ガイドに興味を持ちすぎるお客様

個人客とグループ客はガイドに対する態度が違います
 私は毎年、FIT(個人客)とグループツアーの両方をやっています。
 先にも述べましたが、FITとグループツアーのお客様は違います。FITは少人数でガイド料金を負担する訳なので、グループツアーよりも富裕層が多いです。私に言わせれば、富裕層のガイドをしている時は、世の中の様々な格差を肌で感じる数日間となります。
 FITツアーの期間は私の場合、1日からせいぜい5日くらいのガイド期間になります。「私の場合」というのは例外もあるという事です。
 限られたガイドさん達になりますが、FITスルー専門でやっておられる方もいます。この場合は、もし、その少人数のお客様と関係が悪くなってしまうと、仕事を続けるのが難しくなり、ガイド交代という最悪の事態になってしまいます。高い知識と人間力が求められます。
 一方グループツアーはガイドの生活レベルに近い方々の集まりです。14日くらいのツアーであれば、一人のガイドが全ての行程を受け持つ事になり、これが業界で通常「スルー」と言われる業務です。

グループ客はガイドのプライベートに切り込んでくる
 スルーで旅行期間毎日顔を合わせていると、当然ながら様々な質問をされます。旅行に関係した質問なら丁寧にお答えします。それが業務ですから。しかし、参加者によっては、しきりにガイドにプライベートな質問をしてくるお客様がおられます。


 ガイドは外国人観光客が初めて会う日本人であり、スルーとなればその存在感はとても大きいので、聞きたくなる気持ちはわかります。
 しかし、ガイドにもプライバシーがあり、聞かれて気持ちよく答えられる質問ばかりでない場合もあるのです。
 大抵の質問は「子供はいるか?」で始まります。この質問はYes.を前提としていて、次の質問も決まっています。「子供はいくつ?」。この組み合わせはつまり、ガイドの年齢を推し量る為です。ガイドの平均的な年代は50代ですので、子供は成人している場合もあります。その場合はさらに「何をしている?」という質問がきます。もうこの辺に来ると、「あなたに関係ないでしょ!」といいたくなります。しかしお客様は「俺らはお前に金払ってるんだから答えるのが当たり前だろ。」といわんばかりのプレッシャーをかけてきます。子供がいると分かると、「夫の職業は?」と聞いてきます。
 今日会ったばかりの人にそんな質問します?と心の中で思いながらとりあえず答えます。

質問への違和感はなぜ

 
 率直に言えば、これらの質問はいずれも私はNGだと思います。「子供はいるか」と言われて「いません」というガイドもいます。その「いません」には様々な意味が含まれていると、質問者は感じてくれるでしょうか。
 この質問には、まず、全ての女が結婚しているに違いないという思い込みが見て取れます。様々な理由から結婚しない事を選ぶ人がいるという想像力がないのです。結婚していても子供を持たない事を選んだガイドの友人もいるし、子供ができないまま、最後のキャリアとしてガイドになった友人もいます。私の親の世代は「結婚して子供を持つのが女の幸せ」と言って憚りませんでした。その昭和の考え方を、西洋から来た私のゲストが体現しているのを目の当たりにすると、いつも強い違和感を感じます。
 子供の職業を聞く人は、自分も同じくらいの子供がいる人です。理由は後ほど述べますが、これも聞かれたくない人がいるであろう質問です。若い人に必ずしも優しくない社会で、他人に誇れるほど成功している我が子を持つ人はどれほどいるのでしょうか。障害を持つ子かもしれないし、病気で働けない状況かもしれません。引きこもりかもしれないし、既に亡くなってしまったかもしれません。 
 
 配偶者の職業を聞く意図のその裏側には、「君は家族を養えるほど稼いでないだろう」という上から目線を感じます。「ガイドは堅気の職業じゃないでしょ」「趣味の延長で楽しくやってお小遣い稼ぎしてるんでしょ」というような、ガイドという職業への侮蔑、女性の仕事に対する過小評価を感じます。
 これだって、「夫は働いていません」という答えが返ってきたら質問者はなんと答えるでしょうか。この質問の裏側には「男性は働いて家族を支えるもの」という思い込みがあります。
 
 私はガイドになってから何度となくこの様な質問を受けてきました。その度に嫌悪感を感じながら、自分の現状を開示してきました。
 私が思うには、NG質問をしてくる方々には共通の境遇があります。自分が努力をして成功し、「普通の」家庭を持ち、子供達は自立している。ガイドも同じ境遇である事を期待しての質問ととれます。
 しかし、私はそれ以上に底意のある質問に感じます。質問をしきりにしてくる方は、自分の職業に誇りを持っています。それはいい事ですが、なぜガイディングに忙しい私にそれをいいたいのでしょうか。また、自分の子供が成功している事もわざわざ知らせてくれます。
「結婚して孫もいるんだよ」と頼んでいないのに写真を見せてきます。私は正直そのお客様の家族に興味はありません。業務で忙しいのです。ガイドは非常に拘束性の高い仕事です。
 もちろん私もいい大人ですから、「素晴らしいご家族でお幸せですね」「お孫さんかわいいですね」といいますが、ハラワタは煮えくりかえっています。

 
プライベートに立ちいらない方々もいます
 不思議な事に、富裕層のお客様はほとんどこのような質問はされません。たまにされる方もおられますが、その問いかけ方には、「君に幸せであってほしい」という希望を含んだ温かみを感じます。子供や夫の職業を聞く人は100人に3人くらいです。富裕層の方々は、自分より恵まれている人々は、そうザラにはいない、という事がわかっているのです。
 
 女性一人のお客様も時々おられます。そういうお客様もあまりプライベートな質問はしません。理由は推して知るべしとしておきましょう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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