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第16回 大学合格

2021年春、息子は東京大学理科三類に合格した。コロナ禍での受験生活にも関わらず、息子は常に落ち着いていた。不安を口にすることもなく、イライラすることもなく毎日淡々と計画通りに勉強を進めていた。

一方の私はというと、感染への恐怖から外出は必要最低限にとどめ、家族以外とは食事もせず、人と会わない日々を過ごした。毎日ひたすら家事と息子の世話をしていた。身近で陽性者が出ると緊張が走った。無事に受験を乗り切れますように、と毎日のように祈っていた。

インターネットで合格が分かった瞬間、私は体中の力が抜けたようになり涙が溢れた。息子は「信じられない」と呟き震える手で何度も受験番号を確認した。その後すぐ学校へ合格報告の電話をすると、担任の先生は泣いて喜んでくれた。同級生から、おめでとうのLINEがたくさん届き、私は夢の中にいるようなふわふわした感覚になった。

しかし喜びに浸ったのは数日で、それからは諸々の手続きや住まい探し、引っ越しの準備と慌ただしく過ごした。全ての作業が終わりホッとした次の日、私は熱を出しベッドから起き上がれなくなった。それまで溜め込んでいた緊張やストレスによる毒素?が体から放出したのだと、自分では思っている。

3月末、息子は笑顔で東京へと旅立って行った。がらんとした息子の部屋に入ると、胸が締め付けられたようになり涙が込み上げてきた。受験生の頃、息子は自分の部屋に入りドアを閉める時たまたま私が近くにいると、ニッコリ微笑んでそーっと静かにドアを閉めていた。バタンと強く閉めると私を不快にさせてしまうのではないか、と気を配っていたのだろう。息子の部屋を見る度、なぜかその時の光景が強く蘇ってきたのだった。


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