じょーま

病弱な私の日常

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  • 【小説】天国のこえ

    「私」木村朝子が、堕ちていくスピリチュアルの世界

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【小説】「天国のこえ」8章・休職(1)

 私は、がさごそとビニール袋に手を入れた。  青く光る薬の包装シートを取り上げて、眺める。  「薬を、捨てる…」  手に取ったそれは、抗うつ薬だ。シートには半分ほど残っている。  駅ビルの占い師に、薬は良くない、薬を捨てなさいと言われ、即実行しようと思ったものの、「それじゃあ、さよなら」と薬を手放す勇気がでなかった。  どうしたら良いのか。何を信じたら良いのか。  占い師は、真剣だったし、私に嘘をついたとも思えなかった。  「捨てるんじゃ…なくて…飲まなければ良いんだ…」

    • 【小説】「天国のこえ」7章・薬を捨てなさい

       「うつ、なんてね、無いのよ」  初老の女性占い師は、少しだけ私の方に身を乗り出して言った。  「え…」  突然言われた事に、私は戸惑う。  「うつなんて、そんな病気無いのよ。気のせいなの。お薬なんて飲んじゃダメ」  「うつは無い…んですか」  そう問うと、彼女はこくりと力強く頷いた。  「薬があなたをおかしくさせるのよ。今よりもっと酷い状態になるわ」  「酷くなるんですか…」  「そうよ!あのね、大事なのは先祖供養ね。きちんとしたら、守護霊様があなたを守ってくれるのよ」  

      • 【小説】「天国のこえ」6章・駅ビルの占い(2)

         「お疲れ様っしたー!」  「はい、お疲れ様です…」  時刻は十八時になるところだった。  定時から、三十分はオーバーしている。  それでも、今日は配送業者さんは早く来てくれた方だった。  「疲れた…」  私は配送業者の若い男性が去ったあと、ため息をついた。  荷物がごっそりなくなり、社内メール室自体が軽くなったような錯覚を覚える。  私は、ぐるりと歩き回り、指差し確認を行った。  「ここは、オッケー。ここもオッケー…」  送りそびれた荷物などあったら、かなり大ごとになる

        • 【小説】「天国のこえ」6章・駅ビルの占い(1)

           「社内メール室」  それは、個室の入り口に取り付けられている銀色のプレートに、明朝体で書かれている文字だ。  私はため息混じりにひとりごちる。  「疲れたなあ…」  個室の中にぽつんとひとつだけある、あまり洗練されてないデスクの上には、私の昼食であるシーザーサラダと、鮭のおにぎり、ペットボトルの烏龍茶が広げられていた。全て会社近くのスーパーで買ったものだ。  私には、社内に席が三つ用意されていた。  前年度まで、それぞれ派遣社員に頼んでいた仕事だったのだが、所謂人件費削減

        【小説】「天国のこえ」8章・休職(1)

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        • 【小説】天国のこえ
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          【小説】「天国のこえ」5章・うつ病(3)

           「初めまして、こんにちは。今日はどうされたのかな?」  ロマンスグレーで痩せ型の、優しい声色の医師が、私を出迎えた。何でだかはわからないが、白衣は着ておらず、ラフないでたちだった。  「は、初めまして。よろしくおねがいします…」  診察室はポップな色調で、ふわっとした座り心地のソファが備え付けられていた。  (心療内科って、こんな感じなんだ)  入口から奥まった診察室まで、ポップで明るい色に溢れていた。  個人的に勝手な偏見があり、心療内科、とか精神科、とかは、もっと薄暗い

          【小説】「天国のこえ」5章・うつ病(3)

          【小説】「天国のこえ」5章・うつ病(2)

           「心拍は正常ですねえ。特に肺も問題ないかと思いますよ」  心電図検査を受け終わったあと、女性の医師がうーん、と首をひねった。  「な、何もない…?」  首を捻りたいのは私の方だった。何もないのならば、この不調はどこから来ているというのか。  「ストレスじゃないですか?」  医師が私の顔を見ながら聞いてきた。  「す、ストレス?ですか?まあ忙しいといえばそうですけど」  「人間関係とか」  「比較的人間関係も悪くない…と思います」  人間関係で、まっさきにトモコの顔が浮かんだ

          【小説】「天国のこえ」5章・うつ病(2)

          【小説】「天国のこえ」5章・うつ病(1)

           「あのおー…今日って空気薄くないですか」  ほぼ他人のパソコンのタイピング音しか聞こえないようなオフィスで、おずおずと私は真向かいの同僚に尋ねた。  「え?」  同僚のマナは目を丸くし、私の方を向いた。  「息苦しくないですか…?」  そっとオフィスに響かないように私はささやき声をあげた。  「いや…あ?そんなことないけどねえ?どうしたの、木村ちゃん」  「えっと…」  私が言い淀むと、マナは私の隣に座るお局様ことトモコに目線を向けた。  「トモコさん、空気薄いですかあ?」

          【小説】「天国のこえ」5章・うつ病(1)

          【小説】「天国のこえ」4章・空先生(2)

           「皆さんは、天国からのプレゼントを受け取る用意ができていると思いますか?」  空先生が、目尻を下げて言った。  私の目の前に立つ空先生は、テレビで見かけるようないかにも「視える」人です…みたいな仰々しい格好はしていなかった。  シャツをラフに着こなし、ボトムスは窮屈では無いパンツルック。腕には腕時計以外以外つけておらず、指には結婚指輪が細く光っていた。  私の見立ての通り45歳くらいだとすると、余計な肉付きはなく、なかなかスマートな体型をしているのではないだろうか。  「天

          【小説】「天国のこえ」4章・空先生(2)

          【小説】「天国のこえ」4章・空先生(1)

           少し肌寒い日だった。  「天国のこえがきこえますか?」の著者、「空先生」の講演会へと向かうために、私は朝早くから電車とバスに揺られていた。  見慣れない風景に少し緊張しながら、バスの降車ボタンを押す。  「〇〇会館…は」  スマホのマップをじっと見ながら立ち止まる。あと五メートル歩いた先のビルが会場らしい。  別に恋人に会いに行くわけでもないのに、少し気合を入れて、ひらひらと裾が舞う小花柄のワンピースを着て、明るい藤色のカーディガンを羽織っていた。  神様に等しい方に会いに

          【小説】「天国のこえ」4章・空先生(1)

          【小説】「天国のこえ」3章・天国への扉

           「ここに居る皆さん、そしてこれを見ているアナタ、あなた達の目覚めは近い。もうすぐ冬の時代は去り、世界は春を迎えるのです」  テレビ画面に映る、そう言い終えた「空(くう)先生」は目尻を下げて笑った。  何回DVDを再生しただろうか。仕事から帰ってからも、休日寝転んでいる時も、私は「その」DVDを繰り返し見ていた。  気まぐれで手に取った本、「天国のこえがきこえますか?」を、最初私はじっくりと読み始め…、時間があれば繰り返し繰り返し読むようになった。  その本には、目には見

          【小説】「天国のこえ」3章・天国への扉

          【小説】「天国のこえ」2章・天国のこえがきこえますか?

           仕事に忙殺され、毎日毎日、重い身体を引き摺るようにして、会社と、家とを往復していた。  私は疲れていた。  それにしても。  「はあ…今日は参った」  泣き腫らした目を擦りながら、なるべく他人から顔を見られないように、私はとぼとぼと歩いていた。  仕事の凡ミスで、まさかあんなに大声で怒鳴られるとは思っていなかった。仕事を始めてから六年目。新人ではないといえばそうなのだが、他部署に異動してから一年が経つ頃だった。  不慣れな仕事を、キャパオーバーなほど抱えていて、日に日に精

          【小説】「天国のこえ」2章・天国のこえがきこえますか?

          【小説】「天国のこえ」1章・オーラ

           「ねえ、朝ちゃん、私の指先を見て」  そう言って、私の長年の友人である「葉月」は、真っ暗なテレビ画面の前に人差し指を立てた。  葉月は、「ほら、なんかさ、煙が上がるように、私の指先からオーラが出てるの見えない?」とにっこりと笑った。  私と葉月は、小学校で出会った。親友というよりは、もう腐れ縁のような仲になっていた。  「美人な葉月。それに比べて、朝子ってブスだよなあ」なんて、小学生男子の言った一言は、今でもよく覚えている。  「そんなことない」と反論したいのは山々なのだ

          【小説】「天国のこえ」1章・オーラ

          【小説】「天国のこえ」序章・私とスピリチュアル

           私、木村朝子は子供の時から、「おまじない」が好きだった。  小学生の時は、「意中の人を射止めるおまじない」「友達と喧嘩しないおまじない」などと書かれた本を、たくさん持っていた。  今思えばそれは、本当に願いが叶って欲しいと言うよりも、「おまもり」のような役目を求めていたのだと思う。  当時の少女漫画の付録には、小さな「タロットカード」が付いていて、それの為だけに分厚い少女漫画雑誌を購入したこともあった。「おまじない」が好きな私には、とても魅力的なアイテムだった。  天然石も

          【小説】「天国のこえ」序章・私とスピリチュアル

          生粋の勉強嫌いのつくりかた

          私は、習い事をたくさんさせてもらっていた、記憶がある。 2歳から英語、幼稚園からお習字、小学生で公文式、通信教育のZ会、中学では高校受験のための学習塾。 どれもこれも、月謝は安くは無い。 決して裕福では無かった家庭だったけれど、母は私の将来を案じていた…のか期待していたのか… 今では母は亡くなってしまっているので、真意はわからない。私は子供がいないしね。 たくさん、知識を身に付けさせようとしてくれてたのは、別に間違ってはいないと思うのだ。 の、だが。 私の習ってきたことは

          生粋の勉強嫌いのつくりかた