イーストが醸す風味化合物③フェノール
ビールの発酵過程ににおいて、イーストはアルコールと炭酸ガスのみでなく、ビールをビールとたらしめるさまざまな風味化合物を生成します。
今回は代表的な化合物について全4回に分けて説明していきます。
イーストが醸す風味化合物
4つの化合物は以下のとおりです。
フーゼルアルコール
エステル
フェノール
オフフレーバー化合物
第3回目はフェノールです!
フェノール / Phenols
フェノール化合物は何百種類も存在する(らしい)のですが、ビールの風味に影響するのは1.原料由来、2.酵母由来、3.塩素・臭素由来に分類できます。今回は発酵にかかわる「酵母由来」のフェノールについて説明します。
フェノールは特定のスタイル、例えばヴァイツェンやベルジャンホワイトのクローブ感、ベルジャンファームハウスエールのスパイシー感などでは好意的に捉えられるが、一方で薬や絆創膏などの不快な香りに感じることもある。
フェノール化合物は酵母によるバイオトランスフォーメーションにより生成され、これはフレーバーのない前駆体をフレーバー活性分子に変換することを意味します。
酵母は、麦汁のフェルラ酸などのフェノール酸前駆体から特定の酵素を用いて、4-Vinylguaiacol(4VG)などの揮発性フェノールを作ります。ちなみにフェルラ酸は大麦、トウモロコシ、オート麦、米、小麦など多くの醸造用穀物に含まれています。
穀物の種類や収穫年によってフェルラ酸の量は異なり、使用する酵母もフェノール化合物の生成が可能なPhenolic off-Flavor+(POF+)か否かで最終的にビールに及ぼす影響は大きく変化します。
Q.フェノールがあるのはいいことか?悪いことか?
A.スタイルによる
◎:ヴァイツェン系、ベルジャンホワイト、ファームハウスエール、その他ベルギー系スタイル、ランビックなど
✗:それ以外(はあまり歓迎されない)
とはいえ、◎のスタイルでもあまりに強調されていると不快に感じるので、何事もバランスが大切なことは忘れずに。
フェノールをコントロールする
どうすればフェノールをコントロールできるのでしょうか?
鍵となる要因を挙げていきます。
酵母の特性
POF+を使用するか否かでビールのフェノール感は大きく変わってくる。使用する酵母のテクニカルシートを読み、POF±がどちらなのか必ず確認すると良い。
マッシング温度
マッシングを45℃で行う"フェルラ酸レスト(アシッドレスト)"を10~25分程度の行うことで麦芽のフェルラ酸を遊離させ、その後POF+酵母との組み合わせでフェノールの知覚数値を数倍に伸ばすことができる。
ヴァイツェンなどでクローブのようなスパイシーな風味を強化したい場合に有効である。アシッドレストでpHが低下することも覚えておこう。
雑菌汚染
フェノールの発生は麦汁を腐敗させる雑菌で発生する場合もあり、ビール酵母が発酵の主導権を握る前に腐敗菌に汚染されると薬のようなフェノールが出ることがある。酵母の種類だけでなく、醸造機材の徹底した洗浄殺菌を行いようにしましょう。
以上フェノールについて解説しました。
実は酵母由来のフェノールのもう一つに4-ethylguaiacolがあり、これはランビックに複雑味を与えるためにブレタノマイセスが生成する一種なのですが、これはまたの機会に。
スモークモルトのフェノールやホップのポリフェノールなど原料由来のフェノールもいつか気が向いたら記事にします!
つづく
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