています。作る側の膨大な量のディスカッションを、審査側の膨大な量のディスカッションで少しでも読み解ければいいなと思っています。これからグッドデザイン賞に応募するような製品を作られている方は、製品についてのコミュニケーションを企業内でもたくさんして、いろいろな視点で、製品に対しての意見が出ると思います。そういうところをちゃんと説得できるようなメッセージの出し方ができないと、おそらく一般の消費者もうまく説得できないですし、逆にそういったうまいメッセージができると、我々も非常に審査しやすいところがあるので、何をどうディスカッションした上で、こういった製品になっているかという部分を応募情報に書いていただけると、我々の理解も早く進むと思います。

片岡 審査を続けていくと、今の日本の良いデザイン、中心はここなんだみたいな気分になりそうになりますが、全然そんなことはなくて、グッドデザイン賞を受賞していなくても、良い製品はたくさんあると思います。そうは言っても、応募する以上は受賞したい、ということで一つアドバイスがあるとしたら、昔のデザイン賞では、企業のデザイン部門が中心となって応募して、受賞したら喜んで、落ちたら悔しいみたいなイメージだったと思います。今は、やはりデザインという言葉の範囲も広く、グットデザイン賞も広げて評価しようということになっているので、やはりいろいろな人たちに対してアピールできないと、ベスト100に行くのはなかなか難しいです。デザイン部門だけではなくて、会社一丸となって、いいものをつくろうとか、世の中でお手本となる製品作りをしようという姿勢でないとなかなか上位賞で評価されるようなものになりづらいのかなというふうに思います。だから、今までのデザイン賞のイメージでこんなに頑張って、こんなにかっこよくて、きれいに使いやすく作ったのに、なんで賞がもらえないのか、というところがあると思います。やはり、会社全体で見ていいものを作ろうという視点はすごく大切だなと思いました。

緒方 グッドの定義、デザインの定義は非常に多様になっていると思うので、審査基準は製品ごとにどこを見ればいいのかというところが千差万別だなと感じます。応募する側の皆さんが、自分たちはどこがいいと思って、ここ見てほしいということをわかりやすくアピールしていただくと、非常に審査もやりやすいし、評価に繋がるのではないかなと思います。他と比べて、どうだとか、去年はこうだったとか、そういうことではなくて、自分たちが信じるこうあるべき製品の姿とか、社会のあり方とか、そういうような信念を持って伝えていただければ、それが伝わるのではないかなと思います。

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