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ツクシの生き方




ツクシが芽を出した。
実をいうとつくしという名の植物は存在しない。
ツクシは独立した植物ではなく「スギナ」というシダ植物の胞子嚢なのだ。
スギナという名を知らなくてもその姿を見れば多くの人が「あれか」と思うのではないだろうか。

これです。
スギナはシダ植物なので花は咲かない。
咲かないけど胞子嚢が地下茎から出る。
胞子嚢から振り撒かれた胞子が地面に落ちると前葉体になる。ほんの小さなコケみたいなものです。ぼくはスギナの前葉体を見たことはない。たぶん目には映ってるんだろうけど小さすぎてよくわからない。
前葉体は雄と雌があってこれはそれぞれ造精器と造卵器なのです。ここから減数分裂が行われて精子と卵子が作られる。雨のあと地表が濡れているときに精子は近くにある雌の前葉体まで泳いでいく。めでたく卵に到着して受精すると発芽して
そこから新しいスギナが生まれるのだ。
花を咲かせないシダ植物はその生涯のなかで
受精•発芽→胞子体(栄養体)→胞子→発芽→前葉体(配偶体)→受精•発芽…
というサイクルを繰り返してゆく。
つまりスギナの葉と前葉体は同じ植物なんだけど世代が違うのです。形の違う世代が繰り返して繁殖していく。そういう生物。
多くのシダ植物が葉の裏に胞子嚢をつけるけど
スギナはツクシと呼ばれる専用の枝を出す。
発芽したスギナの受精卵は芽を出し地下茎を伸ばし人が「スギナ」と呼ぶ葉を地上部に出して光合成しながら養分を貯める。
冬になると葉は枯れるけど地下茎は生きている。
春になると「ツクシ」と呼ばれる枝を地上に出して胞子を振りまく。
花を咲かせる植物を見なれたぼくたち人間からするとずいぶん変わった生き方に思えるけど
進化論的にいえば先行するシダ植物たちの中から突然変異で生まれたのが花を咲かせる植物なのです。花とは胞子体の上に寄生した前葉体なのだ。

正確に言うと花びらは葉の変化したもので
花粉と胚珠が前葉体ということになる。

これはぼくが発見したことでもなんでもなくて
中学だったか高校の理科の図表にもちゃんと書いてある。書いてあるんだけどあの頃にはその意味がわからなかった。
野菜(というか野菜も野草も)には栄養成長と生殖成長というものがある。発芽した野菜はまず栄養成長をして体を大きくする。途中で諸条件により生殖成長のスイッチが入って花芽分化が始まる。
葉っぱや芋を食べる野菜は花がつくと固くなって味が落ちるのでなるべく生殖成長は遅れてほしい。でも実を食べる果菜は逆で葉ばかりが茂っていつまでも実がつかないのを「つるぼけ」なんていう。何を求めているかで適切な成育が少し違う。
農業を始めた頃はこの意味がどうしてもわからなかった。本を読んでも人に言われても腑に落ちない。だけど花の咲く植物をシダ植物の一種だとあえて勘違いして眺めたときに
胞子体の上に違う世代の前葉体が寄生してるのが花なんだと気づいた。そうやって考えると葉物と果菜で栽培技術が違うことも腑に落ちる。
畑で起こっていることを違う視点で眺めてみると
いろんなことが見えてきたりする。

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