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生活スタイルの変化に呼応するデザイン〜2020年度グッドデザイン賞 審査ユニット06(家具・家庭用品)審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに20の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット6(家具・家庭用品)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。
2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit 6 - 家具・家庭用品
担当審査委員(敬称略):
手槌 りか(ユニット6リーダー|プロダクトデザイナー|プロペラデザイン 代表)
大友 学(デザイナー/ブランドディレクター|スタジオ 代表取締役)
木住野 彰悟(アートディレクター / グラフィックデザイナー|6D-K 代表)
藤城 成貴(プロダクトデザイナー|shigeki fujishiro design 代表取締役社長)※所用につき欠席

ベッド [桐らくね プラチナ] (グッドデザイン・ベスト100) 

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手槌 家具は実際に現場で使ってみて、ものを見て判断することを大事にしています。その中でこの製品は、木製ベッドなのにもかかわらず片手で持ち上げることのできる圧倒的な操作性の良さがありました。また、以前のモデルもグッドデザイン賞を受賞しているのですが、そこから、木の表面のテクスチャーをより高質なものにしたり、部材もひとつずつ見直して軽くしたりとさらに進化させている点を評価しました。
布団を上に置いたまま簡単に持ち上げられ、たたんで使えることで、空間の最適な利用ができるようにもなります。コロナ禍により家で過ごす時間が長くなっている今の時代に求められる点にもすごく合っているということで、今回ベスト100に選出されました。

木住野 実際に触ってみると写真でからはわからない機能性の高さがありますよね。持ち上げたときの軽さが想像以上なので。

手槌 それから地面より高い位置に布団を置けるので、高齢者にとって今までの生活習慣を変えずに、起き上がるのを比較的楽にすることができて、この製品を導入することによってより快適になるということもすばらしいポイントであると思いました。

洗たく用洗剤 [アタックZERO ワンハンドタイプ] (グッドデザイン・ベスト100)

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大友 この製品は、従来の液体洗剤を使う際に、液こぼれによって洗濯機周りが汚れやすいという、使っている皆さんが感じている不満を鮮やかに解決したというところが一番のポイントだと思います。
ワンプッシュで決まった量が間違いなく出せる仕様になっていて、計量面も自動化されています。不便を解消しようという想いがないと、ここまで徹底的にしっかり作れないのではないかと思います。
また、デザイン的に面白いのは、手を添える部分が平面になっていて、詰め替えの際にボトルをひっくり返して置きやすいようにするというところまで考えられています。

木住野 必ずかかってしまう一手間が、プロダクトデザインの力で無くなっているというのは大きいことですよね。

手槌 このメーカーはもともとボールタイプの一回ごとに使える洗剤を出していたのですが、それだと少量の使用には対応できないということで、今回の開発に至ったそうです。洗剤をどうやって最適なものにするかを考え、継続して改善してきたということで、一朝一夕でできるものではなく、すばらしいと感じました。
この製品に柔軟剤を入れて使っている人もいるということで、パッケージだったものがまるで道具にまでなっているということがプロダクトとしての強さだと思いますし、この洗剤の開発を機に、いろいろな派生製品が生まれていくと思います。

防災セット [いつものもしも 携帯セット/持ち出しセット/備えるセット] (グッドフォーカス賞[防災・復興デザイン])

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木住野 無印良品の開発した防災セットで、商品構成としては、携帯セット・持ち出しセット・備えるセットの3モデルになっています。一番のポイントは、ネーミングに集約されていると思っていまして、「いつものもしも」という名前は、日常の中にある非日常、通常時と非常時が地続きになっていることをよく表しているいいネーミングです。
非常時というのはいつくるかわからないわけですが、防災グッズ自体は、いつも置いておかなくてはいけないものでもあって、どういうふうにデザインするといつもそばに置いておけるものになるのかを考えられているところが、この製品の一番すてきな部分だと思いました。
防災グッズというと、シルバーのリュックサックや黄色のヘルメットなど派手なものが思い浮かびます。そのせいか、部屋の奥にしまってしまい、実際に災害が起きた時にはどこにあるかわからなくなってしまうこともあると思うのですが、このグッズは日常の中に置いておけるものになっていて、そういったことを回避できます。
また、収納についてもかなり考えられていて、段ボールでできているセットは本棚にすっぽり入るようになっていますし、一番小さいセットだとカバンの中に入れっぱなしにできるサイズになっていて、その共存の仕方というのがすごくいい部分であると感じました。
セットの内容は、通常時でも使えるものになっていて、自分でもカスタマイズできます。普段から近くに置いてあることで、自分が非常時にどういうものを準備しているのかを常に意識するようになりますし、追加であったほうがいいと思うものがあれば、すぐに取り入れることができるようになっています。

手槌 通常販売している商品を中に入れられるようになっていて、日常のものを使うことで、防災を非日常化しないというところも素晴らしいポイントだと思いますね。棚にファイルボックスのような形で置くことができるというのも、日常の中に溶け込ませる工夫ですよね。

大友 こういう商品が広がると、防災に対する気持ちを持たせてくれるという点でもすごく意義のある受賞だと思います。

手槌 これまでの防災グッズは、「特別なもの」という感じでしたが、近年は災害が増えたこともあり、だいぶ変わってきて、日常に溶け込むものが増えてきたと思います。それに応じて、以前からある商品がどんどん進化してきているというのも今年の特徴でした。

受賞デザインから見えてきたこと

木住野 このユニットは、身近なものが多いので、進歩が見えづらい部分はあるのですが、徐々にでも進化し続けていて、生活する人たちを助けているすてきな商品群だなと感じました。

大友 単純に形が美しいというのはデザインの重要な要素なのですが、どういう目的なのか、どういう風に使ってもらいたいか、どう役立ったらいいかというような、表面には出てきにくい部分を実直に積み上げていく、ある意味「コストパフォーマンスが悪い」ともいえる想いの力を感じることができる製品には、すごく好感が持てました。

手槌 このジャンルは成熟した製品がほとんどなので、どうやって審査するか難しい部分もありましたが、それぞれのカテゴリーにおいて何が重要なのかを見極めながら、一つずつ読み解いていきました。審査委員の間では、特に、生活者視点とデザイナー視点を両方持ち合わせることが必要だと話し合っていました。
美しさはものすごく重要な要素ですが、もうそれだけで語れない世の中になってきていて、雑貨などは特にそうですが、大半のものがそれなりに美しいものになっているので、その中に機能性や新しい芽を見つけ、可能性を評価していきたいと思っています。

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