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通過するだけだった道にイスを置いたら、通りに笑顔と会話が溢れた。ショップが街の個性を引き出す「肴町 NEW NORMAL」。

仙台のアーケード商店街から少し外れた場所にある肴町エリアで、歩道に沿道の店舗がイスを設置する社会実験が2020年7月から始まりました。どういった経緯や目的でこの取り組みを始めたのでしょうか。この取り組みを呼びかけたまちづくり会社、そして参加した店舗の皆さんに、約1年間にわたるこの実験を振り返って、お話をお聞きしました。

話し手
・池田 さやか(COMPASS)
・川村 耕平(BLUE BLUE SENDAI)
・佐藤 良(SENDAI COFFEE STAND)
・大學 善一(大學)
・豊島 聡(SENDAI DEVELOPMENT COMMISSION)

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−−まずSDCの豊島さんから、今回のテラス席設置の目的を教えていただけますか。
豊島
:肴町には、店主の個性の詰まった魅力的なお店が集まっています。その店舗の魅力を外にも染み出させて、日常的に街の風景にできないかと考えた時に、店舗前の歩道の活用に注目しました。お店の個性が自然な形で屋外に染み出して、それが街の個性になり、エリアの魅力を高める。この流れを作るのがテラス席を設置した目的です。社会実験を始めるにあたっては、既にお店の外に向けて何らかの取り組みをチャレンジしている店舗に声を掛けさせていただきました。

−−社会実験以前の、それぞれのお店の前での取り組みについて聞かせてください
川村
:BLUE BLUE SENDAIの店先では、この通りを歩く人が気持ちよく歩けるようにと思って、紫陽花を植え始めたんです。はじめは季節ごとの植物を植えようと思ったんですけど、最初に植えた紫陽花がいい感じだったのと、紫陽花がまとまって咲いている場所って名所になっているところが多いので、紫陽花のまま続けています。
池田
:私たちCOMPASSは、2020年5月に仙台市と連携して、店舗の前の歩道に飲食店様がお弁当を販売できる場所として活用できる「ストリートテイクアウトプロジェクト」を行ました。コロナ禍における飲食店様の営業支援ということももちろんありましたが、私たちは地元の不動産会社として、自社の物件だけでなく、街の公共空間の使い方の提案という意味も込めて行いました。
(下:ストリートテイクアウトプロジェクトの様子)

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−−コーヒースタンドさんは開店当時に外席を設置していましたが、今回のように1年という長い期間設置してみて、いかがでしたか。
佐藤
:ウチはテイクアウトスタイルのお店なので、外で飲む楽しさを感じてほしいと思って、お店を始めた当初に外に置けるものは置いてみようということで、歩道の窪みにイスを置いていたんです。ただ、許可のこととかをあまり考えずにやっていたので、市や警察から注意を受けたこともあり、長く続けられませんでした。でも、豊島さんたちが外席をなんとか形にしようとしてくれて、公園のマルシェを開催している日に許可を取って外に席を置けるようにしたり、その度に安全性とかを検証して管理者と地道に調整してくれて。そういう積み重ねで、今回はオフィシャルに長い期間でテラス席を置けたので、ありがたいです。開店以来ずっとやりたかったことを、ようやく胸を張って席を置けるようになったんだなという感じです。
(下:開店初期の様子)

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−−大學さんは、社会実験期間中にお店の外壁にパラソルも付けましたよね。あれはもともと考えていたんですか。
大學
:そうですね、お店を始めた時からアイディアはありました。ウチのお店自体が変わった作りになっていて、奥の客席と外のカウンターの間に厨房があるので、せっかくなら外も使いたいなと思っていたんですよね。パラソルを付けるのも予算が必要なので、少し様子を伺っていたんですが、今回のテラス席設置の話をいただいて、外席の需要も増えるかもと思ったので、このタイミングで付けることにしました。
(下:パラソル設置前後の写真)

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−−約1年間テラス席を設置してみての、皆さんの感想を教えてください。
大學
:結果から言うと、こんなに長く続けられるんだ、という印象です。マルシェのイベントの時は席を置いても2日間くらいだったので、今回も最初は「やっても1週間くらいかな」と思っていたんです。でもすごく長くやってもらって。ベビーカーを引いたお客さんが、そのままテラス席で一杯飲んでいくこともありましたね。お店の中に入らなくても歩道でそのまま楽しめるっていうのは、いいなと思いました。
(下:大學前のテラス席の風景)

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川村:うちは家族連れのお客さんが座ったり、あとはお店の前を通るおじいちゃんおばあちゃんも休憩がてら座ったりしてくれましたね。広瀬通と青葉通りから晩翠通りをパッとみたときに、通りたくなるようなものがないと通らないと思っていたので、小さなブースを置いたりして、人の目に止まるような工夫をしました。
佐藤
:ウチも子どもやペットを連れてコーヒーを飲むお客さんも多いので、そういうお客さんから好評ですね。ウチではペットにお水をあげるんですけど、ペット連れだとお店や他のお客さんに迷惑かけちゃうんじゃないかという意識があるみたいなんですよね。そういうお客さんも、外の席だとあまり気を使わずに使えるみたいです。
(下:SENDAI COFFEE STAND前のテラス席の風景)

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池田:COMPASSはレンタルスペースなので日によってお店の中身が変わるのですが、飲食店として使われている時は、客席として使われていました。あとはウチの特色でもあるんですが、弊社のビルのテナント様はCOMPASSを空き時間にワークスペースとして使うことができるので、テナント様がテラス席で仕事をするという使われ方もされていました。
(下:COMPASS前のテラス席の風景)

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−−席の出し入れなど、テラス席の運用の課題としてはどんなことを感じましたか。
川村
:席の出し入れは大変ではなかったですけど、開店時間に雨が降っている時に、テラス席の家具をどこに置いておくかというのは、課題としてあるかなと思いますね。
佐藤
:テラス席はやりたくてやっていることだから、席の出し入れは閉店作業の一環だからなんとも思わなかったですね。ウチは日中しか営業していないですけど、冬は外が暗くなるのが早いので、灯りをつけて足元を照らしたり、看板の置き方とかで、歩く人に対してわかりやすくできたら丁寧だったなとは思いました。
大學:ウチは夕方からの営業なので、灯りが必要だなと思って、自分たちでライトを付けましたけど、やっぱり灯りの確保がもう少しできるといいかなと思いますね。
豊島:安全という点でも、雰囲気づくりという点でも、灯りは大事ですよね。
(下:夜の大學前のテラス席の風景)

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大學:あとは、テラス席の使い方をお客さんにもう少し伝えられたらなと思いました。テラス席のお客さんにはメニューの受け渡しは外のカウンター越しでするっていうのとかをもう少し伝えれたら、自転車や通行人に気をつけながらカウンターまで来てもらえたかな、とか。
池田
:私は、テラス席が使えるということを、利用者や通行する人に伝えることが課題だと思いました。外に席を置いても、お使いいただく人が、外で過ごすということにまだ慣れていないところがあるのかなと思います。そういう意味では、ブルーブルーさんやスタンドさんのように、お店のインテリアと雰囲気や世界観が出る什器を置いていると、お店と同じ空間ということが伝わりやすいなと思います。

−−アパレルや物販がメインのお店だと、テラス席がそのまま客席になるというのとも少し違うと思いますが、その中でも歩道を活用する意味というのは、どんなところにあると思いますか。
川村:さっきも話したんですけど、この通りを通りたくなる雰囲気をつくることが大切だと思うんです。そうすると、例えば大學さんの前をたまたま通りかかって、テラス席も置いてあるのに気づいてお店に興味を持って、入ってみようっていうきっかけになったりすると思うんですよ。通りの雰囲気が良くなれば、通りを歩く人が増えて、通りのお店にふらっと入る人が増えれば、お店の売り上げも上がります。そういう雰囲気をつくるには1店舗だけでやってても限界があるので、通りで統一感を持ってやりたいですね。
池田:レンタルスペースとしては、スペースを使いたいという事業者さんに対するアピールの効果もありましたね。もともとレンタルしたいと思っていたけど、テラスも使えるなら尚更借りたい、という声もありました。

−−これからも活動を続けていく上で、店舗のみなさんからSDCさんに期待することはありますか?
大學
:え〜、なんだろうな。。。さっきも言いましたけど、最初は短い期間だけかなって思ってたところを、どんどん許可の期間を伸ばしてもらっているので、その努力はすごくて。
佐藤:引き続き外席を置けるように許可を取ってもらえれば、その中でいい場所を作っていきたいですね。実際、売上げ的にもプラスになっているので、利益の面でもすごく助かってますね。
豊島:お店側のメリットがないと、続かないですからね。
池田:私が感じたのは、自転車の置き場をどうするかですね。地下駐輪場は近くにありますけど、路面店にいいお店を見つけたら、お客さんとしてはふらっと入りたいじゃないですか。でもそのまま置いちゃうと違法駐輪になってしまう。だから、例えば肴町の中に小さくてもいいので、路面に気軽に駐輪できる場所があって、街を歩けるといいんじゃないかなと思います。
(下:COMPASS前のテラス席の風景)

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−−豊島さんは、こうした道路活用が全国的に盛り上がる中で、肴町、晩翠通りの特色はなんだと思いますか?
豊島
:他の大きな街だと、その街にまとまって不動産を持っている大きな会社が、イスやテーブルの出し入れなども含めて運営しているケースもあります。肴町は、市や警察との調整は私たちSDCが担ってテラス席を置ける場所を準備して、日常的な席の出し入れは各店舗にやってもらっています。お店側がやりたいと思っていることを大事にして、協力関係と役割分担が肴町の取り組みの特色だと思いますし、そうやって通りの個性を出していきたいですね。
川村:さっき統一感ということを言いましたけど、お店側もフィールドを先に整えられるのを待っていると、枠組みやルールが先に決まっちゃうので、行政的な画一的な通りになってしまうと思います。だから、できるならこういう話の場で、それぞれがやりたいことを先に出して、それありきで、豊島さんがフィールドを整えてもらほうが、個性がなるべく潰れないのかなと思います。フィールドが先に決められちゃうと、全国で歩道活用をやっている他の街と変わらなくなっちゃうと思うので。
−−各店舗の「これやりたい」ということを拾い上げて、それが継続的に実施できるように枠組みを作っていくということは意識しているところですか。
豊島
:そうですね。枠組みを先に決めちゃうと、イメージも膨らまないですからね。だからちょっと実現が難しそうな、斜め上を行くアイディアをお店から挙げてもらうほうが、通りを育てていくという点では大事ですね。

−−アイディアということだと、こんなことやりたいという妄想はありますか。
川村
:妄想でいいんですよね?海外にあるようなデカいパラソルが通りにバッと並んでたら、かっこいいなっていうのは、ずっと言ってるんですけどね。雨降っていても使えるし、覆われてる場所って居心地いいじゃないですか。
佐藤
:僕はやっぱり、道路との堺の植栽帯を花で雰囲気を良くしたい。通りのアイキャッチを考えた時に、いろんな人に好かれるものと考えると、お花がいいなと思います。植栽帯ってどこも同じような植物が植ってるので、この通りが花で綺麗だったら注目度は上がってくるんじゃないかなと思います。
大學:ベタですけど、イルミネーションみたいなのはやってもいいかなと思いますね。光があると、いいかな。
池田:肴町のお店全員でワイワイやるものができたらいいなと思います。COMPASSでこれから定期的にやっていこうと考えているイベントも、地域のお店と連携してやっていきたいです。また、COMAPSSの裏に新たに作ったCOMPASS terraceはテイクアウトの飲食用に開放したりしているのですが、なかなか浸透しないので、お店同士が顔を合わせる何かをしたりとか、そういうコミュニケーションの場になればと思います。あとはマップを作ったりしたいですね。そういうことを続けて、エリアの魅力を高めていくということを、一緒にやっていきたいなと思います。テラス席も、エリアの魅力を高める手法の一つだと思っています。

全体(軽量)


川村
:たぶん、何やるにしても統一感だと思うんですよ。例えば他の街に行って、この通り歩きたいなって思うのって、武家屋敷の景観が残る街並みとか、表参道のおしゃれな感じとか、統一感があるからだと思うんですよ。統一感というか、コンセプト。だから通りでどういうコンセプトを描いて、その上で何を置くかということを考えるのが大事だと思います。自分が思うのは、一つポイントは、肴町の家族連れっていうのはあると思うので、家族連れで通っても安心安全とか。車と自転車が多いので、家族で安心して通れるとか、居れる場所があるとかは大事かなと思います。そういうコンセプトを、より具体的にまとめていくことを、SDCさんに期待したいです。
豊島
:身が引き締まる思いです(笑)。この一年でできたことも多いので、いろんな面から次のステップへ進みたいです。晩翠通と広瀬通ではできたので、次は街区の中の通りでどういう展開ができるのか、とか。他のお店とも連携して、肴町の他の場所にも広げていきたいですね。テラス席を設置する方法は分かってきたので、その上でエリアの強みを活かしたテラス席の展開を考えていきたいですね。

(取材:2021年3月)

『肴町 NEW NORMAL』
主催:肴町エリアまちづくり協議会企画・運営:SENDAI DEVELOPMENT COMMISSION
参加店舗

COMPASS(伊達HYBRID不動産)
BLUE BLUE SENDAI(instagram)
SENDAI COFFEE STAND(instagram)
大學(instagram)








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