見出し画像

イーストが醸す風味化合物②エステル

ビールの発酵過程ににおいて、イーストはアルコールと炭酸ガスのみでなく、ビールをビールとたらしめるさまざまな風味化合物を生成します。
今回は代表的な化合物について全4回に分けて説明していきます。

イーストが醸す風味化合物

4つの化合物は以下のとおりです。

  1. フーゼルアルコール

  2. エステル

  3. フェノール

  4. オフフレーバー

第2回目はエステル化合物です!

エステル / Esters

お酒好きなら一度は耳にしたことがあるであろうエステル。
結局のところこれは何なのか?ビールに影響があるエステルとは?
を解説したいたいと思います。

エステルはアルコール飲料の中でもフルーツ、トロピカル、キャンディのような「フルーティ」さに寄与し、発酵中に生じる有機酸とアルコールの反応によって生成される化合物です。イメージしやすいところだと、ヴァイツェンのバナナ香もエステルのひとつです。
バイオトランスフォーメーションの記事で言及したテルペンアルコールやチオールもアロマに影響する化合物なのですが、こちらはホップとイーストの組み合わせで発生するものです。一方でエステルは発酵条件に応じたイーストが生成するもの、という違いがあります。

代表的なエステル

エステルは「酢酸エステル」と「エチルエステル」に大きく分類されます。

酢酸エステル Acetate Ester

酢酸エステルは、フーゼルアルコールまたは大きいアルコールとアセチルCoAまたは酢酸のエステル化によって生成されます。ビールに影響する代表的なものは以下の通りです。

酢酸イソアミル (Isoamyl acetate) : バナナ
酢酸イソブチル (Isobutyl acetate) : フルーティ
酢酸フェネチル (2-phenyl ethyl Acetate) : フローラル
酢酸エチル (Ethyl acetate) :  洋梨/溶剤

エチルエステル Ethyl Ester

エチルエステルはエタノールと、アセチルCoAが脂肪酸に結合したアシルCoAを持ちます。

Ethyl Hexanoate : りんご
Ethyl Octanoate : すっぱいりんご、梨
Ethyl Hexanoate : パイナップル

Q.エステルがあるのはいいことか?悪いことか?

A.スタイルによる
例えばエステルが好ましくないラガーを醸造する際は最小限に抑えたい。一方でエステルが好ましいとされるヴァイツェンやイングリッシュ系では好意的に捉えられるだろう。ホッピーなIPAはどうだろうか?これは全体の味のバランス次第としか言えないが、エステルのキャラクターがテルペンやチオールといったホップのキャラクターをマスクしてしまう可能性があることは覚えておきましょう。
またエステルによっては、閾値が高くなりすぎると不快に感じるもの(酢酸エチル=溶剤、薬のよう)もあるため、高すぎる=もっとフルーティになる、には繋がらないので注意しよう。

エステルをコントロールする

どうすればエステルを強調し、また減少させることができるのでしょうか?鍵となる要因を挙げていきます。

酵母の特性

エステルの強弱は使用する酵母の特性によってさまざまです。酢酸CoAトランスフェラーゼという酵素を持つ酵母は脂肪酸とアセチルCoAを生成し、エステル生産を促進します。
エステルのキャラクターが必要な場合はこの酵素が強い菌株を選び、不要な場合はその逆を選ぶことができます。

フーゼルアルコール

発酵中に生成されるフーゼルアルコールとアセチルCoA、酢酸がエステル化することでビールのエステルを高めることができる。これが多いほどエステルが高まる可能性があるが、酸素や栄養素の不足によりフーゼルアルコールがビールに残留し不快なアルコール感を与える可能性があるため注意する。
フーゼルアルコールについては前回の記事を参照のこと。

エアレーション

適切な発酵には適切なエアレーションが必要となるが、酵母にストレスをかけエステルを生成するために過多供給or過少供給することがある。エアレーション供給が多い場合はエステル生成が増えるが、少ない場合はアセチルCoAが十分に生成されず、フーゼルアルコールのエステル化が起こらず、不快なアルコール感が残ってしまうため注意する。

ピッチングレート

低いピッチングレートにより酵母不足すると酵母は急速に増殖します。この際に酵母は酢酸CoAトランスフェラーゼ酵素の働きを促し、多くのエステルを生成します。
適正なピッチングレートor多めに酵母を投入する場合、エステルの生成は減少します。

発酵温度

発酵温度を高くすることで酵母の増殖を促し、酢酸CoAトランスフェラーゼ酵素が生成されエステルを高めることができます。エール酵母がラガー酵母よりエステルを感じるのはこのためです。逆に低い温度で発酵させるとエステスも少なくなります。
ただし過度に高温で発酵させたいがために、高い温度の麦汁をタンクに送る場合、酸素の溶け込みが悪いためフーゼルアルコールが増加する可能性があるので注意しましょう。

栄養剤の添加

酵母の栄養を添加することで、アセチルCoAを生産するためのエネルギーを確保することができる栄養が不足すると、エステル生成に必要なアミノ酸やその他分子が生成されず、結果としてエステルが減少します。ちなみに加えるといい栄養素はマグネシウムと亜鉛です。

以上発酵由来のエステルについて解説しました。
上記以外にもエステルをコントロールできる細かいテクニックはあるのですが、とりあえずこのくらい把握しておけばだいたいOKでしょう!
レッツエステル!

つづく

参考
Escarpment Labs, DECODING ESTER PRODUCTION IN YEAST FERMENTATION, https://escarpmentlabs.com/blogs/resources/decoding-ester-production-in-yeast-fermentation
Escarpment Labs, 2023 SUMMER WEBINAR SERIES, https://escarpmentlabs.com/blogs/resources/2023-summer-webinar-series

内容が気に入りましたらぜひサポートをお願いします!