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イーストが醸す風味化合物④オフフレーバー

ビールの発酵過程ににおいて、イーストはアルコールと炭酸ガスのみでなく、ビールをビールとたらしめるさまざまな風味化合物を生成します。
今回は代表的な化合物について全4回に分けて説明していきます。

イーストが醸す風味化合物

4つの化合物は以下のとおりです。

  1. フーゼルアルコール

  2. エステル

  3. フェノール

  4. オフフレーバー

最後はオフフレーバー化合物です!

オフフレーバー Off-Flavors

酵母は飲み手にとって心地よく感じる化合物もあれば、不快に感じるものも生成します。オフフレーバー化合物すべてがオフフレーバーとして扱われるわけではありませんが、せっかく作ったビールを台無しにしてしまう可能性もあります。酵母が生成する代表的なオフフレーバーは以下の通りです。

  • Diacetyl(ダイアセチル)

  • Acetaldehyde (アセトアルデヒド)

  • Sulfur (硫黄)

  • Phenols (フェノール)

  • Fusel alcohols (フーゼルアルコール)

PhenolsとFusel Alcoholは以前の記事で説明したので、上の3つを説明します。

Diacetyl (ダイアセチル)

ダイアセチルはバターやバタースコッチ、ポップコーンのような香りを持つ化合物で、ラガーやイングリッシュ系エールではキャラクターとして許容されているが、一般的にビール全般ではあまり好ましくないとされている。

酵母が麦汁に投入されると急速な増殖段階に入り、ここで酵母はアミノ酸の一つであるバリンを生成し、その過程でさらにɑ-アセト乳酸を生成する。ɑ-アセト乳酸はビール中で酸化することでダイアセチルに変換され、バターのような風味の原因となる。
また栄養素の不足によってもダイアセチル生成が促進される。Free Amino Nitrogen(FAN)が低いと、酵母はより多くのアミノ酸、特にバリンを作り出し、バリンが多く生成されるほど、より多くのɑ-アセト乳酸が必要となり、結果としてより多くのジアセチルが生成される。

ダイアセチルをコントロールする

ダイアセチルレスト
発酵が熟成期に入ると、酵母の適切な代謝によりジアセチルは減少する。これはダイアセチルが再び酵母細胞内に入り、アセトイン→3-hydroxy-2-butanoneへと変換されるといった経路で起こる。そしてダイアセチル知覚できないレベルまで減少していくのであった…

White Lab, Compound Spotlight: Diacetyl

これを行うために、ダイアセチルレストと呼ばれる発酵終盤にビールの温度を昇温させ、酵母の代謝を促進する手法でダイアセチルを効果的に減少させることができる。逆を言えば発酵直後にビールを急速に冷却すればダイアセチルは残ることになる。

ダイアセチルテスト
ダイアセチルは人によって知覚が大きく異なるため、私みたいに鈍感な人にオススメな簡単にできるテスト方法があります。
ビールのサンプルを2つ用意し、1つは固形物を取り除いたあとサンプルを60℃まで加熱し20分程度待ちます。この間にɑ-アセト乳酸からダイアセチルへの変換が起こるので、もう一方のサンプルと比較してバターやポップコーンのようなキャラクターがないか確認する、というやり方です。お金もかからず実用的なのでぜひやってみてください。

Acetaldehyde (アセトアルデヒド)

アセトアルデヒドも酵母によって生成され、青りんごやかぼちゃの皮のような味/香りをもつ化合物のひとつです。

代謝経路としては発酵が始まるとグルコース→ピルビン酸→アセトアルデヒドとなり、最終的にエタノールになる、といった形になります。

アセトアルデヒドをコントロールする

アセトアルデヒドは発酵によってほぼ100%生成されるため、熟成段階で酵母に代謝させることが鍵となります。コントロールのポイントをいくつか見ていきましょう。

発酵温度
発酵温度を高くすることでアセトアルデヒドを含む多くの化合物が生成されます。その際に酵母のピッチングレートが不適切/健康状態が悪い場合、エタノールへの代謝が起こらず過度なアセトアルデヒドがビールに残留することとなる。酵母の適切なピッチングレートと健康状態を保つことで、最終的なアセトアルデヒドを減少させることができる。

酸化
エタノールの酸化によってアセトアルデヒドへの変換が起こるので、発酵が終了したビールは限りなく酸素に触れないよう注意する必要がある。

栄養剤の添加
健全な発酵のために栄養剤を入れることも選択肢の一つです。亜鉛は発酵酵素の補酵素であり、アセトアルデヒドをアルコールに変換するアルコールデヒドロゲナーゼ酵素は、補酵素として亜鉛を必要とするため、アセトアルデヒドの減少においては亜鉛の添加が非常に効果的です。

熟成期間
アセトアルデヒドを減少させる最善策はひたすらビールを熟成させておくことです。
発酵が未完了のビールから酵母を切り離したり、冷却してしまうと酵母の代謝が起こらないため、発酵が終了してもしばらくそのまま置いておくのがアセトアルデヒドの減少に効果的である。ただし2週間以上置いてしまうと酵母の自己分解が起こり再びアセトアルデヒドが放出される恐れがあるため注意したい。

Sulfur (硫黄)

焦げたマッチや卵、日本人にとっては温泉を彷彿とさせる硫黄(正確には硫化水素)も発酵によって生成される化合物のひとつです。少量であれば好ましいビールスタイルもありますが、誰も腐った卵の香りのするビールは飲みたくないですよね。

硫黄をコントロールする

コントロールの鍵となるのは以下のとおりです。

FAN
使用する酵母によって必要なFAN量が異なり、極端に少なかった場合発酵に負担がかかり硫黄の生成を促進してしまう。特にベルギー系やKvaik系のイーストはFAN要求量が高いため、モルトの構成を調整したり栄養剤を添加する、またはプロテインレストを導入してもいいかもしれない。

酵母による消費
硫黄はダイアセチルやアセトアルデヒドのように酵母が消費することで減少させることができる。言わずもがな酵母の健康状態と適切なピッチングレート、栄養素の供給が大切であることは覚えておこう。

揮発
硫黄は揮発性でもあるため、発酵中のCo2発生とともに除去される。発酵が活発なエールビールの場合は揮発しやすいが、比較的落ち着いて発酵するラガー系は硫黄が残りやすい。
発酵後にビールをラウジングして硫黄を揮発させることも可能だが、それ以外の香りも揮発してしまうので注意すること。

以上、酵母が醸す風味化合物4つの解説でした!
つかれた!おわり!

参考
Escarpment Labs, 5 OFF FLAVOURS CAUSED BY BEER YEAST (AND HOW TO PREVENT THEM), White Lab, Compound Spotlight : Acetaldehyde, White Lab, Compound Spotlight: Diacetyl, https://www.whitelabs.com/news-update-detail?id=54&type=NEWS
Craft Beer & Brewing Magazine, Off-Flavor of the Week: Sulfur, https://beerandbrewing.com/off-flavor-of-the-week-sulfur/

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