【日記】豪遊してみろメロス

　私は社会不適合者だ。この頃、風邪をひいた。
　とある休日に起き上がることができず、足を高いところに置いて寝転がっていた。

「ちくしょう！　私が社会不適合者なばっかりに！　貴重な休日に出かける気が起きない！」

　気が向いたので熱を測ったら38度を超えていた。出かけようと思わない理由は体調にあった。気力の問題じゃなくてよかった。

　さて、問題は仕事である。つい先日、私ごとでお休みを頂戴していたのでお休みを取りづらかった。とはいえ38度の熱があっては仕事にならなそうだった。
　結局1日だけ休んでロキソニンをチャンポンし、翌日以降、多少の熱を堪えて出社した。おかげさまで熱は収まり、代わりに風邪を拗らせた。

　本当は週末に兵庫へ行く予定だった。あるゲームの舞台化を見るために。とってもいい席が当たっていた。前から5列目のど真ん中である。クゥウ〜！！！！！　人生ままならねえ！！！！！

　私は激怒した。必ず、この雪辱を晴らさねばならぬと決意した。私には日本銀行券の価値が分からぬ。私はありふれた社会人である。ツイッターを眺め、実況動画と数々の漫画を読み遊んで暮らしてきた。
　今日未明、私は旅行キャンセルで浮いた日本銀行券を握りしめてデパ地下にやってきた。私には子どもはおろか伴侶もいない。独身貴族だ。手に握りしめた福沢諭吉で、目に留まったもの全てを家に迎え入れる予定だった。

　結果は惨敗だった。

　そもそも食べたいものがなにか分からない。食べたいものってなんだ？　と思いながら地下を5周した。もはや不審者である。
　しいて言えばガパオかな……。自分の欲に忠実になるというより、自分の欲を創造ークリエイトーして100円引きのガパオ弁当を買った。
　その他もろもろ、たとえばビタミンが足りてないのが風邪を拗らせた原因と見てドライフルーツを、ついでにサラダ……などちまちましたものをまとめて買った。

　そして家に突入した。買い込んだものを並べて、愕然とした。食べたいものがひとつもないからだ。Youはなにしにデパ地下へ？

「社会不適合者。」私は目についたゴミを取りながら言った。贅沢をして憂さ晴らししようというなら、鰻重のひとつでも買えばよかったのだ。
　1人で鰻重などという選択肢ははなからなかった。私は贅沢をする以前にケチだった。
　根がケチであるせいで、頭ひとつ抜けていそうな鰻重のお弁当屋さんを一瞥もしなかった。目の前を5度も通ったのに、その存在を思い出したのは帰宅後だった。
　社会不適合者は、ひどく赤面した。