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【僕とKさんのエシカルな日常 #4】居酒屋で、ペットと資本主義の未来について考えることになった編

先日、ふと思った。
あぁ、海外旅行に行ってないなぁ、と。

学生時代はもちろん、社会人になってからも
長い休みが取れたら海外に行くことが多かった。

でも、このコロナ禍だ。

予想だにしていなかった事態のおかげで、
僕の海外旅行へのモチベーションは徐々に低下して、
いつの間にか、この刺激のない日常も受け入れるようになっていた。

でも、ときおり無性に恋しくなることがある。

あの、パサパサした機内食のパンとか、
空港の免税店の強烈な香水の匂いとか、
怪しげな目つきのタクシー運転手とか。

そんな僕にとって、Kさんは海外の話ができる貴重な先輩だ。
フットサルでは、「ラブリー!」という
聞き慣れないおかしな掛け声をするけれど。

※Kさんのフットサル話はこちら

そして4月になり、僕とKさんが所属するフットサルチームには、
新たなメンバーが加わった。まだ大学生のイキのいい青年だ。

そのメンバーの歓迎会が開かれることになって、
僕とKさんとイキのいい青年は、同じ居酒屋のテーブルに座ることになった。

最初は、他愛もない会話から始まり、
しばらくしてイキのいい青年が、Kさんのバックパッカーの話に食いついてきた。

「Kさん、すごいなぁ。僕らの世代ってあんまり海外に行く人少なくて・・・」

そうなんだ、と僕も相槌を打っていると、やはり、この質問がきた。
世界を旅した人が、これまで百万回と聞かれてきた質問だ。

「これまで、どの国が一番、良かったですか?」

でた! この質問をされたとき、Kさんはどうするんだろう?

用意済みの回答を政治家のあいさつのごとくスラスラと答えるのか、
それとも、毎回質問の度に考えているのか。
どうも、Kさんは後者のような気がする・・・・

「そうだなぁ」とKさんはグラスを置いて天井を見上げた。

やっぱりKさん、毎回考えている・・・

「心地よかったのはドイツかな」

「ドイツですか? なんでドイツですか?」

「まぁサッカーが好きってこともあるし、ビールも好きだけど」

といってKさんは一度、グラスのビールを飲み干した。

「動物にやさしいのが好きなんだ」

ん? またKさん、面白そうな話の展開になっているぞ。

僕はKさんの話に乗ってみた。

「動物にやさしい?」

「そう、ドイツってね、街中の色々なところに犬を連れている人を見かけるんだ。電車とかバスでも日本みたいにキャリーバックに入れるんじゃなくて、リードをつけたまま乗っていて」

へえ、すごい。

「ホテルも、デパートも、高級なブランドショップでも、犬が自由に人と一緒に歩いているんだよ。ノーリードで街中を歩いている人もいるし」

それって、危なくないのかな?


「ドイツでは小学校の授業で、犬が発するシグナルを習っていて、犬を飼っていない人でも犬の扱い方が分かっている人が多いみたいだよ」

もう、この辺りでイキのいい青年はKさんの話から脱落。
違うメンバーとの会話に参加し始めた。

僕はというと、Kさんの話に興味津々・・・

「それにドイツでは、日本みたいに簡単に飼い主にはなれないんだ。そもそも生体販売もないし」

生体販売がない?

「そう、日本のペットショップみたいに犬や猫を陳列して売る、というのは動物愛護の観点ではあり得ないことで、ドイツだけじゃなくて、イギリスだったり、スウェーデンだったり、アメリカでも州によって禁止されていたり、欧米のスタンダードな価値観なんだよ」

確かに、あのショーケースに入れられたような陳列は気持ちいいものじゃないし、子犬や子猫にとってもストレスありそう・・・

「それに、衝動買いしてしまう人もいるから…安易に犬を飼えてしまうのも問題のひとつなんだ」

Kさんはドリンクのメニューを開いた。
ビールの銘柄を見ているようだけど、
この安い居酒屋にドイツビールなんてものはない。

Kさんはパタンとメニューを閉めて、話を続けた。

「ドイツではね、『ティアハイム』という動物保護施設が各地域にあって、犬を飼いたい人は保護犬を引き取るケースが多いんだ。そのときも職員が家を訪問して、家族と面談したり、犬が快適に過ごせる生活環境なのかチェックしたり」

日本とはすごく違いますね。

「ドイツは犬・猫の殺処分がゼロの国だから。ペットに対する意識も日本とは違うんだろうね」

ちなみに日本の殺処分って・・・

「犬・猫あわせて年間2万3000頭以上。これでも10年前と比べて10分の1くらいまで減ってはいるんだよ」

なんで、これだけ日本とドイツは違っているんですかね…

「日本はブリーダーのライセンス制とか法整備がまだまだな部分が多くて。劣悪な環境の
子犬繁殖工場があったり、小売店まで流通する間に亡くなる子犬もいるし」

僕は少しだけ暗くなった気持ちを振り払うかのようにジョッキのハイボールを飲み干した。

「ペットショップで気軽に子犬を買えてしまうから、気軽に手放す人も多くて・・・簡単に手に入るものだから、簡単に手放せてしまうのかな」

Kさんは、目の前にある枝豆に手を伸ばして、リスのように口に入れた。
僕はメニューの中からチンチロリンハイボールというものを見つけた。
サイコロを振って出た目で、ハイボールが無料になったりするやつだ。

「すいませーん、これください」

店員さんに注文を告げ、僕はKさんに聞いてみた。

「なんで、日本ではそんなことになっているんですかね」

まぁ、それは根深い問題だよね、とKさんは言った。

「日本はどうしても、経済合理性というか利益至上主義というか。利益を上げることが正義という一昔前の価値観がいまだに根強くて。ペット産業も、儲かるからこそ今のような歪な構造になっているんだと思う。これはペット業界だけの話ではないけど」

経済合理性か・・・・

そのとき、「お待たせいましたー」と
僕の目の前にサイコロとお椀が置かれた。

「利益を伸ばすことより、どこか“ちょうどいい”着地点というのかな、そういう幸せの物差しが必要な時期に来ているんじゃないかな」

ちょうどいいか、と僕はサイコロを振った。

チンチローリーン。

おめでとうございます!ゾロ目の1です!すごい!!!

そういって店員さんが持ってきたのは、通常の3倍の大きさはあるメガジョッキのハイボールだった。

「ちょうどいいサイズって大事だよな・・・」

僕は明らかにオーバースペックのハイボールを前にして、
経済合理性とは何ぞや、と自問することになった。

「すごいですね、それ。飲み干せます?」
とイキのいい青年が突然、メガ、メガーと言いながら
映画「天空の城ラピュタ」の悪役の真似をし始めた。

日本は随分と平和だ。

でもその裏で、経済成長と引き換えに失っているものもある。

見知らぬ世界に触れたいと海外旅行に出るのもいいけれど、
日本のまだ知らない世界こそ、しっかり見つめるべきなのかもしれない、と僕は思った。


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