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【コーヒー界の風雲児(中編)】グアテマラの青年が、日本で見つけたもの。甘い夢と、甘くない現実。

まだ、前編をお読みでない方は、こちらから!
コーヒー界の風雲児 (前編)


コーヒー界の風雲児 (中編)
グアテマラで生まれ、いつかは海の向こうの広い世界を見たいと願っていたカルロスは、ついに日本という未知なる国に降り立ちました。

◆グアテマラから北海道へ

来日前のカルロスが抱いていた「日本」は、皆が着物を着ているイメージ。
でも、成田空港に降り立つと、周りはユニフォームのようにスーツを着こなしている人たちばかりで、洗練された雰囲気に驚いたようです。

空港からは、人生で初めての電車に乗り、駅も、ホームも、車窓の風景も、
目にする光景すべてがクリーンで、グアテマラとの違いに新鮮な驚きを覚えました。ホームステイ先は、なんと北海道。しかも季節は2月。カリブ海に面したグアテマラから雪の舞う北の大地・小樽へ。身に沁みる寒さが、異国に来た感傷を後押ししました。

さらに衝撃を受けたのは、到着した翌日の朝食。
焼き魚にご飯、味噌スープという典型的な日本食をふるまってくれたのですが、グアテマラ人からするとこの組み合わせはかなり衝撃的で、食べきることができませんでした。

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◆日本愛が深まっていく

カルロスは、日本語を覚えるために、ホームステイ先のおばあちゃんとよく一緒にいました。
家族が仕事に出かけている間、2人でテレビの「水戸黄門」を見たり。
そうした時間の中で、ある日おばあちゃんがカルロスに何気なく言いました。

「なんでも、慣れるまでが難しい」

その言葉は、カルロスの胸に大きく響きます。
これまで壁にぶつかったとき、どうしても「無理だ!」と諦める自分がいました。でも、このおばあちゃんの言葉が今後のカルロスに大きな力をくれることになります。

日本に来る前は、数ヶ月の滞在を想定していたカルロスでしたが、ホストファミリーが手がけていたクロスカントリースキーの仕事を手伝うようになり、どんどんホストファミリーも、そして日本のこともかけがえのないものになっていきました。

もっと日本のことが知りたい。
そんな好奇心に駆られたカルロスは、小樽から札幌に移り、ホテルのフロントデスクなどさまざまな仕事をしていくようになります。

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◆「覚悟」を決めて、再び日本へ

日本での暮らしは、目に映るもの全てが新鮮で、刺激的でしたがいつしか、カルロスの心の許容量は一杯になっていました。異国での時間が長くなるにつれ、ホームシックになり、カルロスは家族の元に戻ることにします。

10代から日本に来た中米の青年にとって、日本の環境は、あまりにもカルチャーが違いすぎました。だからこそ一度、自分の心が休まるホームに戻る時間が必要だったのかもしれません。

ただ、カルロスは日本から離れて過ごすうちに、改めて「日本が好きだ」という想いに気がつきます。そして数年後、カルロスは2度目の来日を果たすのですが、今度は、「日本でビジネスをする」という大きな野望を抱えていました。

最初の来日では、新しい世界を知りたいという好奇心が大きかったのですが、今度は、覚悟を持っての来日です。
カルロスの胸には、一つの言葉が刻まれていました。

When life gives you a lemon, make a lemonade.

直訳すれば
「人生が君にレモンを与えるなら、レモネードを作ればいい」

これは英語の有名なことわざのひとつです。


意味としては、
「逆境や困難なことが起きても、与えられた状況でベストを尽くそう」
というニュアンスです。この「lemon」が、カルロスにとって「コーヒー」でした。


◆チャンスを掴むまで

日本にいる間、カルロスは会う人、会う人に「グアテマラから来た」と伝えると、「あ、コーヒーだね」という言葉が返ってきました。
グアテマラを離れるまで、自分がコーヒーの国の人間だという自覚を持っていなかったカルロスは、外の世界に出ることではじめて、自分には「コーヒー」が与えられていると気づいたのです。

だからこそ、コーヒーでビジネスをしたい。しかも、大好きな日本で。
そう覚悟を決めたカルロスは、人生2度目の北海道で、コーヒー生豆の輸入を始めました。ただ、貿易の知識が乏しかったこともあり、コーヒービジネスは順調にいきません。

自分の未熟さを痛感したカルロスは、北海道から東京に上京し、貿易の知識やスキルを身につけようと画策します。しかし、現実は甘くありませんでした。

グアテマラ人が、日本で希望する仕事に就くのには想像以上のハードルの高さがありました。それでもカルロスは、チャンスが来るまで、コンビニの商品の仕分けや、車の整備工場などの下仕事に汗を流し続けます。

「なにごとも、慣れるまでが難しい」

コーヒーとは関係のない仕事をしていた日々、ホストファミリーのおばあちゃんの声がカルロスの背中を押してくれました。

そしてある日、とあるレストランで英語メニューを導入するタイミングがあり、カルロスはそこで仕事を得ることになります。ケータリングサービスも担当し、仕事先で大使館とのコネクションを広げ、ついに、望んでいた貿易会社へのルートが見つかりました。


◆夢の入り口へ

貿易会社に勤め始めたカルロスはスポンジが水を吸うように輸出入の知識を身につけ、コーヒービジネスに向けた準備を整えていきました。
そうして1年後、カルロスは独立し、「DARKS」という高級コーヒー豆ブランドを立ち上げます。

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「DARKS」は、商社が取り扱うコーヒー豆を、グアテマラ人のカルロスらしい視点でセレクトしたブランドです。

高級豆ということで、パッケージのデザインも豆の質もクオリティが高く、ギフトにもぴったりで、かなり高い評価を得られました。

ただ、そこでよく耳にしたのが

「それはフェアトレードなのか?」
「コーヒー栽培で農薬は使っているのか?」

といったカスタマーからの質問。

そんな声が挙がるたびに、仕入れ先に確認を取っていましたが、カルロスは、自分の口からすぐに答えられないことにもどかしさも感じていました。

「これは自分の目で一度、確かめるしかない」

そうしてカルロスは、コーヒー農園を視察するためにグアテマラに戻ることになります。

そして、この故郷への旅が、カルロスの人生を大きく左右することになったのです。

そこで目にした「コーヒー農園のリアル」はカルロスの「lemon」が想像よりもはるかに酸っぱく、苦々しいものであることを教えてくれました。


後編へつづく


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グアテマラの小規模農家生産者団体 Good Coffee Farms の代表であるCarlos Melen(カルロス・メレン)


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