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すっぱいビールをつくる【酸を生み出す微生物編】

前回のクイックサワー編につづいて、この手法で酸味を生み出す重要な役割を担う微生物について解説します!とその前に…

注意!微生物を使う前に…

ここで解説する微生物は一部のビールに有益な風味をもたらしますが、一方で汚染菌としても知られています。つかう前に、微生物の役割、自らの醸造所の仕組みを理解して、洗浄・殺菌が確実に行える環境と自信がなければ、これらを導入することはオススメしません。常に汚染・コンタミのリスクが伴います。

ビールを酸っぱくする"微生物"

ビールを酸っぱくする微生物(菌)は「バクテリア」「バグ」とも呼ばれ、代表的なものに「ラクトバチルス」「ペディオコッカス」「アセトバクター」があります。今回解説しているクイックサワーの手法には「ラクトバチルス」が向いているのですが、それぞれをざっくり説明します。

ラクトバチルス

乳酸菌です。クイックサワーであるケトルサワーの手法に最もよく使われる微生物であり、ヨーグルトをはじめとした酸味のある乳製品に含まれる身近な菌です。
酸素がない状態でも活動する嫌気性菌であり、麦汁の糖分をエサにして乳酸を生成する。種類により30℃前半~40℃後半で活動する。麦汁のpHを3.3程度まで酸性化することができる。

ラクトバチルスには糖分からほぼ乳酸のみを生成する「ホモ性」と乳酸以外にエタノール、酢酸、Co2などを代謝する「ヘテロ性」がある。種類によって異なるので必ずチェックしましょう。

また、この微生物はホップに対する耐性がなく、IBU8以上の環境では乳酸を生成することができない。麦汁に乳酸菌を投入する前にホップを入れてしまわないよう注意が必要である。

ペディオコッカス

乳酸菌の一種で、ザワークラウトがすっぱくなるのに貢献したりする菌です。
ラクトバチルスと比較して乳酸の生成が非常に遅いため、クイックサワーには向いていない。微好気性。10℃後半から20℃後半で活動し、pHを3.0以下まで酸性化し強い酸味をつけることができる、乳酸以外に少量の酢酸、その他化合物を生成。IBU30程度でも活動が可能。
活動が遅い特性を利用してブレタノマイセスと一緒に使われることがある。

アセトバクター

アセトバクターはアルコールを消費して酢酸を生成する。そのため主に主発酵後に使われる。アセトバクターを感じられる代表的なスタイルとしてベルギーのフランダースレッドがある。お酢のような味わいといわれますね。

結局のところクイックサワーに何を使えばいいの?

結論から言うと短期間でビールに酸味をつけられるラクトバチルスが向いてます。
しかし乳酸から得られる酸味はクリーンな反面複雑さにかけるため、時間をかけて複雑なビールが作りたい場合はペディオコッカスやアセトバクターが有効です。目指す味わいによって使い分けましょう。

乳酸菌はFermentis、White Lab、Lallemandなど各会社からさまざまな種類が発売されています。またヨーグルトやヤクルト、市販の乳酸菌が含まれている食品を使ってケトルサワーを行うこともできます。最近は乳酸菌なしで乳酸を生成する「ランカセア酵母」なんかも出てきましたね。これはまた別の機会に。
それぞれ酸味やキャラクターが異なるので、色々実験して好みのモノを見つけましょう!

https://www.whitelabs.com/yeast-single?id=195&type=YEAST

参考
Michael Tonsmeire, American Sour Beers: Innovative Techniques for Mixed Fermentations, 2014
John Palmer, How to Brew 4th Edition, Brewers Publications, 2017
Fal Allen, Gose: Brewing a Classic German Beer for the Modern Era, 2018

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